ソフトバンクGは買いか、5兆円利益の中身とAI依存リスク

2026年5月14日 13:45

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 5月13日、ソフトバンクグループ(SBG)が発表した2026年3月期連結決算は、大きな話題となっている。純利益は前期比約4.3倍の「5兆22億円」。日本企業の過去最高益を更新したというニュースがメディアを駆け巡り、「トヨタ超え」「AI時代の覇者」といった景気の良い言葉が独り歩きする。

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 しかし、投資家としてこの数字を眺めると、手放しで喜ぶにはあまりに危うい「虚と実」が浮かび上がる。本稿では、初心者が誤解しやすい「利益の正体」を解き明かし、2026年の投資戦略としてのSBGの向き合い方を整理する。

■1. 売上7.8兆円で利益5兆円?「異常値」のカラクリ

 まず、投資家が最初に抱くべき違和感は、その利益率だ。売上高約7.8兆円に対し、純利益が5兆円。これは純利益率60%を超える計算になる。通常の製造業や通信事業では、どれほど効率化しても通常は発生しない水準だ。

 この異常値の正体は、本業の稼ぎ(営業利益)ではなく、保有する投資先の価値が帳簿上で上がったことによる「評価益」だ。会計上のルールでは、未上場企業であっても新たな資金調達時の時価などをもとに、保有資産の価値を時価評価し、増えた分を「利益」として計上することが認められている。

 つまり、この5兆円の多くは、財布の中に実際に入ってきた現金(キャッシュ)ではなく、「時価評価された含み益が上がった」状態なのだ。

■2. OpenAI頼みの決算と「含み益」の危うさ

 今回の過去最高益を牽引した主因は、米OpenAIの評価額上昇だ。AIインフラの覇権を握るOpenAIの時価評価が跳ね上がったことが、SBGの決算書を劇的に塗り替えた。

 ここで掲示板やSNSで議論される「絵に描いた餅」問題に直面する。評価益(含み益)は、実際に売却して「実現益」に変えるまでは、市場環境次第で大きく変動する。

 2026年現在、AI関連企業のバリュエーションは極めて高い水準にある。競合するGoogleやMetaとの開発競争、あるいは政府によるAI規制の進展次第では、評価額が一転して下落するリスクを常に孕んでいる。

 一度評価損に転じれば、今度は「巨額赤字に転じる可能性」として逆回転を始めるのがSBGという投資会社の宿命だ。

■3. 「借金王」の真実:負債額より重要な「LTV」という指標

 「SBGは借金が多くて危ない」という声も根強くある。確かに巨額の社債や借り入れは存在するが、孫正義氏が最も重視し、投資家が注目すべき指標はLTV(Loan to Value:時価純資産比率)だ。

 これは「保有資産の価値に対して、純有利子負債がどれくらいあるか」を示す指標だ。SBGはこれを通常25%未満に抑える方針を徹底している。

 つまり、借金の額そのものよりも、担保となるArm(アーム)やOpenAIなどの「資産の価値」が健全であるかを見極めることが、倒産リスクを測る重要な指標の一つだ。現在は、半導体設計のArmがAIサーバー需要で時価総額を伸ばしている限り、財務的な防波堤として機能しうるが、資産価格に依存していると言える。

■4. 「課税所得を大きく圧縮している」論争への冷静な視点

 掲示板で繰り返される「これほど利益を出して税負担が大きく抑えられているのは不当だ」という批判についても、制度的な理解が必要だ。

 投資会社であるSBGは、過去に巨額の評価損(投資の失敗)を計上した際、税務上の「繰越欠損金」を積み上げている。これを利益と相殺することで、法的に認められた範囲で税負担を圧縮しているのが実態だ。

 脱税ではなく、会計と税務のルールの結果であることを理解しなければ、感情的な書き込みに投資判断を歪められてしまう。

■5. 投資戦略:SBG株は「孫正義の目利き」への信託

 SBGという銘柄は、トヨタやNTTのような「事業の安定」を積み上げる会社ではない。孫正義という一人のビジョナリーが、AIという人類史上最大の転換点に「極めて集中度の高い投資」する、その賭けに乗るためのチケットだ。

 ・長期の視点: 人工汎用知能(AGI)が社会を変えるという未来に賭けるなら、Armを中核としたポートフォリオは極めてユニークな構成の魅力がある。

 ・短期の視点: 評価益ベースの決算は、ボラティリティ(変動)が極めて大きく、NISAで安定運用を目指す層や安定運用志向には不向きだ。

■結論:数字を「分解」して付き合う

 「純利益5兆円」という見出しに惑わされず、その中身が「キャッシュを伴わない評価益」であることを理解すること。そして、その評価の源泉であるAIセクター全体の熱量を冷徹に観察することが重要だ。

 2026年のSBGは、AI時代のAIバリュエーションを強く反映する構造だ。その構造(虚と実)を正しく理解した投資家だけが、この超ハイリスク・超ハイリターンな銘柄と健全に付き合うことができる。(記事:岩谷栄一郎・記事一覧を見る

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