フェニックスバイオ、次世代医薬品開発で需要増 化学品、食品分野もターゲットにさらなる売上増加を目指す

2021年12月20日 16:28

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記事提供元:ログミーファイナンス

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島田卓氏(以下、島田):株式会社フェニックスバイオ社長の島田卓と申します。本日はどうぞよろしくお願い申し上げます。当社の会社概要・事業内容に続き、事業の現況と今後の展開、研究開発の状況、業績の推移といったかたちでお話を進めたいと思います。

経営理念/会社概要

島田:まず、会社概要と事業内容についてのお話です。当社は、広島県東広島市に本社を持っています。スライド右上の写真が本社の全容です。その下に動物実験の設備などの写真がありますが、本社機能と動物の飼育の設備、そしていろいろな実験の設備などを本社に置いています。その他、子会社として北米に3社を置いています。こちらについてはまた後ほど紹介していきたいと思います。

事業内容

島田:事業内容の紹介です。スライド左側に「PXBマウス」「PXB-cells」と書いてあります。これが当社の唯一の商材です。当社は2002年3月に創業して来年で20年になるのですが、この20年間、この商材でずっと事業を続けてきました。

このマウスのどのようなところが特殊なのかをまた後ほど紹介しますが、実際の事業としては、これを製品としてお客さまに販売しています。お客さまは製薬企業が中心ですが、各種の公的な研究機関や大学など、国内外のお客さまに提供しています。

そしてもう1つ、受託試験というものがあります。これは例えば製薬企業に新しい薬の候補となる物質があり、それを当社の「PXBマウス」で試してみたいという時、その物質を送ってもらい、当社で実験して結果を返すかたちでの受託試験サービスを行っています。

また、自社での研究開発もこの「PXBマウス」「PXB-cells」を使って行っていますが、共同研究先として製薬企業や研究機関、大学などがあり、彼らの力を借りて開発を進めています。

PXBマウス(Phoenix Bio Mouse)とは

島田:「PXBマウス」とは何かを紹介します。「PXBマウス」のPXBという3文字は、「Phoenix Bio」から取ったものです。簡単に言うと、スライドの一番下にある「ヒトの肝臓を持つマウス」です。ただ、これを作るのはなかなか簡単ではありません。

マウスではあるのですが、免疫不全の性質を持っているマウスと肝障害の性質を持っているマウスを掛け合わせ、両方の状態を持った、生後3週間くらいの小さな仔マウスにヒト肝細胞を移植します。このヒト肝細胞というのは正常なヒトの肝細胞で、事故などで亡くなった方からご提供いただいた、非常に貴重な肝細胞です。

この子どものマウスは肝障害を持っているため、だんだん大きくなっていっても自分で肝細胞を増やすことができませんが、その代わり、中に入れたヒトの正常な肝細胞が増えていきます。そして、スライドには「11weeks」とありますが、3ヶ月くらい経って成体(adult)になった時には立派にきれいな肝臓になっているのですが、そのほとんどがヒト肝細胞になっているというわけです。

飯村美樹氏(以下、飯村):だから、免疫不全と肝障害のマウスの仔マウスでないといけないのですね。

島田:おっしゃるとおりです。やはり正常な免疫があると、ヒト肝細胞が排除されてしまいます。

飯村:異物として、ということですね。

島田:そのとおりです。免疫不全の状態の動物を飼うことは非常に難しいことです。非常にクリーンな条件で飼わなければなりません。当社のように大規模にこれを飼育している設備は、世界的にもほとんどないのではないかと思います。こうして作られた「PXBマウス」を、いろいろなかたちでお客さまに使ってもらい、事業を進めています。

肝臓の働きと薬

島田:では、肝臓がなぜ大事なのかを少し説明したいと思います。肝臓が大事だということは、みなさまもなんとなく知っていると思います。肝臓の主な機能には、いろいろなものの代謝や胆汁を作って脂質を吸収することがあります。

そしてもう1つが、解毒することです。例えば、アルコールを飲んだ時に肝臓で解毒してくれるといったことはよく知られています。これを薬に置き換えて考えると、口から入れたものであっても注射で体に入れたものであっても、まず肝臓に薬が到達します。その後、肝臓で血液に乗って、体中をぐるぐると薬が回るわけです。

