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超伝導量子ビット鎖で純粋デフェージングを漸近的に抑制、理研などが理論モデル

(MARIOLA GROBELSKA/Unsplash)[写真拡大]
理化学研究所(理研)やイタリアのメッシーナ大学などの国際研究チームは、超伝導量子ビット間のXX結合とYY結合を交互に配置し、複数の物理量子ビットからノイズに強い論理量子ビットを構成する理論モデルを発表した。結合強度または量子ビット数を増やすと、モデル上で論理量子ビットの純粋デフェージング率がゼロへ近づき、緩和率も単一の物理量子ビットの半分へ近づくという。論文は2026年8月15日付で学術誌『npj Quantum Information』に掲載された。
今回の成果は理論解析と数値シミュレーションに基づく。提案を構成する超強YY結合は実験的に確立されておらず、まずフラックス量子ビットを使った回路でノイズ抑制効果を検証することが次の課題となる。
■純粋デフェージングと緩和を抑える論理量子ビット
量子ビットのコヒーレンスを損なう過程には、量子状態間の相対的な位相が乱れる純粋デフェージングと、量子ビットが環境へエネルギーを放出する緩和がある。一般にコヒーレンス時間T2には、純粋デフェージングだけでなくT1緩和の影響も含まれる。今回の研究がゼロへ抑えられると予測したのは、このうち純粋デフェージングに対応する成分である。
量子誤り訂正(QEC)は、複数の物理量子ビットに情報を符号化し、測定で得られる誤りの兆候を使って論理情報を保護する。一方、今回のモデルは、QECの前段となるハードウェア層で物理的なノイズ感受性を低くするアプローチだ。QECそのものを置き換えるのではなく、訂正対象となるエラーを減らすための設計原理として位置付けられる。
研究チームは、直列に並べた3個以上の超伝導量子ビットを想定し、系のエネルギーが最も低い2つの固有状態を論理量子ビットの「0」と「1」に割り当てた。これらの状態が環境ノイズにどの程度反応するかを、純粋デフェージングと緩和に対する感受率から評価した。
■XX結合とYY結合を交互に配置
提案モデルでは、隣接する量子ビットの結合方向をXX、YY、XXという順番で交互に切り替える。XXとYYは、量子ビットを表すパウリ演算子のどの成分を通じて隣接量子ビットが相互作用するかを示している。
すべての隣接量子ビットをXX方向で結合する量子イジングモデルでは、強い結合によって純粋デフェージングへの感受性を下げられる一方、特定の緩和チャネルへの感受性が増大する。研究チームが解析した交互XX・YYモデルでは、相互作用ハミルトニアンが持つ追加の対称性により、純粋デフェージングと緩和の双方に対する感受性が低下した。
計算上は、量子ビット間の結合を強くするか、鎖を構成する物理量子ビットを増やすほど、純粋デフェージングへの感受率がゼロへ収束する。緩和率についても、単一量子ビットの半分へ近づくとされた。これは有限の結合強度に到達した時点ですべての位相雑音が突然消えるという意味ではなく、モデル上の強結合極限または鎖長を増やす極限で得られる漸近的な結果である。
解析では、各量子ビットのパラメーターが同一で、方向ごとのノイズスペクトル密度も量子ビット間で一様であることなどを仮定している。製造ばらつきや実際のノイズ環境を含む回路で同様の抑制が得られるかは、実験による評価が必要になる。
■超強結合領域で高まる保護効果
超強結合とは、量子ビット同士や量子ビットと共振器との結合強度が、それぞれの固有周波数に対して無視できない大きさとなり、弱結合で用いられる近似では相互作用を十分に記述できなくなる領域を指す。
今回のモデルでは、結合強度が量子ビットの周波数と同程度またはそれを上回る深い超強結合領域まで計算されている。この領域では、交互XX・YY相互作用が持つ対称性によるノイズ保護が強まり、通常のXX結合鎖と比べて局所的な対称性破れの摂動に対しても感受率の変化が小さくなるとの結果が得られた。
研究チームは、4個の量子ビットからなる論理量子ビットについて、環境との相互作用を含む時間発展も数値計算した。設定した条件では、単一の非相互作用量子ビットと比べて純粋デフェージングと緩和の進行が遅くなり、コヒーレンス保持に利点が生じた。
■単一量子ビットゲートと2量子ビットゲートも解析
