【経済分析】計量モデルでなぜ経済は予測できないのか(下)

2014年5月31日 16:49

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記事提供元:さくらフィナンシャルニュース

【5月31日、さくらフィナンシャルニュース=東京】

景気を予測するとは、煎じ詰めれば景気の「変化」を予測することにほかなりません。しかし、以上からも明らかなように、計量モデル自体はもともとこの肝心の「変化」を予測するための道具ではないため、実際には計量モデルの前提条件を様々に置き換えることによって、計量モデルの外で別途「変化」を予測することになります。

たとえば、予測者が「景気を好転させるために政府が公共投資を10兆円実施する」と予想した場合、先ほどの3本の連立方程式の最初の式 Y = C + I に政府支出の10兆円を加えて、

Y = C + I+10(兆円)
C = 0.6Y
I = 50(兆円) + 0.2Y

という連立方程式を解くと、Y=300兆円、C=180兆円、I=110兆円となり、GDPは300兆円となります。公共投資10兆円という前提条件がなかった最初のケースではGDPは250兆円でしたので、前提条件を加えたことによってGDPは50兆円増えたことになります。このように、計量モデルの中では決定されない前提条件を変化させることによってGDPを予測者が恣意的に動かすことができるのです。つまり、経済がどのように変化すると予測者が見ているかは、予測者がこの前提条件にどのような数字を置くかに反映されることになるわけです。

計量モデルでは、政府支出のほかにも、金利や為替、株価などのマーケットや海外景気、原油価格など、国内経済に対して外部から働きかけると考えられている要因が予測の前提条件となります。しかし、前提条件をどのように置くかは予測者の勘なり漠然とした経験にまかされているのが実態であると思われます。

その場合、足下の景気が上向きであればこの勢いがしばらく続きそうだと感じられるでしょうし、足下の景気が悪化していれば景気は今後さらに悪くなりそうだと感じるのが普通でしょう。このように、変化の予測は足下の景気のモメンタム(勢い)に大きく左右されるのが実情です。予測時点の景気のモメンタムとはまさに予測の前年度の成長率であり、その結果、シンクタンクの予測値は前年度の実績値に近くなるものと推測されます。また、予測がはずれた時のリスクを避けるため、‘シンクタンクの横並び意識’が強くなることも、前年度の実績値と大きくかけ離れた予測がしづらくなる要因になっているとみられます。

シンクタンクの予測がなぜはずれるのか、そのカラクリがおわかり頂けたのではないでしょうか。

次回は、もう一歩踏み込んで、計量モデルだけではなく、そもそも数式を使って経済予測を行うことが原理的に難しい、ということをお話ししたいと思います。【了】

のだせいじ/埼玉県狭山市在住の在野エコノミスト
1982年に東北大学卒業後、埼玉銀行(現埼玉りそな銀行)入行。94年にあさひ投資顧問に出向し、チーフエコノミストとしてマクロ経済調査・予測を担当。04年から日興コーディアル証券FAを経て独立し、講演や執筆活動を行っている。専門は景気循環論。景気循環学会会員。著書に『複雑系で解く景気循環』(東洋経済新報社)『景気ウォッチャー投資法入門』(日本実業出版社)がある。著者のブログ『私の相場観』より、本人の許可を得て転載。

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