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新型コロナ時代に死にゆく香港(2)【中国問題グローバル研究所】
*12:20JST 新型コロナ時代に死にゆく香港(2)【中国問題グローバル研究所】
【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。
◇以下、フレイザー・ハウイー氏の考察「新型コロナ時代に死にゆく香港(1)【中国問題グローバル研究所】』の続きとなる。
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中国政府と香港政府は、昨年の抗議行動後の香港を落ち着かせるためにこの新しい国家安全法が必要だと主張している。6カ月間にわたりほぼ毎週、時には毎日行われた抗議行動が香港に打撃を与えたのは疑いないが、昨年見られた暴力、放火、破壊行為、違法集会のいずれも、香港の現行法の下ではすでに対処できなくなっている。香港の抗議運動は多くの過ちを犯したが、昨年の混乱は大まかに4つの原因で説明できる。第1に、香港政府が(広い意味での)抗議運動の現実の懸念と不安に対応できなかったこと。第2に、暴力的になることもあった強引な警察活動。第3に、警察の戦術・戦略の失敗で小さな事件が重大事件に発展するのを阻止できなかったこと。第4に、警察の残忍さが抗議を呼び、抗議が警察の残忍さを呼ぶというサイクルを引き起こしたこと、である。新法はこれらの問題のいずれにも対処しない。その代わり、香港市民が考えること、読むもの、書くもの、信じることを厳しく取り締まろうとしている。
今回の立法の重要性は9月の立法会選挙と関係がありそうだ。民主派陣営は、この選挙への有権者登録を促すべく連携して取り組んでおり、昨年11月の区議会選挙の成功を再現したいと考えている。これが中国政府を憂慮させ、その前にこの法律を成立させることで、中国政府が認めたくない候補者を失格させやすくしようとしている可能性が非常に高い。現在、立法会は、中国国歌への侮辱を犯罪とする中国の国法である国歌条例草案を審議している。これまで民主派の議員たちによって阻止されてきたが、政府寄りの陣営は文字通り、議事進行の主導権を強引に奪い返しており、自分たちの前に提示された国家安全法はどのようなものでも通過させるだろう。
中国がこの道を突き進むことを阻止する力を自由世界がほとんど失っているというのが、現状の厳しい現実である。中国は基本的に、全人代を通じて、また香港政府の支援を得て、この法律を導入することができる。基本法に完全に沿っているかは疑問だが、それを止める仕組みがそもそも無いのである。
しかし、この決定はさまざまな結果を招いている。昨年の抗議行動の際、米国議会は、香港が中国から明確な自立性を保っていることを年1回認定するよう国務省に義務付ける香港人権・民主主義法を可決した。全人代が国家安全法を可決したことを受けて、ポンペオ国務長官は香港の自立性の認定を拒否したが、これは恐らく大統領からの具体的な制裁につながるだろう。米国と中国の関係はすでに険悪になっているが、この1週間の出来事は両国間の距離をさらに広げることになった。
カナダ、英国、オーストラリアは、全人代の決定に対する深い懸念を表す共同声明を米国と共に発表した。事態の変化に対して、より協調的で建設的な対応が始まることを期待してのものである。香港の最後の植民地総督であるパッテン卿は、600人以上の議員団を率いて中国政府の行動を非難した。中国政府はこのような措置をとることで、国連に登録されている中英連合声明で暗示されている一国二制度の枠組みを大きく弱体化させたという点で、全員の意見が一致している。返還前、中国政府は連合声明を受け入れるよう加盟国に働きかけ、香港の自立性を最低50年間維持するという重要な公約を掲げたのである。
英国は、旧宗主国として、また連合声明の当事国として、特別な役割を担っている。返還時、英国は香港の一部住民に対し、英国海外市民(BNO)パスポートを発行している。これは完全な英国民の地位には及ばず、英国に居住する権利はない。驚くべきことに、英国政府はこれらのパスポートの訪問権を拡大し、市民権を取得しやすくしようとしている。
台湾は、香港からの出国を希望する香港居住者を支援すると発表した。他の国々が台湾に続けば重要な一歩となるが、香港からの移民を促進しても、香港の独特の地位を維持することはできない。
おそらく、中国本土とは異なる条件で貿易できるという香港の特別地位を標的にして中国を激しく攻撃したい誘惑に駆られる指導者がいるだろう。中国は香港がもたらす優位性を失うだろうが、香港住民は中国政府が下す罰よりも大きな不利益を被ることになる。簡単な方法や苦痛のない方法はない。中国政府は、この特別な貿易上の地位を危険にさらすことを厭わない態度を示しており、中国政府の言う「秩序」を香港にもたらすために、さらなる暴力や流血を受け入れる用意があることを示唆している。抗議運動が長い間主張してきたように、中国政府にとって「一国」は「二制度」よりもはるかに重要なのである。
世界が新型コロナウイルスのパンデミックで動揺する中、習近平氏は香港だけでなく、南シナ海でのさらなる攻勢、インドへの軍事侵攻、貿易相手国への圧迫などをさらに推し進めることを決定した。ウイルスによって世界があまりにも大きな混乱と恐怖に陥り、自分の野望に逆らえなくなることを、同氏は願っているに違いない。彼が間違っているということを示すことが世界のためになるのである。
2003年、香港ではSARSが猛威を振るい、1,755人が感染し299人が死亡したが、50万人の抗議行動が国家安全法の可決を阻止することができた。それから17年後、シナリオは逆転した。香港は新型コロナウイルス対応のモデルケースとみなされ、これまでの感染者は1,100人に満たず、死者もわずか4人だが、昨年100万人以上が中国政府の侵略に対して平和的に抗議したにもかかわらず、新しい国家安全法を退けることはできていない。
香港住民はウイルスの最悪の事態を免れたかもしれないが、新型コロナウイルス時代の犠牲者となった。習近平氏は、このウイルスがあろうと無かろうと行動したに違いなく、立法会選挙での敗北があまりにも心配だったのかもしれないが、同氏が連合声明の公約を拒否したことに対しては、自由世界の協調的な対応が求められる。香港の人々には約束どおり自治を享受する資格があるのだ。
※1:https://grici.or.jp/
(写真:ロイター/アフロ)《SI》
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