富士フイルム、米バイオテックのシェナンドーア買収 細胞培養事業を強化

2022年3月24日 11:01

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 富士フイルムは23日、細胞培養などに用いる「サイトカイン」の開発・生産を手がけている米バイオテック企業Shenandoah Biotechnology(シェナンドーアバイオテクノロジー)を買収すると発表した。米国子会社であるFUJIFILM Irvine Scientific(フジフイルム・アーバイン・サイエンティフィック、FISI)を通じ、3月18日(現地時間)にシェナンドーアの発行済全株式を取得する売買契約を締結。買収完了時期は3月末の予定で、買収額などは明らかにされていない。

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 サイトカインは、免疫系細胞から分泌されるタンパク質の一種。細胞間の相互作用に関与し、細胞の増殖・分化・機能発現を促す。シェナンドーアでは、主に大腸菌・哺乳細胞を用いてサイトカインなどのリコンビナント(遺伝子工学的手法で作製した)タンパク質を開発・生産。2006年の創業以来、医療薬開発やがん研究、細胞生物学などの研究用として提供してきた。

 近年では、培養した細胞などを移植して疾病治療を行う「細胞治療薬」の市場が拡大。富士フイルムによれば、サイトカイン市場は、現時点で年率10%以上の成長が見込まれているという。

 FISIは、研究者や臨床医を対象とした細胞培養用の培地(育成のための養分などを含む液状や固形の物質)製品の開発や、再生医療・細胞医療などの事業を手がけている。今回の買収により、富士フイルムはFISIの培地とシェナンドーアの技術を組み合わせ、細胞培養関連製品の研究開発と顧客提案力の強化を目指す。今後は細胞治療薬の研究開発や製造支援を行う事業を拡大していくという。

 富士フイルムにとって、細胞治療薬はヘルスケア事業拡大の一翼を担う新事業にあたる。2022年1月には、米国バイオベンチャーAtara Biotherapeutics(アタラ・バイオセラピューティクス)の細胞治療薬製造拠点の買収を発表(買収額約1億ドル、買収完了予定は22年4月)。細胞治療薬事業への本格参入などを表明している。今後は、細胞治療薬のプロセス開発から治験薬製造・商業生産までの受託サービス提供を目指す方針だ。

 細胞治療薬の下地となるのが、サイトカインを含めた細胞培養技術や培地開発技術。その技術は、人体内の酵素や抗体などから創製するバイオ医療薬の開発に広く活用できるため、富士フイルムはライフサイエンス事業の柱の1つとして事業推進してきた。細胞培養関連製品の開発等強化に寄与する今回の買収も、その流れの1つと言える。

 22年第3四半期決算では、ライフサイエンス事業は売上高885億円と前年比20.7%増となった。富士フイルムは今後、さらなるシナジー最大化や経営資源の投入などを行い、2025年度には同事業で売上高1,000億円以上を目指すという。(記事:三部朗・記事一覧を見る

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