イーロン・マスク氏が見抜けなかった「製造の本質」 (2) 究極の精度は「人間の勘」

2020年12月16日 07:34

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 工作機械の切削によって、「きさげ加工」ほどの精度を出せないのはなぜなのか? 【1.クランプによる歪がない。2.加工で温度上昇をさせない。】の2つの条件が真実の原因とは考えられない。確かに、その2つの条件を「きさげ加工」では生じさせないことで精度が保たれているのだが、機械加工でも出来ない条件ではない。では、「きさげ加工」の何が究極の精度を出す力となっているのだろうか?

【前回は】イーロン・マスク氏が見抜けなかった「製造の本質」 (1) 奇跡の高精度「きさげ加工」

■究極の精度を出せるのは「人間の1μm単位の勘」

 工作機械は刃物を回転させたり、スライドさせたりしながら切削する。だから、動く物の間には多少の「ガタ」、すなわち遊びが必要なのだ。工作機械のベッド、すなわち摺動面の間では2/100mm程度の隙間が必要だ。だから、載せている刃物台などが片方に寄ると、2/100mmの移動が許されていることになる。

 これでは10μm以下の精度を出すのはむずかしい。もちろん刃先を一方向に寄せて加工するので、1μmの精度を出せる職人もいる。しかし、平面加工などはかなり困難だ。「きさげ加工」に限らず、全ての「歪」を考慮して精度は成り立つものだ。「きさげ加工」で精度を出せる本当に理由は、「人間の目、感覚」が鋭いということだ。

 例えば、旋盤で(丸棒:直径100mm×長さ1000mm)の外周を削るとする。丸棒が刃(バイト)先を押し付けられているので、長さ方向の中心付近では、少々しなってしまい刃先から逃げてしまう。だから完成してみると、ギリシャ神殿の柱のように中央付近が太くなってしまうのだ。

 これを切削中に職人が予測して、少しバイトを調整して送り出し、1μm単位で均一な丸棒のまま仕上げることが出来る。ハンドルを微調整して外形を均一にするのだ。単に、職人の勘で行っている。切削スピードを遅くするだけでは出来ないことなのだ。

■制御プログラムと機械メカニズムのずれ

 マツダ・スカイアクティブ-Xエンジンのように、1/1000秒単位で燃料噴射や点火などを制御しないと成り立たない技術では、制御プログラム通りに機械メカニズムが稼働しなければ成り立たない。そのための周辺メカニズムが開発されて、制御プログラムの指令に従って動いている。

 しかしメカニズムであれば、可動部分には幾分の「ガタ(隙間)」が必要だ。そのためプッシュロッドや歯車などを繋いでいくと、かなりの遊びとなって「タイミングが合わない」などのことが起きる。現在筆者が所有するスバルの車両でも起きている。これを防止するにはサーボモーターによるメカニズム稼働が必要だ。

 それで、スバルは完全には治せずに放置してしまった。生産当時の技術的限界となっているのだ。問題は、メカニズムと制御プログラムの間には、こうした「同期」しなければならない問題が普通に存在する。このことについて、製造メーカーの技術者・営業・サービス・経営陣が認識している必要性があるのだ。(記事:kenzoogata・記事一覧を見る

続きは: イーロン・マスク氏が見抜けなかった「製造の本質」 (3) コストダウンと加工技術

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