そうすると、いつしか患部、つまり病気のあるところに薬が到達してそこで作用します。そうしてまた血液に乗ってぐるっと回り肝臓に戻ってきます。これを何度も何度も繰り返すのです。そうして繰り返す間に、だんだん代謝が行われるようになります。

例えば、分解するだけではなく、薬の中にある「作用するが毒性の強い部分」を、いろいろなかたちでたんぱくで保護していくなどして解毒していきます。そして、最終的には便や尿として体外に排出されるのが薬のライフサイクルであり、そこに肝臓が関わっています。

ここで肝臓が大事な理由は、そこをよく通るというだけではなく、一定の時間で薬を体外に排出してくれないと薬がずっと体の中に残ってしまうためです。もう病気が治っているのに体の中に薬が残ると、もう毒でしかありません。

したがって、あまり早すぎても困りますが、ある程度の時間でうまく代謝して体外に排出されることが大事だということです。ただ、何度も肝臓を通るということは、肝臓で副作用が出やすいということにもなります。いろいろな薬を飲んだ時に「肝機能は大丈夫ですか?」とよく聞かれるのは、実はそこに理由があります。

したがって、当社のマウスの肝臓がヒト型になっていることは、薬の開発にとって非常に大きな意味があります。

新薬開発と当社事業領域

島田:では、その薬の開発はどのようなプロセスを踏んでいくのかと、当社の製品がどのように使われるのかをこのスライドで紹介したいと思います。「新薬が完成するまでには、長い年月と多額の費用が必要である」と書いてあります。スライドの中段に年数が書いてあり、左から右に向かって開発されていくわけですが、2年から3年、3年から5年、3年から7年と、どれほど短くても10年、長ければ20年くらいかかります。

当社の「PXBマウス」は、スライドのちょうど中央にある非臨床試験で使われます。ヒトで試すのが臨床試験や治験と言われるもので、非臨床試験はそこに入る前に有効性と安全性を確認するものです。新薬の開発は長い年月がかかるというだけではなく、この非臨床試験でうまくいっても、臨床試験で断念するケースが非常に多いです。

理由はもちろんいろいろなものがあるのですが、動物実験では安全だったのにヒトに投与してみると毒性が出てきたり、あるいは肝機能異常が出たりといったケースが非常に多いのです。それゆえ、もちろん予測でしかないものの、薬を開発する上では、非臨床試験でヒトで試したときの予測をしっかりと行なうことが非常に重要であるということです。

例えば最近、認知症の薬がアメリカで認証されたことが非常に話題になりましたが、そのような「こういう領域、こういう疾病に対する薬を作ろう」という取り組みについては、実はけっこういろいろな製薬会社が並行して開発を進めており、どこが一番先に市場に出すかが大事です。

それゆえ、例えば臨床試験で失敗した時に「次の候補のものを持っていますよ」と言っても、トップランナーでいたのに2番手、3番手になってしまうことがあります。そのようなすごい競争があるわけです。非臨床試験でヒトに対する効果の予測がしっかりできることが、製薬企業にとってすごく重要であることがわかってもらえたかと思います。

PXBマウスが必要とされる理由 ①

島田:「非臨床試験で我々のマウスが使われる」と説明しましたが、もう少し詳しく、どのような理由なのかをお伝えしたいと思います。新薬という言葉をぱぱっと言ってしまうのですが、新薬とは何かと言いますと、まだ誰もヒトが飲んだことがない、注射されたことがない「物質」のことです。

すでに一度でもヒトが飲んで安全だということがわかっていれば、もう動物試験をする必要はありません。ゆえに、まだヒトが飲んだことがない、注射されたことがないようなものを、体に入れて大丈夫なのか確かめなければなりません。しかし、それも理論的に考えるだけではなかなかわかりません。

また、昨今は動物愛護の問題から「なるべく動物実験はやめましょう」という話はあるのですが、薬においては、動物実験を飛ばしてヒトに臨床試験(治験)を始めて、何か大きな問題が起こったら大変なことになります。したがって、ある程度は動物を使った実験で確かめていかなければなりません。

