スプリントとTモバイルの経営統合が前進? ソフトバンクG孫正義会長の愁眉が晴れるか?

2019年7月26日 06:41

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 10兆円ファンドという前代未聞の資金規模で知られる「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」を設立し、運営しているソフトバンクグループ(SBG)は、株式市場における投資先の株価下落局面にも、金融派生商品を活用してリスク分散を効果的に進めているという孫正義氏。そのSBGが懸案事項としていたのが、米携帯業界の第4位に甘んじるスプリントを連結対象から切り離すことであった。

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 18年4月に米携帯第3位のTモバイルUSと経営統合で合意に達していたスプリントは、米連邦通信委員会(FCC)および米司法省の双方の承認を必要としていた。FCCと米司法省は、米携帯電話業界が4社で運営されて来たことにこだわりを持ち、TモバイルUSとスプリントが経営統合することで3社体制になることに懸念を示してきた。寡占リスクが発生して競争が低下し、安易な値上げや通信サービスの低下を招くことを懸念していると伝えられていた。

 先に動いたのはFCCだった。19年5月にはFCCのパイ委員長が「両社の合併が公益にかない、米国全体で5Gの展開が加速される」と声明を出した。背景には、スプリントとTモバイルUSが農村部における通信網の整備を行い、プリペイド事業を売却すると約束したことが一定の評価を得たという前提がある。本音は、世界中で進められている5Gへの激しい競争に、米国が遅れてはならないという思惑を指摘する声もあった。

 続いて対応が注目された米司法省は、独自のスタンスで日本の独占禁止法に相当する反トラスト法との整合性を意識していると伝えられていた。その最中の6月にニューヨーク州やカリフォルニア州などを中心とする10の自治体が、「料金の値上げやサービスの低下が懸念される」として、スプリントとTモバイルUSの合併差し止めを裁判所に提訴したために行方がにわかに混沌としていた。

 18年秋には米通信1位のベライゾンが5Gの家庭向けブロードバンドサービスを一部市場で始めている。有利子負債が4兆円を超える危険水域にあるスプリントは、FCCに提出した書類に「当社(スプリント)は競争力を維持できない」と記載していたし、5Gの巨額な投資に耐えられる財務状況でないことは自明のことだった。

 反トラスト法との整合性を審査していた米司法省は、スプリントとTモバイルUSが、プリペイド式の携帯事業と一部の周波数帯を衛星テレビ大手のディッシュ・ネットワークに売却する条件であれば、市場の競争環境が適切に保たれると判断したようだ。

 スプリントとTモバイルUSの経営統合が実現すると、84%だったスプリントに対するソフトバンクGの出資比率は27%まで低下し、子会社のくびきから外れて持分適用会社となる。「子会社(スプリントが念頭にあるだろう)の負債は親会社として弁済する義務がない」と強弁してきたSBGの孫正義会長兼社長にとって、積年の頭痛の種が解消できる好機到来かも知れない。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る

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