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【経済分析】計量モデルでなぜ経済は予測できないのか(中)
【5月31日、さくらフィナンシャルニュース=東京】
それでは、上記の?の式で設備投資の金額もわからない場合はどうでしょうか。この場合も、過去の経験則からGDPと設備投資の間にたとえば、
I(設備投資)= 50兆円 + 0.2Y … ?
という式で表されるような一定の関係があることがわかれば、設備投資、個人消費、そしてGDPのすべてが判明するのです。つまり、 Y = C + I
C = 0.6Y
I = 50(兆円) + 0.2Y
という3本の連立方程式を解いて、Y=250兆円、C=150兆円、I=100兆円、と全ての答えが出てきます。
このように、GDPとそれを構成する設備投資、個人消費の相互の関係を一連の数式で表したものを計量モデルといいます。シンクタンクはまさにこのような計量モデルを使って経済を予測しているのです。
GDPは実際には設備投資や個人消費だけでなく、住宅投資や公共投資、輸出入などによっても構成されており、また、たとえば設備投資はGDPだけではなく金利など様々な要因とも関係してきますので、実際にシンクタンクが使っている計量モデルはたとえば連立方程式の数が300本もある複雑なものですが、その原理は全く同じです。答えを求めなければならない経済変数(上記の式ではY、C、Iの3つ)の数だけ、相互の関係を表した方程式を作って、それらを解いて最終的にGDPを求める手順となります。
さて、このようにして求められたGDP、すなわち経済全体の姿は、それを構成する消費や設備投資といった要素同士の関係が確かに現実の経済の構造を忠実に表現している点で、全体のバランスがとれたものとなっています。経済変数間の関係式をつくる際に使われる様々な経済理論や統計的手法も、全てはこの経済の「構造」を把握するために採り入れられます。つまり、シンクタンクの予測で最も重視されているのは、経済の「構造」という側面なのです。
しかし、通常、経済が大きく変動するときには、経済の構造自体も大きく変化するものです。たとえば、先の?式 C = 0.6Y のYにかかっている係数の0.6は「過去の平均的な傾向として個人消費がGDPの6割であった」ということを示しているにすぎず、経済が大きく変化するときにはこの関係も変化することになります。つまり、計量モデルによって記述される経済はあくまでも経済の構造が安定していることを前提とした、いわば経済の静的な側面に過ぎず、予測しなければならない肝心の「変化」という経済の動的側面は計量モデルによっては捉えることができないのです。これはちょうど、犬を解剖してその生物学的構造が解明できても、飼い主にしっぽを振ってついていくその犬の行動が予測できないのに似ています。犬の「行動」はその肉体的な「構造」とは全く異なる犬の側面だからです。【続】
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※この記事はSakura Financial Newsより提供を受けて配信しています。
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