スライドにネズミとサルの絵が書いてありますが、いくら予測しようと思っても、彼らはあくまでネズミやサルであって、ヒトではないという問題があります。そこで我々のマウスは、あくまでマウスではあるのですが、先ほどお伝えしたように肝臓がヒト型になっており、通常の動物よりはかなりヒトに近いデータを得られることが期待できます。

これにより、製薬企業も臨床試験で脱落したり予期せぬことが起こるリスクを少しでも減らせるだろうということで使っています。

坂本慎太郎氏(以下、坂本):「PXBマウス」について教えてもらいました。7ページで話していたとおり、非臨床試験でしっかりと効果を確認することで将来のヒトへの治験がスムーズに行われるということでしたが、この非臨床試験で「PXBマウス」を使った実験を行ってよい結果が出ると、すぐ次の臨床試験・承認申請のステージに行けるのでしょうか? それとも他の動物でも試さないと、そこに行けないのでしょうか?

島田:治験を開始するためには、本当に非常に広範なデータを付けて当局に申請しないと治験の許可自体が下りません。日本は厚労省、アメリカはFDA、ヨーロッパはヨーロッパの当局でそれぞれの基準があるのですが、とにかく「こういったデータを付けなさい」という規則がものすごくたくさんあり、そのデータを全部付けなければなりません。したがって、「PXBマウス」でよい結果が出たからといって、それだけですぐに治験の申請をできるというものではありません。

坂本:「PXBマウス」が開発される前は、どのような動物で臨床試験をされていたのでしょうか? おそらくマウスはマウスで使っていたと思うのですが、そのあたりの環境を教えてください。

島田:げっ歯類としては、やはりマウス・ラットがよく使われています。犬もそうです。そのほか、よりヒトに近い動物としてサルを使うケースもあります。先ほどお伝えしましたように、我々の「PXBマウス」だけでデータが出るわけではないため、製薬企業は今もそのような実験動物を使っていろいろなデータを取っています。

坂本:また、マウスは主にどの疾病の臨床に使われるのですか? 肝臓は薬が全部通るため、ここが「PXBマウス」の強みだと話していましたが、どのような薬でもやはり動物実験は必要なのでしょうか?

島田:肝臓がヒト型になっていると話すと、まず「肝臓のお薬を作るためですね」と言われることが多いですが、先ほどお伝えした肝臓を通るという意味では、どのような薬であっても同じように肝毒性が出るリスクはあると考えられます。毒性や安全性という観点からすると、どのような病気に対する薬なのかは関係なく、広くいろいろな薬に使えることになります。

PXBマウスが必要とされる理由 ②

島田:我々の「PXBマウス」が必要とされる理由の2つ目として、同じドナーの肝細胞を持つマウスを繰り返し作ることができることが挙げられます。これは先ほどお伝えしたように貴重な肝細胞で、それを少しだけ仔マウスに移植すると、たくさんの仔マウスにドナーである同じヒトから取られた肝細胞を移植することができ、たくさんの同じ肝臓を持ったマウスができることになります。

これがなぜ大事かと言いますと、先ほどお伝えしたように、製薬企業は治験の申請をするために膨大なデータを取り、しかもそれが統計学的にきちんと評価できて有意差があるといったことを当局に示さないといけません。そうなると、品質の揃ったものを一度にたくさん供給してもらう必要があります。

よくあるのが、新しい動物モデルの開発が実験室レベルでうまくいったものの、3匹ほどしかおらず、しかもその品質がばらばらだというケースです。それでは製薬企業が使えないのですが、我々の動物の場合は広島の本社だけでも年間4,000匹を生産しています。

一度に3匹でよいケースもありますが、1試験で100匹使いたいというケースもあります。そのような時に、まとめて100匹、しかも品質のそろったものを提供できる体制を作ることが製薬企業に対しては非常に重要な点になります。これについて、20年かけて徐々に生産規模を上げていき、お客さまの要望に応えることができるようにしてきたことが当社の強みになります。

坂本:先ほど「100匹注文が入った」という話もありましたが、1つの新薬を作るのに、「PXBマウス」はどのくらいのマウスを使うのですか?

