日野と独VW、商用車分野で提携交渉を開始した両社の思惑は

2018年5月12日 06:29

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共同記者会見の様子。(画像: 日野自動車の発表資料より)

共同記者会見の様子。(画像: 日野自動車の発表資料より)[写真拡大]

 4月12日、日野自動車と独フォルクスワーゲン(VW)がトラック等商用車の分野で提携交渉を開始すると発表した。商用車部門の電動化や自動運転の技術開発、販売面での協力等、物流を含む幅広い分野で協業の可能性を探る。商用車に係る先端技術は独ダイムラーが抜け出し、世界での販売は中国勢が急増している。

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 日野はトヨタ自動車が50.1%を出資する子会社であるが、乗用車部門でトヨタの最大のライバルであるVWと組み、技術と販売の両面でテコ入れして生き残りを目指す。日野の下義生社長は記者会見で「商用車が100年に1度の大変革期に直面していることについて、強い危機感をVWと共有している」と強調している。日野と交渉するVWトラック&バスのアンドレアス・レンシュラー最高経営責任者(CEO)も、幅広い協業に発展する可能性があることを表明した。

 ディーゼルエンジンの排出ガス不正問題で、VWの本社が大きく動揺していた昨年6月に、ディーゼルエンジン分野やディーゼルハイブリッドの分野で、研究開発を共同で行えるパートナーとして日野とVWとの提携交渉への模索が始まった。

 アジアで存在感を示す日野と欧州を主力とするVWが、互いに補い合う存在に巡り合った。VWグループにとって、商用車事業を世界展開する上で、中国を始めとするアジア市場にネットワークを持つ、日野の協力が必要であると判断した。乗用車で世界首位のVWと、3位のトヨタとの組み合わせは、圧倒的なスーパーパワーの誕生を感じさせるが、乗用車の分野で存在感を示す親会社を持っていても、競合に打ち勝って行けるのかという危機感が、両社共通の認識である。大都市での大気汚染が拡大し、環境規制がますます厳しくなる潮流がある。陸運業界の運転手不足を直視すると、自動運転や安全機能の充実は、陸運業界という顧客をつなぎとめる必要条件となっている。

 大型商用車の市場は世界で概ね年間300万台になる。昨年実績で、トップのダイムラーは31万台超、2位と3位の中国勢合計で52万台超となり、上位3社のシェアは合計で28.2%である。中国メーカーは4位と6位および10位にも名前を連ね、インドのタタが5位、ABボルボは7位、米国のパッカーが8位、VWが9位でトップ10が構成されている。日野とVWの提携が成立すると、世界シェアは約8%の4位に躍り出ることになる。

 日野は全体の7割を国内とアジアでの販売に依存し、欧米市場をどう攻略するのかが大きな課題となっていた。17年には米・露に新工場を建設する方針を定め、今回のVWとの提携が成立すると、欧州にも基盤を固めることができる。VWにとっても、日野が持つアジアの販売網が大きな魅力だ。

 今回の日野とVWの提携は、バスや商用車等の大型車メーカーの世界的再編の呼び水となる可能性を秘めている。交渉の推移が大きな注目を集めている所以である。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る

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