【後編】東急パワーサプライ村井健二氏に聞く「電気を通して作る生活モデルと電力業界が求める人材像」

2017年2月28日 21:27

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記事提供元:biblion

 【連載4回目】電力業界への「異業種企業の新規参入」の代表格である株式会社東急パワーサプライ。鉄道や百貨店、不動産、ホテルなどで知られる東急グループの電力業界参入には、どのような背景があったのか。〝沿線密着〟〝地域特化〟型ビジネスモデルについて、代表取締役社長の村井健二氏にお話を伺いました。(インタビュアー:一般社団法人エネルギー情報センター理事・江田健二氏)

【後編】東急パワーサプライ村井健二氏に聞く「電気を通して作る生活モデルと電力業界が求める人材像」

 本連載は書籍『3時間でわかるこれからの電力業界―マーケティング編―5つのトレンドワードで見る電力ビジネスの未来』(2016年11月発行)より、電力ビジネスの今後を占うインタビュー記事を再構成して掲載します。(インタビュー日:2016/6/21)

株式会社東急パワーサプライ代表取締役/村井健二氏

株式会社東急パワーサプライ代表取締役/村井健二氏今回の連載でお話を伺ったのは、 東急グループの一員である、2015年設立の株式会社東急パワーサプライ代表取締役の村井健二氏です。

地元の店舗とも連携。地域全体でエコ生活の流れをつくる

ところで東急線の沿線住民世帯数は250万世帯だそうですが、貴社はその中の55万世帯くらいを中長期的な契約世帯数の目標とされているそうですね

 現在、契約世帯数の密度が一番高いのは横浜市青葉区です。ここで約1割の住民の方々がすでに私どものお客さまになってくださいました。
 駅で言うとたまプラーザ、あざみ野、青葉台……昔から東急線が走っている住宅街、人口的にも厚みのある地域です。
 そこの方々にわずか3ヵ月で約1割入っていただきましたので、私どもはやはり先ほどお話ししたような考え方をどんどん提案していくとよいのではと思っております。

 ちなみに、東急線沿線エリア以外でも電力販売のサービスを展開していて、すでに静岡県や埼玉県の方々も数多く契約されています。
 実は首都圏でいくつかのケーブルテレビ事業者と提携しておりまして、そちらにはこの東急線沿線モデルを移植する形で展開していただきたいと思っています。
 私どもの取り組みを1つのモデルとして、地域の商店街と一緒にやっていくとか、地域全体でエコ生活を進める流れをつくっていくときの材料に使っていただければ、と考えています。

電気を使えば使うほど安くなるような設定で売っていくやり方がある一方で、使わないことでお得になりますという逆説的な販売促進が貴社には見られますよね。これはやはり節電を意識されてのことでしょうか。

 そうですね。電力業界の一プレイヤーとして節電を訴える役割は担っていると自覚しております。
 ただし、そこで重要になってくるのが節電方法の提案の仕方です。

 例えば、夏の冷房温度は28度にしてくださいと頭ごなしに要請することが本当に正しい方法なのかどうか、よく考えてみる必要があると思います。
 28度というのはお年寄りやお子さんなど人によっては厳しい温度設定でしょうし、それで熱中症を起こされては大変です。
 そこで、家の中が暑いのであれば日中は外に出て涼んでもらったほうがよいという話になります。
 電力産業としても、電力需要を減らしたい時間帯というものがあります。ですから、その辺りは訴求の仕方を工夫する必要があります。

 こうした考え方は通勤についても言えることです。私どもでは朝7時までに東急線各駅の自動改札機から入場するとTOKYU POINTが10ポイント貯まるというプランをご用意していますが、こうした提案は通勤ラッシュの混雑緩和だけでなく、朝食時の電力使用ピークを前倒しにするという効果もあります。
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Licensed by Getty Images

東急型ビジネスモデルは、地方都市や他の鉄道事業者では活かせないのか?

今、全国各地で地域に根差した新しい電力ビジネスが起こっています。東急さんとはバックグラウンドも規模もやり方も違うと思いますが、貴社の取り組みや仕組みが地方にとってもヒントになるのではないでしょうか。

 そうなると嬉しいですね。地方創生の取り組みの中で〝地産地消〟が重要なキーワードになっています。
 電力ビジネスに関しても、地方自治体の出資を受けた新たな電力会社が、ソーラーパネルを設置したりバイオマス発電所を建設したりし、そこで作られた電気を地元の電力会社が購入して、その地域に供給していくという仕組みが広がりつつあります。

 私どもの場合は都市部ですので、この地産地消の仕組みを取り入れるのが難しいのですが、その代わりと言ったら何ですが、私どもは電気というサービスを通じてその地域を巻き込むということをやっているわけです。

 地産地消型の電力ビジネスは消費を促し雇用の創出につなげるという狙いもありますが、私どもの場合は東急グループの施設に出かけて食事や買い物をしていただくなど、ライフスタイル提案型ビジネスで消費を促しているのです。
 これが都市部でできる地産地消なのでは、と考えています。弊社のこうしたビジネスモデルが地方で電力事業に携わっている方々の参考になるのであれば、例えば地方では皆さん電車はあまり使わないかもしれませんが、公民館あるいはスーパーマーケットでコンサートを開催することなどで同じような展開が見込めるかもしれません。

 これまでにも地域コミュニティの中でイベントを催した事例などの蓄積はあるでしょうから、それを電力ビジネスと結びつけることはできるのではないでしょうか。
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お話をお伺いして、やはり鉄道が基盤にあるということが貴社の特徴であり強みなのだと再認識しました。

