宇宙ストレスによる加齢 阻止する遺伝子突き止める JAXAらがISSで実験

2020年9月10日 12:18

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研究の概要 (c) 東北大学

研究の概要 (c) 東北大学[写真拡大]

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は9日、国際宇宙ステーション(ISS)でマウス実験を実施した結果、宇宙環境でのストレスによる加齢を阻止する遺伝子を突き止めたと発表した。

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■宇宙進出の障害となるストレス

 人類の活動領域を広げるために、月や火星などの天体に移住する計画が近年注目を浴びている。その障害となる可能性のひとつが、宇宙環境下でのストレスだ。宇宙空間中の放射線や微小重力環境は生体に大きなストレスを引き起こすため、こうした健康リスクを克服することが将来の宇宙進出のために求められる。

 東北大学やJAXAの研究者らから構成されるグループが注目したのは、Nrf2と呼ばれる転写因子だ。生体内のタンパク質や脂質などが酸化されることで、老化だけでなく細胞のがん化が加速する。こうした酸化ストレスから守るのがNrf2だ。この転写因子が酸化ストレスに対して活性化することで、細胞が守られる。

 酸化ストレスを引き起こす要因としては、喫煙等が挙げられる。研究グループは宇宙環境下でのストレスに対してもNrf2が有効に働くのではないかと予測し、宇宙空間での検証を実施した。

■世界で初めて宇宙滞在マウス全ての帰還に成功

 研究グループは2018年4月に、野生型のマウスとNrf2遺伝子を無効化したノックアウトマウスをケネディ宇宙センターから打ち上げ、ISS日本実験棟きぼうで飼育した。約30日間の滞在ののち、全てのマウスを地球に帰還させることに成功した。こうした生存帰還は世界初だという。

 研究グループは帰還したマウスを解析した結果、宇宙の滞在によって様々な臓器でNrf2が活性化していることを確認した。こうした変化は、ヒトが宇宙ストレスを受けたときの加齢変化と同じであることが判明。また白色脂肪細胞が肥大化する現象も確認された。

 Nrf2の発現量には個体差がある。そのため、宇宙滞在による健康リスクも個体間で差が出る。事前にNrf2の発現量を調べることで、個人の健康リスクを評価できるようになるだろうと、研究グループは期待を寄せている。

 またNrf2を活性化する薬の開発が、宇宙滞在による健康リスクだけでなく地上の高齢者にも有効だろうとしている。

 研究の詳細は、国際オープンアクセス誌Communications Biologyにて8日に掲載されている。(記事:角野未智・記事一覧を見る

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