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日銀・黒田総裁の白旗と残された負の遺産 前編
2021年5月、日本銀行は金融緩和のためのETF(上場投資信託)の買い入れを見送った。これは、アベノミクスから始まった日銀・黒田東彦総裁による異次元金融緩和の開始以降初めてのことで、実に8年5カ月ぶりである。しかし、なぜ5月のこの時期に買い入れを見送ったのだろうか。
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そもそも日銀の異次元緩和の目標は「安定的に、前年比でインフレ率(物価上昇率)が2%上昇すること」であり、「デフレからの完全脱却」を目指すものであった。しかも、当初は「2年で達成する」と明言していたのである。
しかしながら、インフレ率の上昇は安定的どころが、2013年に異次元緩和が開始されてからというもの、1度も2%の上昇を達成したことがない。日本のインフレ率は2015年から2020年にかけて、0.79%、-0.12%、0.47%、0.98%、0.48%、-0.2%という結果だ。
インフレ率の安定的上昇の目標達成に固執した日銀は、これを「失策である」とは認めずに、「まだまだ足りない」として、金融緩和の規模を強気に増長させてきた。具体的には、ゼロ金利政策(実際にはマイナス金利政策)と市場への資金供給のために、国債やETF、REITの購入量を増やし続けてきたのである。しかし、目的は達成されなかった。
そもそも、金融緩和をすればインフレ率が上昇するというロジックは、「国民への消費喚起」を促すことにある。つまり、ゼロ金利の上に量的緩和で市場へ資金の供給を増やすことで円安へ誘導すれば「貨幣価値が損なわれることになる上、国民が将来的な物価上昇を懸念して、消費が促されるようになるだろう」というシナリオだ。
消費が促されれば、企業は製品やサービスの価格を上げることができ、売上や利益も伸びて、結果として国民へ支払われる賃金へと還元される。この好循環を生むことが、デフレ脱却を目指す異次元緩和の理想であり、日銀・黒田総裁も2014年3月に行われた日本商工会議所における講演の中で、詳しく説明している。
たしかに、現在のアメリカでは、コロナ禍によって巻き戻された大規模金融緩和により、(あくまでも副作用の1つとしてではあるが)将来の経済過熱感の高まりによるインフレ率の上昇が発生している。つまり、日銀が目指したかったのは、まさしくこのような状況だったのである。それでは、なぜ日本でインフレ率が日銀の思惑通りに上がらなかったのだろうか。(記事:小林弘卓・記事一覧を見る)
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