島田:当社のマウスですと、最低3匹でとりあえずデータが取れることになります。統計学的な有意差を取ろうと思うとだいたい3匹になります。また、薬と、いわゆるプラセボを使った対照試験をするとなると6匹必要です。ただ、もっと正確に調べたい場合、用量依存性を調べる場合もあります。例えば、ある薬を1ミリグラム飲んだ時と10ミリグラム飲んだ時、100ミリグラム飲んだ時の反応に直線性があるかを見ます。

坂本:なるほど。それをしたいともっと必要ですよね。

島田:おっしゃるとおりです。ですから、先ほどお伝えした「一度に100匹」というケースも現実にはあります。

坂本:おそらくみなさまが一番気になっているところをお聞きします。当然、数によって値段が変わるかもしれないのですが、このマウスは1匹いくらくらいするのですか? 

島田:マウスの価格は開示していないためそのような話は難しいのですが、試験の費用というかたちで話をすると、例えば、受託試験で我々が受けた場合には、一番小さい規模であってもやはり200万円から300万円くらいかかります。100匹などになると、その1桁上の数千万円規模の試験になることもあります。

坂本:だいたいみなさまイメージできたかと思います。変なお話で失礼しました。先ほどのお話にあったように、3ヶ月くらいでだいたい育つイメージでしょうか?

島田:おっしゃるとおりです。

坂本:よって、そのときの状況や肝細胞の在庫によるとも思うのですが、注文を受けたらだいたい3ヶ月くらいで、というかたちですか?

島田:たしかに3ヶ月でできるのですが、注文を受けてから作っているのでは3ヶ月待ってもらうことになります。特に海外の、アメリカの製薬企業などは非常にせっかちで、もう「明日持ってこい」という話もけっこう多いです。したがって、我々としては、待たせないように計画生産をしています。だいたい3ヶ月先の需要をある程度予測し、ずっと生産し続けています。

坂本:例えば、生後3ヶ月から4ヶ月、5ヶ月になってしまっても、薬効が確認できると言いますか、実験はできるものなのですか?

島田:品質がそろったものを、という意味ではやはり若いマウスと歳を取ったマウスを一緒にすることはなかなかできません。したがって、実際には出荷できる期間は2ヶ月間くらいです。ただ、その後もヒトの肝臓を持った状態はずっと続くため、マウス自体の寿命はだいたい2年くらいですが、出荷してから1年くらい使い続けられるケースもあります。

坂本:同業他社があるかどうかと、御社はその中でどのくらいの規模なのかを教えてください。

島田:当社と同じように、ヒトの肝臓を持つマウスを生産して、販売もしくは受託試験を行っている会社は実は日本にもう1社、そしてアメリカにもう1社あります。しかし、いずれも情報を公開していないため、詳しいことはわかりません。ただ、お客さまからいろいろ話を聞くところでは、品質面や供給能力なども、当社には相当なアドバンテージがあると考えています。

市場環境:製薬企業売上高ランキング

島田:先ほどから「アメリカでは」という言い方を何度かしていますが、我々は創業時から、日本国内だけではなく海外に出ていかないと意味がないということを考えていました。2019年の情報ではありますが、ここに挙げているのは世界の製薬企業TOP10です。Roche、Pfizer、Novartisなどは日本円に直すと売上が年間でだいたい5兆円から6兆円という、非常に大きな製薬企業です。見てもらうとわかるように、ほとんどヨーロッパとアメリカです。

市場環境:製薬企業における研究開発費の動向

島田:そして、こちらは製薬企業における研究開発費の流れです。青い棒グラフは1社あたりの研究開発費で、どんどん増えているのがわかるかと思います。何が起こっているかと言いますと、2000年頃から相次ぐ製薬企業の吸収合併でどんどん会社が大きくなっていき、1社あたりの研究開発費が大きくなっているのです。

