【杏林大学】脳の発達が手を器用にする!? ―ラット前肢の巧緻性獲得には脳の発達が必要であることを証明―

プレスリリース発表元企業:杏林大学

配信日時: 2026-07-30 11:20:06





岩崎也生子(作業療法学専攻 教授 筆頭著者)、村松憲(理学療法学専攻 教授 責任著者)らから構成される研究グループは、生後4~8週齢の幼若なラットを対象に、前肢運動野の発達過程とそれが前肢リーチ運動に与える影響を包括的に解析しました。皮質内微小刺激(ICMS)、運動誘発電位(MEP)、および熟練リーチ動作の運動学的解析を組み合わせることで、運動野が生後4~5週では皮質領域の拡大を示し、生後6~8週では運動野内部の機能的再編成へ移行するのと共に前肢リーチ運動が習熟した。また、この期間に拡大した運動野に局所的損傷を加えることで、運動野の拡大が前肢運動の巧緻性獲得に不可欠であることを実証しました。


筆頭著者 岩崎也生子(保健学部リハビリテーション学科作業療法学専攻 教授)
責任著者:村松憲(保健学部リハビリテーション学科理学療法学専攻 教授)

研究のハイライト

・幼若なラットの大脳皮質運動野前肢領域は発達に伴い拡大し、手指・肩領域が新たに形成される。

・運動野の拡大は、脳と脊髄との機能的結合の強化と巧緻な前肢リーチ動作の発達に並行して進行する。

・発達後に形成された運動野を限局的に損傷すると、リーチ運動は発達途中の段階まで退行する。・中枢神経系の成熟が、運動野の発達と巧緻運動の獲得に必要である。

研究概要

岩崎也生子(作業療法学専攻 教授 筆頭著者)、村松憲(理学療法学専攻 教授 責任著者)らから構成される研究グループは、生後4~8週齢の幼若なラットを対象に、前肢運動野の発達過程とそれが前肢リーチ運動に与える影響を包括的に解析しました。皮質内微小刺激(ICMS)、運動誘発電位(MEP)、および熟練リーチ動作の運動学的解析を組み合わせることで、運動野が生後4~5週では皮質領域の拡大を示し、生後6~8週では運動野内部の機能的再編成へ移行するのと共に前肢リーチ運動が習熟した。また、この期間に拡大した運動野に局所的損傷を加えることで、運動野の拡大が前肢運動の巧緻性獲得に不可欠であることを実証しました。

研究背景・目的

ヒトを含む様々な動物において手や指を巧みに動かす能力は、生後の発達とともに大きく向上します。この運動機能の発達には大脳皮質の「運動野」が重要な役割を果たしますが、運動野が生後どのような過程を経て成熟するのか、また、その発達が巧緻な前肢運動の獲得にどのように関与しているのかは十分に明らかになっていませんでした。

本研究では、生後4~8週齢のラットを対象に、皮質内微小刺激(ICMS)、運動誘発電位(MEP)、前肢の筋形態解析、およびリーチング動作の運動学的解析を組み合わせることで、前肢運動野の発達過程と運動機能との関係を包括的に解析しました。さらに、生後発達によって新たに形成された運動野に限局的な微小損傷を加え、その領域が熟練した前肢運動に果たす役割を検証しました。

研究成果

本研究により、ラット前肢運動野は生後4~5週にかけて皮質領域が拡大し、その後、生後6~8週にかけて内部の運動表現が再編成されることを明らかにしました。運動野の成熟に伴い、運動誘発電位(MEP)の振幅増大や潜時の短縮、皮質脊髄路の興奮性向上、筋線維径の増加が認められ、手指や肩を制御する運動領域が新たに形成されました。また、握力は週齢とともに向上し、生後6週頃に成熟しました。一方、リーチ動作の基本的な運動は生後6週頃までに完成するものの、運動野内部の運動表現が再編成される8週間までの間に巧緻性(巧さ)が増しました。興味深いことに、生後発達に伴い新たに拡大した運動野を8週齢で限局的に損傷すると、リーチ動作は生後6週齢相当まで退行しました。一方、生後早期から存在する運動野を損傷すると、前肢の基本的な運動機能そのものが障害されました。これらの結果から、生後に拡大・成熟する運動野は巧緻な前肢運動の獲得に不可欠であり、その背景には皮質脊髄シナプスの成熟と大脳皮質の可塑性が重要な役割を果たしていることが示されました。

掲載論文

発表雑誌名:Neuroscience
論文タイトル:Postnatal maturation of forelimb motor cortex and its impact on behavior in rats
DOI:https://doi.org/10.1016/j.neuroscience.2026.07.028
著者:Yaoko Iwasaki1, Yhuki Fjisawa2, Naomi Ooshiro1, Masako Ikutomo3, Masatoshi Niwa1, Ken Muramatsu2* * corresponding author
著者(日本語表記):岩崎 也生子1, 藤澤 祐基2, 大城 直美1, 生友 聖子3, 丹羽 正利1, 村松 憲2*
所属:1 杏林大学保健学部リハビリテーション学科作業療法学専攻
   2 杏林大学保健学部リハビリテーション学科理学療法学専攻
   3 東京医療学院大学理学療法学専攻

用語の解説

運動野:自らの意思による運動を起こすための運動指令を脊髄に送る機能を有する大脳皮質。大脳皮質運動野には身体部位が再現されている。
皮質内微小刺激(ICMS):大脳皮質に微小電極を刺入し、ごく限られた範囲を電気刺激する手法。
運動誘発電位(MEP):大脳皮質運動野の電気刺激によって身体に誘発される筋収縮に関連して記録される活動電位。

▼本件に関する問い合わせ先
杏林大学 保健学部 作業療法学専攻
岩崎 也生子
メール:iwasaki@ks.kyorin-u.ac.jp

【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/

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