120億年以上昔の渦巻き銀河の実態を捉える ALPINEプログラム

2020年4月22日 14:13

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ALPINEプログラムによって画像化された21の銀河 (c) Michele Ginolfi (ALPINE collaboration); ALMA(ESO/NAOJ/NRAO); NASA/JPL-Caltech/R. Hurt (IPAC)

ALPINEプログラムによって画像化された21の銀河 (c) Michele Ginolfi (ALPINE collaboration); ALMA(ESO/NAOJ/NRAO); NASA/JPL-Caltech/R. Hurt (IPAC)[写真拡大]

 ALPINEプログラムについては日本ではほとんど知られておらず、インターネットで検索してもその情報にたどり着くことは困難である。だが、この活動により、宇宙が誕生して10~15億年しか経過していない時期に存在していた数多くの銀河を捉え、研究が繰り広げられている。

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 ALPINEプログラムとは、「ALMA Large Program to Investigate C+ at Early Times」の略称。チリのアルマ電波望遠鏡による観測データと、ハワイのWMケック天文台やNASAのハッブル宇宙望遠鏡、スピッツァー宇宙望遠鏡など、他の多数の望遠鏡で捉えた総計70時間分の観測データを組み合わせ、120億光年以上離れたはるかかなたにある銀河に存在する炭素イオンC+を調査している。

 炭素イオンについて調査をする理由は、宇宙空間に存在している星間物質から新しく星が誕生する際、紫外線が放射され、それによって星間物質の中から炭素イオンが生成されるからだ。したがって炭素イオンが発する輝線を観測することで、誕生間もない星が属している銀河がどのように回転しているのかが分かるという仕組みだ。

 もう少し分かりやすく解説すると、炭素イオンが発する輝線の波長は決まっており、宇宙のどこで測定しても同じ値をとるはずである。だが、宇宙全体はビッグバン以降膨張を続けており、遠方からやってくる光の波長はドップラー効果により実際の値よりも長めの値となって観測される。これが有名な赤方偏移と呼ばれる現象である。

 いっぽうで銀河のスケールは非常に大きいため、例えば銀河の右端から出ている炭素イオンの輝線の波長と、左端から出ている炭素イオンの輝線の波長には微妙な値のずれが生じている。仮に、右端から出ている波長の方が短ければ、その銀河は右端が地球に近づく方向に、左端が地球から遠ざかる方向に、回転していることが分かる。さらにそれらの波長の差が大きいほど、回転速度は速いということも分かるのである。

 宇宙の進化論の立場では、宇宙全体に銀河は無数に存在しているが、銀河そのものの質量は非常に大きく、時間の経過とともに銀河同士が自らの重力によって引き合い、衝突・合体を繰り返しながら最終的には一つの銀河に集約されるという考え方がある。

 ALPINEプログラムは、宇宙の進化論におけるごく初期の段階のプロセスについて詳細な研究を行う活動である。120億年以上昔のことを今リアルタイムで科学者たちが観測し、その謎を解明するという宇宙のタイムスケールの不思議さに驚いているのは筆者だけではないだろう。(記事:cedar3・記事一覧を見る

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