なぜかと言いますと、新薬の開発にはやはり非常にお金がかかるため、「会社の規模をとにかく大きくして、研究開発費をどんとかけよう」ということで、いろいろな吸収合併が起こってきました。これによって、研究開発費が非常に伸びてきています。

このような背景から、当社としては、マーケットは日本というよりはむしろアメリカ・ヨーロッパであるということで、そこに狙いを定めた事業展開を志向してきました。

海外展開と事業拠点

島田:冒頭に「北米に3社の子会社がある」とご紹介しましたが、スライド右の一番上に記載のKMT Hepatech Incという会社は4年前に買収しました。この会社は実は競合他社だったのですが、もともとヒトの肝臓を持つマウスを作る技術を持っており、その技術者がいるということで買収しました。ただ、持っていた設備などがかなり古かったため、我々が独自に投資して、昨年の夏から新しい設備が稼働し始めています。

その下に記載のPhoenixBio USA Corporationは10年前に設立しました。アメリカ・ヨーロッパに対して営業するのに、日本からいちいち出かけていくのはなかなか大変です。実は当初、私自身も営業をしていました。アメリカの製薬企業の研究所に直接乗り込んで面談し、当社のマウスがいかにすばらしいかをプレゼンして、理解いただくということをずっと行ってきたのですが、それでは埒が明かないのです。時間帯も真反対のため、ニューヨークに我々の販売拠点を移してしまいました。

ここは完全に我々の海外営業拠点となっています。時間は反対になるのですが、アメリカ・ヨーロッパだけではなく、アジアへの営業もすべてニューヨークから行っています。中国であろうが韓国であろうが、とにかくすべて英語でのやり取りのため、ニューヨークで現地スタッフを採用してオペレーションしています。

もう1つ下に記載のCMHL Consortium LLCは、アメリカの製薬企業の研究者の方々に参加いただくコンソーシアムを立ち上げています。我々はそこにマウスを提供して自由に使っていただき、そこで出てきた成果について学会や論文で発表していただきます。そのような活動のための事務局を置いている会社です。

スライド中央下に記載のUniversity of Southern Californiaは、有名な大学の1つである南カリフォルニア大学ですが、こちらに当社の研究員を2名派遣して、共同研究を行う活動をしています。

スライド右下に円グラフがありますが、おかげさまで今は売上の約7割が海外になっています。

事業計画のアウトライン

島田:事業の概要です。現況と今後の展開ということで、事業計画の詳細と、どのような開発をしているのかをご紹介します。

事業計画のアウトラインということで、スライド一番左側に四角形で囲んで「安全性等分野」「薬効薬理分野」と記載していますが、私どもの製品を試験サービスで使っていただく上での、どのような領域なのかを2つに分けています。

下の薬効薬理分野の中に、「現在の収益の柱」と書いてある肝炎ウイルス分野がありますが、我々のマウスは肝臓がヒト型のため、肝炎ウイルスに感染します。我々のマウス以外で感染するのはチンパンジーくらいですが、今やチンパンジーはまったく使えません。そのため、我々のマウスにB型肝炎ウイルスを感染させて、薬が効くかどうかを見るというのが、我々にとっては非常に収益の柱になっています。

坂本:かなりの数の治験をしなければいけないため、需要があるということですね?

島田:そのとおりです。ただ、このようなものは当然、よい薬が開発されて世の中に出てしまえば必要がなくなるため、将来的にはこれは収束していくと考えています。

スライドの右に、赤い丸で囲んで「NASH(ナッシュ)」と書いていますが、これは非アルコール性脂肪性肝炎といって、アルコールを飲んでいないのに脂肪肝になって、しかもだんだん肝硬変になったりすることが、最近非常に問題になっています。このようなところにも、我々の動物を使っていただこうと考えています。これについては後でまたご紹介します。

スライド上半分の安全性等分野については、戦略的市場と位置づけ、どんどん大きくしていきたいと考えています。実際、市場規模は非常に大きいと考えられます。

スライド右の丸の中に「次世代医薬品(核酸医薬品等)」と書いています。

後ほどご説明しますが、このようなところで、医薬品としての製薬企業へのご提供だけではなく、農薬にも使っていただけるのではないかと考えています。農薬は臨床試験をしません。しかし、世の中に広がっており、自然に水の中に入って海に流れていくことや、そのまま土埃として体内に入ることもあります。微生物によって分解されたり、違う化合物になってしまったりすることもあります。