ノイズから保護された量子状態は、外部からの制御にも反応しにくくなる場合がある。そこで研究チームは、提案する論理量子ビットに対して単一量子ビットゲートと2量子ビットゲートを実行できるかを、オープンソースの量子系シミュレーションライブラリ「QuTiP」を使って検討した。
単一量子ビットのXゲートとYゲートは、鎖を構成する物理量子ビットの一つにパルスを与えることで実装する。Zゲートは物理量子ビットの周波数を変調して実行し、2つの論理量子ビット間のゲートは、それぞれに属する物理量子ビットを誘導結合させて実現する構成を想定した。
3個の物理量子ビットからなるモデルを用いたシミュレーションでは、単一量子ビットゲートと2量子ビットゲートの平均忠実度はいずれも99.99%となった。この値はゲート自体の内在的な性能を調べるため、デコヒーレンスを計算から除いた条件で得られたものである。実際の回路におけるゲート性能を示す測定値ではない。
■実験に必要な超強YY結合
研究チームは、3個のフラックス量子ビットからなる検証用回路を提案している。最初の2個を共有ジョセフソン接合によって誘導結合し、XX相互作用を発生させる。続く2個は共有キャパシターを介して容量結合し、YY相互作用を形成する構成だ。
フラックス量子ビットを使った超強XX結合は、既存の超伝導回路技術を発展させることで構成できる。一方、量子ビット同士、または量子ビットと共振器との超強YY結合については理論的な回路提案があるものの、論文執筆時点では実験的に開拓されていない。
超強YY結合を回路上で生成し、予測されたノイズ感受性の低下を測定することが、提案を検証する最初の段階となる。寄生結合や素子ごとのパラメーター差、局所ノイズが対称性による保護に与える影響も、実機で確認すべき重要な項目だ。
■トランズモンへの展開は将来課題
今回示された具体的な回路案は、超強結合を構成しやすいフラックス量子ビットを対象としている。研究チームは、超伝導量子コンピューターで広く研究・利用されているトランズモンに、このノイズ保護方式を拡張することも将来の研究課題に挙げた。
トランズモンでは回路構造やノイズ特性がフラックス量子ビットと異なるため、同じ交互結合をそのまま移植できるとは限らない。まず提案回路で理論予測を検証し、その後、ほかの超伝導量子ビット方式に適した結合構造を探ることになる。
交互XX・YY結合の研究が示したのは、個々の量子ビットだけでなく、複数量子ビットの相互作用構造そのものをノイズ保護に利用できる可能性だ。量子誤り訂正と組み合わせるハードウェア保護の新たな設計指針として、実験段階への進展が注目される。
■注目ポイントQ&A
●デフェージング率がゼロになるとは、T2が無限になるという意味ですか?
研究でゼロへ収束するとされたのは、モデル上の純粋デフェージング率です。一般的なT2にはT1緩和の影響も含まれるため、純粋デフェージングが抑えられても、論理量子ビットのコヒーレンスを損なう過程がすべてなくなるわけではありません。
●どのような条件で純粋デフェージングが抑えられますか?
XX結合とYY結合を交互に配置し、結合強度または鎖を構成する量子ビット数を増やすと、計算上の純粋デフェージング感受率がゼロへ近づきます。解析では、量子ビットのパラメーターやノイズスペクトル密度が一様であることなどを仮定しています。
●ゲート忠実度99.99%は実験値ですか?
いいえ。3個の物理量子ビットで構成したモデルについて、デコヒーレンスを除外して計算した内在的な平均ゲート忠実度です。実際の回路では、制御誤差やノイズ、素子のばらつきなどを含めた検証が必要です。
●この手法は量子誤り訂正を不要にしますか?
不要にはしません。純粋デフェージングへの感受性をハードウェア層で下げ、量子誤り訂正が扱う物理エラーを減らすための相補的な設計です。緩和を含む残りのエラーへの対処は引き続き必要です。
●実験に向けた最大の課題は何ですか?
提案の中心となる超強YY結合をフラックス量子ビット間で実現し、予測されたノイズ抑制を測定することです。その後の課題として、トランズモンを含むほかの超伝導量子ビット方式への拡張があります。
元記事: Superconducting Qubit Chain Drives Dephasing to Zero Without Error Correction
※この記事はTech Timesから提供を受けた記事を日本向けに翻訳・編集したものです。
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