インドがオーストラリアをマラバール海軍演習に招待した背景【フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議】

2020年7月27日 13:33

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記事提供元:フィスコ


*13:33JST インドがオーストラリアをマラバール海軍演習に招待した背景【フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議】
7月15日、オーストラリアの政治アナリストであるグラント・ワイス氏の「インドはオーストラリアをマラバール海軍演習に招待するのか」というコメンタリーが「THE DIPLOMAT」誌に掲載された。オーストラリアのモリソン首相とインドのモディ首相は6月4日にテレビ会議方式の首脳会談を開き、すでに防衛協力の拡大で合意し、従来の「戦略パートナーシップ」から「包括的戦略パートナーシップ」への格上げや、外交・防衛閣僚協議(2プラス2)の隔年開催が決まった。その際、両首脳は、海軍間の相互運用能力向上のため情報交換を推進することも確認しており、「国際共同演習(マラバール)」への豪州の参加、豪州が主体となって隔年ごと豪州で実施している「多国間軍事演習(カカドゥ)」への招待、米海軍が隔年にハワイ島沖で実施している「環太平洋海軍軍事演習(RIMPAC)」等の機会をとらえた緊密な連携強化を図ることが合意された。従って、冒頭の質問に対する回答は「イエス」であり、ワイス氏の豪印及び中国に対する見方が「自由で開かれたインド太平洋構想」の参考になる部分もあろうかと思い、ワイス氏の結論にいたる考え方を紹介する。

2000年初頭のインドは、アメリカ主導の秩序作りに反対の立場をとり、「非同盟」、「世界秩序の多極化」の外交方針や「米国の一極支配」への対抗姿勢を示していた。ところが、2018年9月、インドはアメリカと「2プラス2」を開催し、両国の関係強化を明確に示した。インドが従来の方針を変更した理由についてワイス氏は、「この方針を変更したのは、中国の最近の自己主張的な身勝手な行動の結果であり、中国の戦略上の大きな失敗である」と中国を批判している。「インドが、本能的に好戦的な隣国中国が自国領土への侵攻を繰り返すことにより、主要なパワーブロックとの同盟関係の維持に分があると結論付けたのではないか」と分析している。

ワイス氏によると「オーストラリアの2017年の外交政策白書では、インドを『第一次』の重要国として認識しており、海上安全保障をはじめとする『共通の利益』が存在している」と指摘している。「特にインドのアンダマン・ニコバル諸島とオーストラリアのココス諸島は戦略的な海域に位置しており、両国がインド洋東部の主要な要衝において重要な海上警備態勢を維持し、ともに協力しあうことが望まれる」と島嶼防衛の共通的価値を説いている。

ワイス氏は、コメンタリーの最後に、「インドは同盟の利点を見出す方向に向かっている。オーストラリアの国防・外交政策は、同盟関係の構築と維持を中心に構成されており、 過去の関係に関わらず、お互い有能で信頼できるパートナーであると見なし始めている。中国は、4つの民主主義国家間の海軍協力を封じ込め戦略として抗議するだろうが、北京は自分自身を責めるしかないのだ」と締めくくっている。ただし、ワイス氏の主張する「インドの外交方針変更」という観測は、豪印両国の国防・外交協力関係の強化だけなのか、あるいは今後、同盟関係樹立まで発展するのか、動向を注視していきたい。

アメリカのトランプ大統領は、9月以降にアメリカで開催予定の先進7カ国(G7)首脳会議の枠組みを拡大すると宣言し、豪印両首脳はG7への招待を歓迎する意向を表明している。両国が拡大G7に加わることでさらに対中包囲網が強化されることになるだろう。中国の力による現状変更の試みに対して、対中包囲網による抑制が機能するか否かに注目したい。《SI》

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