東大など、重力レンズ効果で拡大されたモンスター銀河の内部構造を解明

2015年6月11日 15:31

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今回の研究成果の模式図。(地球の画像:気象庁ホームページ、アルマ望遠鏡の画像:ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)/C. Collao (ALMA) )

今回の研究成果の模式図。(地球の画像:気象庁ホームページ、アルマ望遠鏡の画像:ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)/C. Collao (ALMA) )[写真拡大]

  • アルマ望遠鏡がとらえたモンスター銀河SDP.81のアインシュタイン・リング(東京大学の発表資料より)
  • アルマ望遠鏡と重力レンズ効果の高精度解析により明らかになったSDP.81の内部構造モデル(左)と、仮に重力レンズを介さずにアルマ望遠鏡(中央)とハッブル宇宙望遠鏡(右)で見た場合のSDP.81の見えかた。(東京大学の発表資料より)

 東京大学理学系研究科の田村陽一助教と大栗真宗助教および国立天文台の研究グループは、アルマ望遠鏡がとらえた117億光年彼方のモンスター銀河(※)「SDP.81」の画像を最も精緻に再現できる重力レンズ効果モデルを発表した。

 重力レンズ効果は、質量によって時空の歪みが生じ、光路が曲がる現象である。非常に重い天体の周囲で必ず生じ、その向こう側の天体の見かけの姿を拡大・増光する性質があることから、宇宙初期の銀河やブラックホール、暗黒物質を研究するための手段として、この重力レンズが頻繁に利用されている。

 2015年2月にアルマ望遠鏡が撮像したモンスター銀河「SDP.81」の科学データが、世界同時公開され、重力によって、その姿がリング状(アインシュタイン・リング)に引き伸ばされている様子が確認された。このデータには背景のモンスター銀河や前景銀河のブラックホールの謎を解く鍵が秘められていると期待されているが、アインシュタイン・リングは完全な円弧ではなく、屈曲していたり分裂していたり細かい粒を持っていたりするなど、構造があまりに精緻かつ複雑なため、物理的な解釈は困難を極めた。

 今回の研究では、SDP.81をもっとも精緻に再現できる重力レンズ効果モデルを、世界に先がけて作り上げた。その結果、重力レンズ効果によって拡大されたSDP.81の詳細な内部構造を解明しただけでなく、重力レンズ効果を引き起こしている手前の銀河に超巨大ブラックホールが存在することを世界で初めて示した。

 アインシュタイン・リングの複雑な微細構造については、モンスター銀河SDP.81の内部構造を反映しており、モデルを用いたレンズ像の再構築を行ったところ、差し渡し200~500光年の塵の雲が、およそ長さ5000光年の楕円状の領域に複数分布していることが分かった。

 さらに、アインシュタイン・リングの中央に出現することが予想される背景銀河の「中心像」の高感度探査が可能となった。前景銀河にブラックホールが存在すると、重力レンズ効果によって、中心像だけが著しく暗くなる。これを逆手に取ると、中心像の明るさから、前景銀河のブラックホールの重さを量ることができる。SDP.81の中心像はきわめて暗く、前景銀河の中心に、太陽質量の3億倍以上におよぶ超巨大ブラックホールが存在することが示された。

 今後はアルマ望遠鏡と重力レンズの組み合わせによって、なぜモンスター銀河が形成されるのか、どのように超巨大ブラックホールが成長するかが明らかになることが期待される。

 なお、この内容は「Publications of the Astronomical Society of Japan」に掲載された。論文タイトルは、「High-resolution ALMA observations of SDP.81. I. The innermost mass profile of the lensing elliptical galaxy probed by 30 milli-arcsecond images」。

※モンスター銀河:地球からおよそ100億光年かなたで爆発的に星々を生みだしている大質量銀河。

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