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米「敗戦」後のドル【フィスコ・コラム】
*09:00JST 米「敗戦」後のドル【フィスコ・コラム】
中東紛争突入から1カ月超。トランプ米大統領の気まぐれにより、和平合意への期待感と戦況悪化の懸念が錯綜し、不透明感は深まるばかり。イラン側は態度を硬化させ、紛争収束は見えません。こうした事態は、今後のドルの価値にどのような影響を与えるでしょうか。
米国とイスラエルによるイランへの攻撃、対するイラン側の「報復」が続き、向こう2-3週間がヤマ場となりそうです。原油相場は再び強含み、ドルは有事の買いで全面高。ただ、この紛争で、米国がイランの核開発を止められないまま撤退すれば、「実質的な敗戦」と見なされる可能性がありそうです。戦争の勝敗は戦場での優劣だけで決まるものではなく、掲げた戦略目標を達成できたかどうかで判断されます。
今回のケースで米国の主な目的が核開発の阻止にあるなら、その未達は明確な失敗でしょう。軍事力は優勢だったとしても、最終的に相手の行動を変えられなければ、政治的には敗北と受け止められます。この構図は1975年まで続いたベトナム戦争にも通じます。米国は戦闘で壊滅的な打撃を受けたわけではありませんが、体制転換という目的を実現できず、撤退したことで敗北と総括されました。
市場の見方はシビアです。今後、米国の関与が弱まり、イランの核開発が続く状況は、中東の力関係の変化を意味します。サウジアラビアなど周辺国の核開発意欲を刺激し、地域全体で軍拡競争が進む懸念が強まります。また、緊張の長期化は原油供給への不安を通じて価格の高止まり要因となり、インフレ圧力として世界経済に波及。結果的の米国の抑止力が減退したと見るのが自然です。
実質敗戦が通貨に与える影響は、時間軸で整理する必要があります。撤退直後は不確実性の高まりから資金が安全資産に向かい、ドルのような基軸通貨はむしろ買われる局面もありますが、その動きは長続きしません。時間の経過とともに焦点は国家の信認へ移り、戦略目標を達成できなかった事実が重く意識されます。財政負担の増加や国際的影響力の陰りが重なり、資本の流れは徐々に変化していきます。
実際、ベトナム戦争期のドルも終戦を待たずに信認は揺らぎ始め、1971年の金ドル交換停止という制度変更に至りました。為替市場は戦争の勝敗そのものではなく、その過程で生じる構造変化を先取りして織り込みます。中東紛争で「実質敗戦」と受け止められた場合、不確実なトランプ政権の政策運営を通じた信認低下も重なり、その価値は徐々に押し下げられていく展開となりそうです。
(吉池 威)
※あくまでも筆者の個人的な見解であり、弊社の見解を代表するものではありません。《CN》
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