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IPOのお尋ね者カルロス・ゴーン、逃走は正解か、大きな過ちか?
日産自動車の前会長カルロス・ゴーン被告は日本時間の1月8日夜、逃亡先のレバノン・ベイルートでプレゼンのような記者懇談会を開催した。記者懇談会と表記するのは、参加メディアを自らのフィルターにかけて選別したことに起因する。
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厳しい質問が予想されるメディアを排除したいという思惑が見え見えのイベントだっだ。概ね10カ国の報道関係者、約150人参加した中に、肝心の日本から出席できたメディアは朝日新聞社、テレビ東京と週刊ポストの3社に絞られた。
この3社の参加が認められた理由は、他のメディア同様開示されていないが、新聞・TVと週刊誌に分散したそれなりの気配りはあっただろう。「なぜ日本のメディアが3社しか参加できないのか」という質問に対する回答は、「もう空きがなかった」というピント外れのものだった。
日産時代から巧みなプレゼン能力には一目置かれていたゴーン被告だが、汚名を雪(そそ)ぐために待ちに待った思いがそのまま表現されたかのような、2時間半に渡るエネルギッシュな「独演会」だ。
日本からの逃亡に関しては世界中を刮目(かつもく)させたゴーン被告だから、どうやって困難な逃亡を成功させたのかという好奇心と、経営者としての実績が認知されていた人物が、脱法行為に踏み切った決断に対する関心が膨れ上がったのは当然だろう。
日本の法律に違反して逃亡したことを問われても、「検察が法律に違反して情報をリークしていた」から、自分だけが責められるのはおかしいと質問をはぐらかす強靭な精神力に、並みのメディアは太刀打ちできない。
レバノンへの入国直後に、大統領と面談した旨の(未確認)情報が流れるような存在感を示し、記者懇談会での自信満々な様子を見るにつけ、レバノンでの生活に懸念を感じていないことは明らかだ。今後も持ち前のタフな神経と強烈な押し出しで、我田引水的な独自の考えを発信し続けるだろう。この点は確かにレバノンに逃亡した恩恵だ。
逆にゴーン被告とキャロル夫人が、夫婦そろってIPO(国際刑事警察機構)の”お尋ね者”になったことは重い。レバノン国内に居住している限り逮捕・拘束の心配はないだろうが、他国への渡航に関しては「もしかして?」という疑念を払拭することは難しい。
結局レバノン国内では自信満々だが、怖くて他国に渡航できない”レバノンの内弁慶”として残りの人生を過ごすことになりかねない。世界各国を自由に飛び回って来た今までの暮らしぶりが一転して、”レバノンの籠の鳥”に耐えられるのか。
今は「いつだって自由は甘美だ」と嘯(うそぶ)いていられても、”レバノン国内限定の自由”だったと気が付いた時に、どんな思いを抱くことになるのか、興味津々である。
日本で多少の制約はあったにせよ、「逃亡を計画・立案・実行する自由に恵まれた保釈生活」(皮肉だが)と、それほどの違いがあるとは思えない。
違うのは、レバノンではいつまでたっても逃亡者の烙印は変わらないのに対して、日本の裁判で無罪を勝ち取れば鳴り物入りで第一線に復帰する可能性があったことだ。
結局、無罪請負人を自称する弘中惇一郎弁護士に変更しても、自分自身の行為に対する負い目から生じる「有罪になるかも知れない」という恐怖には勝てなかった。ゴーン被告を逃亡へと突き動かしたのは、自らが犯した罪の自覚だったと考えて違和感はない。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る)
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