農薬には臨床試験は必要ないのですが、安全性は非常に重要であり、定期的に当局に対して、その時の最新の科学的な知見をもって「これは安全です」と示さないといけません。そうしないと許可が取り下げられることがあるのです。アメリカやヨーロッパでも非常に厳しい基準があります。

マウスやラットなどのげっ歯類では発がん性があると言われていた物質があるのですが、我々のヒトの肝臓を持つマウスではまったく発がんしないこともあります。そのようなことについて、なぜ違うのかを理論的に証明し、ヨーロッパの当局に対してデータを付けて継続の承認をしてもらったという例も実際にあります。このようなところでも、我々は使っていただけると考えています。

薬効薬理分野:NASHモデルの開発

島田:NASHというモデルですが、先ほどご説明したように、アルコールを摂取していないにも関わらず脂肪肝になって、その後重症化すると肝硬変や肝がんになるものです。通常のマウスを使っての実験系は従来から作られています。しかし当然ながら、脂肪肝になってもマウスはマウスですので、ヒトの肝細胞でどうなるのかを見たいという要望がけっこう多いです。

スライドに「NASH-c/PXBマウス」と書いていますが、これは簡単に言えば、洋風の脂質が非常に多い餌を食べさせます。そうすると、けっこう長くかかるのですが、12週間、すなわち3ヶ月くらいでNASHのような脂肪肝になり、炎症が見えてきます。

スライド右側に細胞の写真がありますが、これは肝臓を実際にスライスして撮ったものです。青い丸で囲んであるのは「バルーニング」というもので、他の細胞よりも膨らんでいます。

ヒトのNASHの患者でも同じようなことが起こります。これをマウスで再現しようとすると、けっこう大変らしいです。我々の動物であれば、ヒトの細胞と同じような症状が起こるということで、非常に有用ではないかと考えています。

安全性等分野の拡大 次世代医薬品開発での利用促進

島田:核酸医薬のことも、もう少しお話ししたいと思います。スライド上に年数を書いていますが、これは何を示しているかと言うと、1990年、2000年、2010年と進むにしたがって、従来は「低分子医薬品」と言われる普通の飲み薬が中心だったところが、2000年頃から「抗体医薬」ができてきたのです。

今は抗体医薬の全盛期です。最近では、先ほどのアルツハイマーの薬もそうですし、片頭痛の薬も抗体医薬でできており、非常によく効くものがあります。しかし、さらにその次を担う次世代医薬品として「核酸医薬」があります。

スライド下に「DNA」「RNA」「たんぱく質」とありますが、生命の設計図であるDNAからRNAが転写されて作られ、そこからたんぱく質が作られます。ところが、たんぱく質が異常なものになっていたり、多すぎたり少なかったりすると、そのようなことが原因でたいてい病気になります。

低分子医薬品や抗体医薬品は、このようなたんぱく質に直接作用するものですが、核酸医薬はこれらとは違い、一歩手前のRNAに対して直接作用します。例えば、いらないRNAに当たったら分解させてしまう、あるいはRNAからたんぱくに合成する途中で調整します。非常に巧みなことをするのですが、このようなものが最近、核酸医薬として非常に注目されてきています。

これが当社のマウスと関係があるのかということですが、もちろんヒトのたんぱく質と動物のたんぱく質は違うのですが、RNAになるともっと違うわけです。みなさまご存知だと思うのですが、遺伝子はデジタルでできており、4つの核酸がいろいろな配列で並んでいます。そのため、それに対してピタッとはまる薬を作らないと効果がわかりません。

我々の「PXBマウス」の場合は、肝臓の中が全部ヒト、つまりヒトのDNAがあってヒトのRNAが作られている状況です。そのため、ヒトに対して作られた核酸医薬が非常にピタッとはまって効果がわかります。

