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最低保証年俸の設定で産業構造の転換とイノベーションを(5/5)
この動きは結果的に、そこそこの規模の企業の経営者や役員=50代以上という日本の状況を、45歳に節目を置いたキャリア形成を描くことで、同じ企業に残るにしても、46歳になる前に転職するにしても、日本企業の役員層、本部長層等のコアマネジメント層を、一気に40代と欧米並みに引き下げることができるのではないかと期待している。特にイノベーションを起こすこと、産業構造の転換を促進するためには有効ではないだろうか。
国全体のコンセンサスとして制度化することで、勤労者側の視点では30代から自分の実力とその市場価値についての意識がより一層高められる。その時に重視する価値観は「会社が大切」ではなく「自分に何ができるか、やりたいか」というものだろう。適切に遇してくれる会社であれば、残ればよいし、そうではない場合は自分ができることを、出来る限り市場価値より高い値段で評価してくれる職場を探す。
全体的には、産業構造の転換という大きな流れの中で発生する様々な新しい仕事や、逆に不要になっていく仕事が需給に反映され、一方で最低保証でも夫婦二人で仕事をすればある程度の暮らしはなんとかなる、というラインを設定することで女性の社会進出も、形だけでなく意味を持ったものになり経済規模の拡大にも貢献する。気になることは少子化へのインパクトだが、これもまた別の機会を頂ければ私案を提案したい。
こうした状態では、30代以降は社会人インターンのような制度が必要になるだろう。40歳定年制をいう本を書いた柳川範之氏は、マネージメントスキルという表現で、個別ビジネススキルだけでなく、集団や組織の目標達成を可能とするスキルを獲得することを提唱する。全く同感だ。現存企業に在籍しながら、雇用側も了解の上で他者へのお試し期間を設ける社会人インターン等の考えを含めて、別の機会でこうしたスキルをどうやって30代で身に付ける事ができるのかを論じてみたい。
さて、ここまでの説明の大半は優良企業(よく知られた大規模企業)と、今後の成長を担う急成長企業(まだ知られていないし、待遇一般も優良企業よりはまだ低い)にいる、正規社員が前提になっている側面はある。正規雇用と非正規雇用については、大変多くの議論があり、本稿を書きながらも非正規雇用者についての考えを別にまとめる必要があるということは理解しているつもりだ。乱暴に言えば、同一職務で同一賃金ということは、この最低保証年俸は正規雇用か非正規雇用に限らず適用したいところだが、この点については実際に成り立つ制度とするために必要な課題を具体化する必要があるだろう。
本稿では、一旦ここまでとする。ご興味をいただけるようであれば、次稿にて大企業でも優良企業でもなく、普通の中小企業や、仕事内容もいわゆるホワイトカラーではなく、現業のブルーカラーという層や、非正規雇用についても、本稿で論じた最低保証年俸がどのような効果を上げる可能性があるか論じてみたい。
特に非正規雇用については、全体の雇用の4割程度が既に非正規雇用となっている実態がある。しかし、その経緯や内訳についてはまだ標準的な議論の枠組みができていないと感じている。本稿では一旦考え方の提示ということで、正規雇用を前提においており、冒頭に触れたように計算の係数についてはあえて単純化している。
また、生産現場や流通業などでの販売・サービスの現場が今まで日本経済における大きな価値を生み出してきているという現実についても忘れてはならない。手前味噌ではあるがこの最低保証年俸の仕組みにより、プライドを持つだけでなく、尊敬されるブルーカラーの復権と、その現場からのイノベーションの可能性を現実的考えることが可能になるのではと感じている。
一旦ここで終了とする。賛否両論あろうかと思うが、是非様々な問題意識を寄せて頂きたいと願っている。
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