 東急グループは鉄道だけではない事業の多角化が高度に進んでおりますし、〝東急マン〟としても鉄道会社というよりは「都市生活会社」とみずから定義している部分がございますので、他社との違いはその辺りかもしれません。
 また、東急線沿〝線〟とは申しますが、沿線全体が〝面〟になっている感じがあって、地域住民の方々全体へのサービスに目を向けているのが東急グループの強みです。

求める人材は「電力のプロ」「多種多様な生活体験をイマジネーションできる人」

少し人材、採用関連のお話をさせていただきます。それぞれの部署によって求められる適性は違うとは思いますが、貴社全体としてこれから必要な人材のイメージはどのようなものでしょうか。

 現在社員は50~60名ですが、それぞれの出身業種は10数種にも上り、非常に多様化が進んでおります。もちろん電力のプロも多数おりますが、私どもの企業スローガンが「生活体験の提案」ですから、やはりそれなりにいろいろなビジネスを経験してきた人たちが揃っています。

 その中でまず1つは「電力のプロ」を求めますということですね。私どもがいくら異業種参入組で小売に特化していると申しましても、やはり電力のサービス群の中におりますので、プロ中のプロ、一流のプロは必要です。
 大手電力会社出身や、新電力の小さい会社で業績を伸ばしてこられたような方で、〝イキのいい方〟が欲しいところです。
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Licensed by Getty Imagesもう1つは、「多種多様な生活体験をイマジネーションできる人」を広く求めています。
 繰り返しになりますが、よそとは大きく違う私どもの特徴は、東急グループ全体を挙げて、電気サービスに様々な生活サービスのネタをトッピングで載せていくところにあります。
 東急グループのいろいろな商材を複合的に組み合わせてコンビネーション化していくためには、いろいろな業種の人がいたほうがよいというわけです。

 先ほどお話ししたようにケーブルテレビ事業者と組んだ例がありますが、今後はさらにいろいろな業種業態の方々とご一緒させていただくケースが増えていくと思います。
 そうしたときにしっかりと手を組むためには、こちらも専門知識を持った人材を担当にする必要があります。そういう意味で、東急グループ各社の業態に合わせて、不動産出身の人やリテール系の人などももっと必要になってくると思います。

今後、新卒者の採用も検討されると思うのですが、求められる人材のイメージは例えばどのような学生ですか。

 これもまた先ほどお話しした2種類になると思います。言い換えれば、「電力のプロ」は理科系のエキスパートということです。
 そしてこれからの電力業界に必要なのは、電気工学的な技術や知識だけではなくて、いわゆるITの分野のそれらです。
 ですから、従来なら電力業界にあまり興味がなかったような情報通信技術の分野の勉強をした皆さんにもぜひ来ていただきたいです。

 それから、「多種多様な生活体験をイマジネーションできる人」というのは、いわばマーケティングのセンスの持ち主ということです。
 私どもは常に、どうやってマーケティングしていくかというアイデアを考えています。これは多分今までの電力業界にはなかった考え方ではないでしょうか。
 現状ではまだ国民の2%しか新電力に移っていないわけですから、残りの98%をどうやって市場として開拓するか。ここにおもしろさを見出せる人材が欲しいところです。

ルールが〝常に形成され続ける〟電力業界をめざして

最後に、今後の電力業界全体について描かれているイメージなどがありましたらお聞かせください。

 業界全体について心の底からお願いしたいことがあるとしたら、公正な競争を担保するルールが〝常に形成され続ける〟ということです。
 発電・送電・小売の3つの事業が、それぞれ等しく潤うことができるような公正さ、これを実現できるような新しいルールづくりを絶えずしていくということ。これはもちろん非常に難しい話ではありますが、ルール自体が固定で不変であるとかえって不公平を生じることもありますから、常にルールの見直しを図っていくことが重要だと思います。

 例えば、これは欧米の話ですが、ある10年を抜き取ると発電業者は儲かり小売業者は駄目な時代があります。そこでルールを変えると、今度は次の10年は小売が元気で発電が静かになってしまう。

 ルールは人為的なものですし、何をもって公正とするかということも永遠に議論し続けなければならないテーマです。ルールが〝常に形成され続ける〟と申し上げたのはそういうことです。業界全体が硬直化してしまっては駄目なのです。
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Licensed by Getty Images今回はこういう難しさ、流動性にリスクを感じてこの業界に参入してこられなかった方々も多くいらっしゃったのではないかと思います。
 しかし私どもは、エネルギー産業のそうした流動性を承知して、リスクも全部呑み込んだ上で、それでも沿線での顧客基盤強化をめざしたわけです。
 沿線の住民の方々にとって総合的な生活サービスを提供する役割を担っていきたいという気持ちがリスクを上回った結果です。

 先日、米国カリフォルニア州でトヨタ自動車のプリウスなどのハイブリッドカーがエコカーの対象から外されるという報道がありました。
 厳しい排ガス規制がさらに強化された結果ですが、このように政策の変化への対応を直接的に強いられるのはこの業界も同様ですし、その必要がこの先もずっと生じてくるはずです。
 今はまだ電力市場開放がスタートしたばかりですが、今後の展望を考えれば電力業界は非常に奥の深い産業だと思います。その中で何か新しいことをしたいという志を持った方はぜひ挑戦してみてはいかがでしょうか。(今回で本連載は終了となります)

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