効果だけではなく、安全性という面もあります。核酸医薬は、ターゲットとなるRNAだけではなく余分なところに行ってしまうと、副作用でしかないことになります。これをコンピュータでいろいろと調べるのですが、「本当にそれでもう大丈夫なのか」を調べようと思った時には、このような実験動物で見てみなければわからないというところに、我々の「PXBマウス」のアドバンテージがあります。

次世代医薬品(核酸医薬品)の市場規模

島田:実際、世の中では、先ほどお話ししたように核酸医薬がこれから伸びてくるところです。スライドに棒グラフがありますが、2020年で約3,600億円あるものが、10年後には4倍まで伸びるだろうと考えられています。しかも、シェアとしては約60パーセントがアメリカであると考えられています。

核酸医薬という意味では、PfizerとModernaの新型コロナウイルスのワクチンはメッセンジャーRNAであり、核酸医薬です。あのワクチンはこの数字の中には含まれていないのですが、それ以外にこれだけ使われるだろうということです。

実はPfizerもModernaも、もともとはがんの治療に核酸医薬を使おうと考えて、ずっと開発してきています。その技術があったため、いち早く新型コロナウイルスに対するワクチンを作ることができました。

これから核酸医薬は非常に注目されるところですし、実際に我々の試験サービスでも核酸の領域が非常に増えてきている状況です。

新しい技術の創出

島田:我々がこのようなことを開発していく上では、研究開発も非常に重要です。スライドには非常に細かく書いてありますので、すべてはご説明しませんが、薬効薬理分野・安全性等分野でいろいろな研究開発を進めています。当社だけではできないため、いろいろな製薬企業や大学、研究機関と協力して研究を進めているところです。

売上高推移

島田:業績推移についてお話ししたいと思います。スライドは売上高の推移となりますが、だいたい12億円から13億円のところを行ったり来たりしているのが現況です。当期は、期首では16億円の売上高で利益も出していくことを計画していたのですが、いろいろな不具合などがあり13億円という見通しです。

スライドの棒グラフで、上の緑の部分が安全性等分野、下の青の部分が薬効薬理分野です。比率はだいたい変わらないのですが、今後は安全性等分野をさらに伸ばしていきたいと考えています。

飯村:マウス不足なのですか?

島田:実験動物ですので、いろいろな用途、いろいろな目的で使われます。その中で、あるお客さまから「ここの部分の状態が、自分たちの実験にはあまり好ましくない」と言われる性状がありました。

完全に健康な動物にはなかなかならないため、ある性状を改良しようと思い、そのために生産工程を少し動かしたことがありました。それによって、今度は生産の歩留まり、すなわちできあがる匹数が減ってしまったことがあったのですが、先ほどお話ししたように、我々は3ヶ月先の需要を見越して作っているため、それが発覚するまでに3ヶ月かかっています。そこから「これはいかん」と思い、戻したのですが、その3ヶ月のダウンが我々の売上に非常に大きく響いてきたということです。

もう1つ、海外のカナダの子会社で新しい設備を立ち上げたとご説明しましたが、そこでの生産がまだ立ち上がってきていないこともあります。日本で作っているものと同じ動物を持ち込んだのですが、環境が違ったり、細かいところで言うと餌が違ったりすると、同じようにできないことがあります。これは予想外だったのですが、そこは鋭意改良中で、北米での生産もこれからどんどん進めていこうと考えているところです。

営業利益推移

島田:売上高13億円では、まだ赤字から脱却できないため、今後は売上を伸ばしていくことによって黒字体質に変えていきたいと考えています。

坂本:このあたりも少し深堀りしたいのですが、今は売上高13億円で、現状としては赤字です。これを黒字化したいというお話でしたが、どのように黒字化する考えなのでしょうか? 黒字転換に必要なものを教えていただきたいと思います。

島田:我々が事業をずっと継続してくる中で一番問題だったのは、いかにマウスのよさをお客さまに知っていただくかということでした。そのため、営業活動に非常に力を入れてきたのですが、ここに来て急に需要がグッと伸びてきました。それに反して、先ほどご説明したマウス不足が起こったため、今は赤字のままになってしまっているのですが、基本的にはマウスの生産をどんどん増やして売上をとにかく上げていきます。

