死語になった自動車用語「ボーリング」

2020年7月8日 07:16

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殆どの人が思い浮かべる「ボーリング」だが、正しくは、こちらは「ボウリング」。 ©sawahajime

殆どの人が思い浮かべる「ボーリング」だが、正しくは、こちらは「ボウリング」。 ©sawahajime[写真拡大]

 ボーリングと聞いたら、大多数の人は10本のピンに向かってボールを転がす、室内スポーツを思い浮かべるだろう。これは正しくは「ボウリング(bowling)」=米国ではtenpins、英国ではtenpin bowling。

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 残りの僅かな人は、多分土木や建築関係者等で、地質関連の地盤調査を思い浮かべるのでは無いだろうか?これは「ボーリング(boring)」=穿孔、穴あけ。地盤調査や温泉探査で、やぐらを組んで地面を掘り、地下調査をしているあれだ。

 現在では、相当距離を走行した車のエンジン再生術を思い浮かべる人は皆無に近いので、自動車用語の「ボーリング」が死語の世界に行ってしまったと考えるのだ。

●ボーリングとは?

 現代の車は材質が進化して、この現象は普通の使用状況であれば無視できるレベルになったが、昔は長距離を走行すると、本来真円だったシリンダー内壁が、ピストンの力を受けることによって、次第に楕円の形状になる。

 これを修復するにはボーリングという修復作業が必要だった。

 拡がった径に合わせて、狭いまま残った部分を削って一回り大きな径の真円に修正する作業だ。だから語源は、地質調査等で地盤を掘削する作業を差すボーリングと同じである。

 昔のいすゞの広報誌「鈴の音」とかには、「〇〇〇万キロ、無ボーリング」を達成したと、そのトラックとユーザーの写真が掲載されていた。達成車両の前で、記念に花束を渡して~。

 登場するユーザーは殆ど運送業で、営業用トラックであった。つまり、「〇〇〇万キロ、無ボーリング」は、耐久性を誇る、重要な指標でもあったのだ。

●レシプロエンジンの動作

 レシプロエンジンは、円筒形のシリンダーブロックの中をピストンが往復する。ピストンはコネクティングロッドでクランク軸に接続されている。

 これで「上下運動」が「回転運動」に変換され、クランクシャフトを回すことにより動力が取り出される。最初は、真円のシリンダー内壁を、真円のピストンが上下するから圧縮圧力が漏れることは無い。

 勿論、多少構造に詳しい人なら、ピストンには「ピストンリング」が鉢巻みたいに巻かれていて、圧縮を漏らさない為の「コンプレッションリング」と、シリンダー壁を潤滑したエンジンオイルを燃焼室に入り込まない様に掻き落す「オイルリング」がその仕事をしているのはご存知の通り。

 因みに、オイルリングがちゃんと仕事をしないと、掻き落されるべきオイルが燃焼室に侵入して燃えるので、エキゾーストパイプから煙が出る。この現象を「オイル上がり」といった。

 上下するピストンを真上から見れば、本来シリンダー共々「真円」である。しかしピストン運動はコネクティングロッド(コンロッド)を回すので、下部は真っすぐ下に降りるのでは無く、その分真円は削られて楕円になって行く。

●普通は2度修復作業をした。

 1度目は楕円になったシリンダー内壁を楕円の長辺に合わせて真円に削って修復する。勿論、真円部分(シリンダー内径=ボア)は一回り大きくなるので、「オーバーサイズ・ピストン」を組み込むことになる。

 このボーリングしたエンジンを搭載した車が、再度シリンダー内壁が楕円になる位まで走行すると、シリンダーブロックの強度に影響するから、もうそれ以上内壁を削ってもう一回り大きなピストンを組み込むことは出来ない。

 そこで今度は、真円に研削すると、シリンダー内壁に「スリーブ」を挿入して、元のボア径に戻す。これが、このエンジンの延命措置の最後である。

 貴重となった高度なボーリング技術を継承している業者もいるが、普通に使っていて「ボーリング」が必要になる車は、最近の車の材質ではまず見られなくなったので、成仏して、死語の世界に行ったと思われる。(記事:沢ハジメ・記事一覧を見る

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