【経済分析】数式による経済予測はなぜ不可能なのか(上)

2014年6月2日 10:51

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記事提供元:さくらフィナンシャルニュース

【6月2日、さくらフィナンシャルニュース=東京】

前回のブログでは、シンクタンクが経済予測に使っている計量モデルでは、経済がどのように「変化」するかを予測することはできない、ということをお話しました。

今回はもう一歩踏み込んで、「数式によって経済を予測すること自体がそもそも不可能である」ということについて説明したいと思います。

昔、私がまだ小学生の頃、通っていたそろばん塾の先生が、「1+1は本当は2じゃないんだよ」と私たち生徒に教えてくれたことがありました。なぜかその言葉が頭の片隅にずっと残っていましたが、やがて月日が流れ、「先生が言いたかったのはこのことだったのではないか」とようやくその意味がわかったような気がしました。もっとも、その先生はもう亡くなっており、今となってはその真意を確かめるすべはないのですが…。

この「1+1=2」という最も簡単な数式についてまず考えてみたいと思います。

「1+1=2」を小さな子供がどのように理解するかを考えてみると、きっと机の上にりんごをひとつ置き、もうひとつりんごを机の上にのせて数えてゆくと思います。

ここで重要なのは、子供は「1+1=2」という数式を必ず現実世界と結びつけながら理解してゆくということです。すなわち、「1+1=2」は数学的概念であると同時に、私たちが現実世界を認識するひとつの仕方である、ということです。

それでは、もう少し複雑な現実を数式に結びつけてみたいと思います。例えば、普段は最大40kgの物を持つことができるAという人と、最大で60kgが持てるBという人が2人で合計何kgの物を持つことができるでしょうか。

「答えは簡単、40+60=100kg」 … でも本当でしょうか。もしお互いにAとBが反目し合っている仲だったとしたら、とてもやる気が起きず2人合わせて80kgしか持てないかもしれません。逆に、お互いに親友同士であれば普段以上の力が出て120kgかもしれません。
気まぐれな人間だからこんなことになるのだと思われるかもしれません。それでは、次のような例はどうでしょうか。今、高さ1cmの積み木が垂直に30コ積み上げられています。その上に積み木をさらに10コのせたら高さは何cmでしょうか。答えは、30+10=40cmでまちがいないでしょうか。もちろん、問題なく積み上げることができれば40cmとなりますが、崩れてしまう場合もあります。この崩れてしまった状態を30+10=40という数式で表すことはできないでしょう。

何だかへ理屈のように思われるかもしれませんが、何が言いたかったかというと、「数式で完全に表すことのできる現実世界は思ったほど多くない」ということ、裏返せば、「現実の世界は1+1=2という数式で表せるほど単純ではない」、ということです。なぜかというと、上の2つの例でもわかるように、2つのものを足しあわせた瞬間に、AとBの間で、また積み木同士の間で相互作用が生じるためです。

もっとも、先のAとBが親友同士の場合、Aの持ち上げる力が40kgから50kgに変化し、Bの力が60kgから70kgに変化して2人で120kgを持ち上げたのだとすれば、50+70=120kgと記述することができるかもしれません。しかし、それはあくまでも2人が出会ったほんの一瞬において成り立つ数式であり、もう次の瞬間には2人の力は変化しているかもしれないのです。

このように、最初に「1」という値をとっていた要素も、他の要素に出会ったとたんに要素同士の相互作用によって振動を起こして、次の瞬間には「1」以外の値に変化していると考えるべきなのです。つまり、「1+1=2」は数学的真実であることに変わりはないものの、それによって記述することができるのは、「机の上にのったりんご」という複雑な動きを伴わない静止した世界、いわば、生きた世界’とは次元の異なる、変化の瞬間、瞬間をカメラのシャッターで捉えた‘写真(架空)の世界’であるということです。そこには、生命現象のような要素同士の複雑な相互作用により常に変化していく世界を私たちが認識するときの限界の問題が含まれています。1+1≠2は数学的には確かに誤りですが、この世界の実相をあえて数式で表現せよと言われたならば、1+1≠2と表現する方がむしろより真実に近いのではないかと考えられるのです。

要素同士で相互作用がはたらくために、現実を数式で表わすことがいかに難しいかを、さらに次のような具体例で考えてみたいと思います。

例えば、海に囲まれたある島にネズミが住んでおり、1年目に1,000匹いて、毎年4倍ずつ数が増えていくとします。2年目には4,000匹、3年目には16,000匹、4年目のは64,000匹 … と島にはどんどんネズミが増えていくことになります。これは数式で、

Xn+1=4Xn

(Xn…n年目の個体数 Xn+1…n+1年目の個体数 X1=1,000 )

と表すことができます。このように、来年のネズミの個体数が今年の個体数と比例関係にあることを「線形」といいます。

でも、現実にはネズミが無制限で増えていくことは有り得ません。島の広さや餌の量には限りがあり、また共食いなども起きるために、増えすぎるとある時期に死滅して急激に数が減少することが予想されます。そして、減少すると再び増え始め、一定の上限に達するとまた減少するというパターンを繰り返すことになります。つまり、島にネズミが無制限に増えていくことを表していた上の式は、さきほどの「1+1=2」と同様に非現実的な仮想世界を表していたことになります。なぜかというと、実際には、ネズミの個体数が増えると繁殖率(先ほどの例では毎年4倍)が低くなり、その結果個体数が減ると今度は逆に繁殖率が高まるという具合に、個体数と繁殖率との間に相互作用が働いているにもかかわらず、繁殖率が毎年4倍という一定の値に固定されていたからです。

そこで次に、このような相互作用を考慮して、できるだけ現実の世界を表すような数式を考えてみたいと思います。

Xn+1=4×(1-Xn/10,000)× Xn

このように、繁殖率を4倍という一定の値にせず、

4×(1-Xn/10,000)とすると、個体数Xnが増えていくと繁殖率が次第に低くなっていき、逆に個体数が減ると繁殖率が高くなる、より現実に近い数式となるわけです。この時、1年目(X1)の固体数を1,000匹とすると、ネズミの数は毎年次のように変化していきます。

2年目…X2=4×(1-1,000/10,000)×1,000=3,600匹

3年目…X3=4×(1-3,600/10,000)×3,600=9,216匹

4年目…X4=4×(1-9,216/10,000)×9,216≒2,890匹

このように、4年目にネズミの数は減少に転じ、その後はこのグラフのように、10,000匹を上限として増えたり減ったりするパターンを繰り返します。このように、来年の個体数と今年の個体数が単純に比例しなくなることを、「非線形」といいます。【続】

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