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新型コロナウイルス禍後の世界と韓国(ロー・ダニエル)
*09:42JST 新型コロナウイルス禍後の世界と韓国(ロー・ダニエル)
ジャレド・ダイアモンドの力作『銃・病原菌・鉄』が連想されるような事態が広がっている。第4次産業革命を迎え、人類英知の勝利を謳歌していた地球村は、恐怖と不確実性に包まれている。その中で、世界秩序の変化も言い出されている。新型コロナウイルス禍を第2次世界大戦の状況に比喩しながら、ヘンリー・キッシンジャー前米国国務長官は、この事態の収拾後、西洋を中心とする世界レベルのリベラリズムは終焉するといった。フランスのマクロン大統領は、人類が共有していた確実性と確信は過ぎ去り、不可能とおもっていたことが起きると嘆いた。
東アジアに視野を変えてこの事態を鑑みれば、アメリカの世界的覇権の衰退がもっともくっきりと見えてくる。嘗て、世界の覇者であり教科書的な存在だったアメリカは、軍事面以外には、道徳、文化、行政、社会福祉など多様な分野での卓越性が低下し、その代わりに目を引くのはトランプという任期限定の大統領の傍若無尽である。これを中国は巧みに利用している。
この最中に韓国では、国会議員を選ぶ総選挙が4月15日に行われた。その結果は、予想を超える与党の圧勝だった。共に民主党を中心とする進歩系の勢力が国会議員総数300人の63%を超える190席を取った。第21代総選挙のアジェンダは特定の政策に関したものではなかった。むしろ、文在寅政権が目指す価値体系を受け入れるか否かに対する相反する両勢力の戦いだった。結局、最近の韓国政治の基本的な枠組みだった両大党の対立構造を離れ、「与大野小」の構造に変わった。
進歩系(190議席)…共に民主党 163議席、共に市民党 17議席、開かれた民主党 3議席、正義党 6議席、正義党 6議席、無所属 1議席
保守系(110議席)…未来統合党 84議席、未来韓国党 19議席、国民の党 3議席、無所属 4議席
韓国の国会議員の任期は4年だ。強力な大統領制を持つ韓国で、国会議員選挙は政権勢力に対する中間評価の性格が強い。特に、米国と日本に対する疎遠な態度に比べ、中国と北朝鮮に接近する外交姿勢、親労働・反財界性向、分配・福祉中心の政策などへの批判が沸騰した状況で、大統領の評価という側面が浮き彫りになった。このメイン・ゲームの傍らに、新型コロナウイルス禍への韓国防疫当局の対応も有権者の票心に影響する状況が展開された。
そして、文政権・与党は圧勝を収める幸運に恵まれた。その結果、改憲を除いて意図する殆どのことが実行できることとなった。「自分が政治をする目的は韓国の主流を交代させること」という文大統領の願望が現実になったようだ。米国、日本など主要友好国との関係修復は依然として霧に包まれている状況で、中国重視外交がしばらく続くだろう。特に、韓国の経済発展の新動力として、中国の一帯一路及びロシアの北方経済圏との融合という大きな枠の中で北朝鮮との経済統合を目指す文大統領にとって、昨今の新型コロナ禍は大胆の方向転換に正統性を付与することになろう。
今回の総選挙で権力を強めた韓国政府与党は対日関係で一層強硬な姿勢を取る要因が発生した。それは慰安婦、徴用工、ジソミア、領土問題などにおいて日本に対する強硬な態度をもつと予測される国会議員が複数現れたことである。
ロー・ダニエル
1954年韓国ソウル市生。政治経済学者、アジア歴史研究者、作家。米国マサチューセッツ工科大学で比較政治経済論を専攻して博士号を取得。1994年に香港科学技術大学で助教授として教鞭をとった経験のほか、中国人民銀行研究生部や上海同済大学にて客員教授を歴任。日本では、一橋大学をはじめ、科学技術政策研究所、国際日本文化研究センターなど数々の研究機関をわたって研究を重ねてきた経験をもつ。 学界以外では、Towers Perrin社(米国)、未来工学研究所(日本)などで投資戦略分野におけるコンサルタントとして勤務。これらの経験を活かすかたちで、北東アジアの政治経済リスクを評価する会社、Asia Risk Monitor, Inc.を2016年にソウルで設立し、経営を担う。 日本での著作として『竹島密約』(草思社、2008年。第21回「アジア・太平洋賞」大賞受賞)、『「地政心理」で語る半島と列島』(藤原書店、2017年)。韓国語の著書に『安倍晋三の日本』(セチャン出版、2014年)ほか多数。
日本の様々な分野での意思決定者が朝鮮半島での出来事、そして朝鮮半島に影響を及ぼすアメリカ、中国、ロシアなどの動きを把握するための「Daniel Report」サイトを運営して広く情報発信をしつつ、レポートをフィスコより発売中。《SI》
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