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アメリカがEVへの動きに水を差す! EVはこれからどうなる?(前編)
テスラのEV。(c) 123rf[写真拡大]
現在世界の自動車業界を席巻しているEV(電動自動車)化への流れは激しい。元々は欧州におけるディーゼルエンジンの排ガス不正事件が環境問題を再認識させ、環境負荷が少ないとされるEV化への流れが一気に形成された。
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17年にドイツで開催されたG20首脳会議の直前に、フランスが地球温暖化対策として40年までに国内でガソリン車とディ-ゼル車の販売を禁止する方針を打ち出したのに続き、イギリスが40年までに完全電動車以外の新車販売を禁止すると発表したことがEVへの流れを決定的にした。両国とも永年に渡って環境汚染に悩まされて来た過去があり、有権者へのアピール効果を最大限に狙ったものとも言える。
その後、中国も国内における事業規模に応じて、完成車メーカーに一定量の「新エネ車」の生産と販売を義務付ける方針を打ち出した。中国の大気汚染の状況は過酷で、社会の大きな不満要因となっていたため、環境負荷の少ないEVへの傾斜には相応の説得力が認められるが、うがった見方をする向きからは長期間に培った技術の蓄積で先行される他国の内燃機エンジン技術を後追いするよりも、一気に舞台の転換を図って同じスタートラインに並ぼうとする意志を指摘する声もある。確かに、中国が想定する「新エネ車」の範疇に、日本の自動車メーカが得意としているハイブリッド車は含まれていない。
国際エネルギー機関(IEA)の調査では、16年のEVとPHV(プラグインハイブリッド車)の累計台数で、中国は65万台となり、56万台の米国を抜いて世界一になっている。中国が電動自動車の大国へと変貌した背景には政府の手厚い補助がある。消費者には減税の恩恵を謳い、メーカーには補助金を与える。中国の大都市で自動車登録をすることは非常に困難だが、EVであればナンバーを優先的に取得できる。政策によって、巨大な国内市場をEVに染め上げて数的優位に立つことが可能な社会のようだ。
17年7月にはアメリカのテスラが「モデル3」という初の量産車種の出荷を始めることが話題になった。当時テスラはアメリカにおいて2年連続でEVシェアの首位を占め、18年度には年産50万台という途方もない計画を掲げた。その後、量産計画が壁にぶち当たり、再三の見直しを余儀なくされていることは周知の通りだ。
ここまで見てくれば世界がEV化に向かって一目散だと理解することに何の不思議もない。
しかし、アメリカの真意は別にあるようだ。18年8月にアメリカで自動車の燃費規制を緩和するプランが公表された。オバマ前政権が決めた燃費規制が緩和されることに加えて、カリフォルニア州が独自に進めるZEV(Zero Emission)規制を撤廃することも提案された。かねてから「ダブルスタンダード」と指摘されて来たアメリカ政府と州政府による車両規制を統一しようとする動きだ。アメリカ運輸省(DOT)と環境保護庁(EPA)の試算によると、HEV(ハイブリッド車・簡易式含む)の普及率はオバマ前政権時に決めた燃費規制の強化によって30年に56%に到達する見込みだったが、今回の規制緩和が実行されると3%にとどまると見られる。EVへのうねりが失速する可能性が出て来た。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る)
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