我々はこのような動物設備として、クリーンルームを作ったり人材を育成したりということに非常に大きな投資をしているため、ほぼ固定費です。そのため、ざっくり言ってしまうと、売上が伸びればその分はどんどん利益が出てきます。

坂本:需要が高まれば、値上げできなくもないかと思います。他社もそれほどいない業界のため、そのあたりも期待しながら、売上と一緒に利益が伸びれば黒字は達成できそうとは思っています。

島田:そのとおりです。これだけ需要がどんどん伸びてきたのは我々の予想以上であり、うれしい悲鳴とも言えますが、赤字では株主に大変申し訳ないため、なんとか早く黒字化したいと考えています。

経常利益・親会社株主に帰属する当期純利益推移

島田:経常利益と純利益の数字もお示しします。スライド右側の純利益で、2期前の2020年3月期は赤字が大きく膨らんでいますが、これは減損をしたためです。減損をしなければならないというのは、企業としては恥ずかしいのですが、結果的にはその後、減価償却も少しプラスに向いてくるのもあり、ここで減損をしています。

2022年3月期 第2四半期決算概要

島田:今期のちょうど9月までの半期の発表をしたところですので、ご説明します。第2四半期までの売上高は約6億円、営業利益は約1億3,000万円のマイナス、経常利益は1億2,800万円のマイナスです。

昨年と比較してはいるのですが、昨年はコロナ禍の影響で、特に欧米の研究所がロックダウンを受けるなど、製薬企業も研究開発がまったくできなかった時期がありました。そのため去年の第2四半期は非常に売上が低かったことがあり、あまり比較になりませんが、これが現状となります。

本日のまとめ

島田:当社は「PXBマウス」という1つの商材でずっと事業を展開してきていますが、研究開発型企業として、健康増進に貢献していきたいと考えています。また、北米を中心に事業をさらに拡大していきます。加えて、領域の開拓も非常に重要であり、市場拡大のためには新しい用途でどんどん使っていただきます。早く黒字化して企業価値を増大させていきたいと考えています。

質疑応答:安全性等分野の研究開発費について

坂本:14ページですが、薬効薬理分野では潤沢な研究開発費があると思っています。マウスが高くても、先ほどもお話にありました、100匹といった注文も入るかと思います。しかし、安全性の分野で農薬などになると、研究開発費はそれほど出ないかと思うのですが、意外にこちらのほうが売上が立っています。母数が大きいのか、入り組んでいるのか、このあたりの背景について教えていただけたらと思います。

島田:実は、製薬企業の中で安全性の分野の予算はすごく大きいです。薬効はもちろん大事ですが、安全かどうかを確かめるのにはものすごく気を遣うといいますか、少しでも問題があるとすぐに開発中止になってしまうことがあるため、徹底的に確認します。そのため、予算は非常に大きいのです。そのような背景によって、安全性等分野でも、安くないサービスモデルで利用いただけることもあります。

さらに、ご紹介した核酸医薬や遺伝子治療などは、ヒトの遺伝子がなければ評価できないところです。このようなところをうまく利用していただければ、価値は十分に認めていただけると考えています。

質疑応答:別ドナーの肝臓の需要について

飯村:せっかくなので、チャットの質問もお願いします。「同一ドナーの肝臓が大事だというお話もあったのですが、別のドナーの肝臓も欲しいという需要もあるのですか? 薬効の違いなどを見るのでしょうか?」というご質問です。

島田:実は、そこは非常に要望の大きいところです。例えば、臨床試験でもたくさんの人に入っていただいて行うのは、個体差があるかどうかを調べるためです。そのため「同一ドナーで見てよいの?」というのは確かにあります。

我々もいろいろな細胞を使って作りたいのですが、一方で、生産の効率からすると、たくさんのドナーを揃えて使っていただけたり使っていただけなかったりすると、コストが非常にかさんでいきます。今以上に高いお値段でないとご提供できないことになるため、今のところは単一ドナーで使っていただくかたちにしています。今後はお客さまのご要望に応えられるように、複数のドナーからできた「PXBマウス」を作っていきたいと考えています。

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