清水建設による大型洋上風力発電建造船建設の持つ意義

2019年8月20日 07:55

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建造する自航式SEP船のパース(画像: 清水建設の発表資料より)

建造する自航式SEP船のパース(画像: 清水建設の発表資料より)[写真拡大]

 歓迎すべき、かつ期待したいニュースに接した。7月24日、売上高1兆円を超えるスーパーゼネコンの1社である清水建設が、「500億円を投じ、大型洋上風力発電建造船を建設する」と発表した。井上和幸社長は「建造船は3年前から温めていた構想だ」とも語り、記者との遣り取りで「発電事業者にもなりうる」と言及した。

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 周知の通りドイツをはじめとする欧州諸国は、総発電量の3割から4割を再生可能エネルギーで占めている。そしてその主力となっているのが「風力発電」である。無論、一朝一夕にしてなったわけではない。大資本の進出=大規模施設建設で「コスト削減」を着実に進めてきた結果だ。

 再生エネルギーに詳しいアナリストは「スペインのイベルドローラや、洋上風力の首位企業となったデンマークのオーステッド社がその象徴的な存在」とし、こう続けた。「日本でも五洋建設やスーパーゼネコンでいえば大林組が既に参入している。そこに清水が発電事業者への道も視野に入れて、まず大型建造船に進出する意義は大きい」。

 井上社長の発言からも読み取れるように、清水建設の本気度は高い。2019年度にスタートした新5カ年中計では「インフラ・再生可能エネルギー新規事業に1300億円を投じる」と謳っている。

 3年前から温めていた⇔満を持しての進出の背景は、18年11月に成立した「海洋利用の調整に関する法的な課題がほぼ整備された」と評される新法が19年4月に施行となったことに求められる。

 安倍政権はエネルギー政策に関し、エネルギーミックスを示している。30年までに発電源の1.7%程度を、「風力発電にすることを目指す」としている。

 だが資源エネルギー庁が昨年2月6日に配信したレポートでは、「遅々とした歩み」が浮き彫りになった。太陽光発電は30年目標に対し約61%の導入が進んでいるのに対し、風力発電の導入は約34%に止まっている。配信元の省エネルギー・新エネルギー部新エネルギー課では、こんな課題を示している。

 (1) 発電コストの低減: 現行の日本の風力発電コストはkWh当たり13.9円。世界平均
 の約1.6倍。低下の進捗が不可欠。

 (2) 立地条件: 陸上での風力発電の開発が進み、適地が減少している。周辺を海に囲
 まれた日本では、洋上風力発電の拡充が期待される。

 実は「(1)」「(2)」の課題に、清水建設の参入は大きな意味を持つ。先のアナリストは、こう説明する。

 「清水が500億円を投じる建造船は自航式SEP船と呼ばれるもので、一口でいうと洋上にもかかわらず極めて固定度が高く安定した風力発電設備の設置が可能。コストパフォーマンスからいうと低減効果が高い。加えてこの船は先進国・欧州の上をいく8~12メガワット級の設備建設に対応できる仕様になっている」。

 勿論、洋上風力発電にはこのほかにもクリアしなくてはならない課題もある。例えば水域圏で漁業を営む住民との問題、などその最たるものといえる。だが洋上風力発電の拡がりは、日本のエネルギーの在り方を考える上で不可欠。清水建設の今後の動向を、しかと見定めたい。(記事:千葉明・記事一覧を見る

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