トマトの「黄化葉巻病」への耐性を強化する方法を発見 世界的問題であるトマトのウイルス被害と農薬過剰投与の防止に貢献
配信日時: 2026-04-03 14:00:00
画像 : https://newscast.jp/attachments/Fsrchjwf2jsp139PXR1j.png
ウイルス感染したトマトの葉の様子 感受性品種のMや、国内で主流の単一のウイルス抵抗性遺伝子を持つ品種MPでは、「*」で示した葉で発病が認められる。一方、複数のウイルス抵抗性遺伝子を持つAVTO1919、AVTO1920、AVTO1701は発病が見られなかった。
近畿大学大学院農学研究科(奈良県奈良市)農業生産科学専攻博士前期課程2年 霜出萌乃(研究当時)、同博士前期課程1年 中島望咲、同博士後期課程3年 ナディアシャフィラポハン、同教授 小枝壮太らの研究グループは、トマトのウイルス病である「黄化葉巻病※1」の原因となるベゴモウイルス※2 への抵抗性を強化する方法を発見しました。
ベゴモウイルスは460種類以上あり、分類されている全植物ウイルスの約1/5を占めます。作物がこのウイルスに感染すると農産物の収穫がほとんどできなくなるため、農業生産において世界的な脅威となっています。植物の中でもトマトはベゴモウイルス抵抗性に関する研究が最も進んでおり、4つのウイルス抵抗性遺伝子が特定されています。本研究では、4つのウイルス抵抗性遺伝子のうち2つを用いることで、トマトのウイルス抵抗性を大幅に強化できることを明らかにしました。本研究成果により、科学的知見に基づく育種の方向性を示すことができたため、世界的に問題となっているトマトのウイルス被害と農薬過剰投与の防止への貢献が期待されます。
本件に関する論文が、令和8年(2026年)3月30日(月)に、植物学分野の国際学術誌"Euphytica(ユーフィティカ)"にオンライン掲載されました。
【本件のポイント】
●農作物のウイルス病の原因の一つであるベゴモウイルスについて、抵抗性の大幅な強化法を発見
●抵抗性を持つ個体を判別できるDNAマーカー※3 を開発し、抵抗性品種の効率的な改良が可能に
●本研究成果は、世界的に問題となっているトマトのウイルス被害と、農薬の過剰投与を防ぐことに貢献
【本件の背景】
農業生産において、ベゴモウイルスが世界中で引き起こしている経済的被害は甚大で、解決が強く求められています。ウイルスの感染は、タバココナジラミとよばれる昆虫により媒介されて広まるため、生産現場では従来、殺虫剤の散布によって対策してきました。しかし、過剰な農薬の使用により、農薬が十分に効かないタバココナジラミが世界各地で発生しています。そのため、農業の現場ではウイルス抵抗性の品種改良が最も求められています。
トマトは植物の中でもベゴモウイルス抵抗性に関する研究が最も進んでおり、国際的な競争を経て4つのウイルス抵抗性遺伝子が特定されています。これまでは4つのうち主に利用されてきた1つのウイルス抵抗性遺伝子で病害を抑え込めていましたが、ウイルスの進化や地球温暖化の影響も重なり、近年では各国の生産地で抵抗性の崩壊が報告されています。これまでに特定されている4つのウイルス抵抗性遺伝子をすべて導入するとトマトの抵抗性は最大になると予想されますが、農業の実用面で問題があり、場合によってはウイルス抵抗性遺伝子導入の影響が、栽培トマトの生産性、果実品質を低下させてしまうこともあります。そのため、ウイルス抵抗性の強化と生産性・品質とのバランスを取る必要があります。このことから、4つある遺伝子の中からなるべく少ない数のウイルス抵抗性遺伝子を用いて、抵抗性を最大限に強化する方法の発見が強く求められていました。
【本件の内容】
トマトでは4つのウイルス抵抗性遺伝子が特性されています。本研究では、まずこれらのウイルス抵抗性遺伝子が存在することを100%の精度で確認できるDNAマーカーを開発しました。また、研究グループの先行研究によって、欧米や日本などで広く流行している1つのベゴモウイルスと、東南アジアで流行している3つのベゴモウイルスの接種法を確立し、トマトのウイルス抵抗性を効率的に評価することが可能となっています。
そこで、トマトにおいて最も強い抵抗性を確立するために、より病原性が強い東南アジアで流行している3つのベゴモウイルスを用いて検証を行いました。また、さまざまな組合せのウイルス抵抗性遺伝子を有するトマトにベゴモウイルスを接種することで、最大限に抵抗性を強化する遺伝子の組合せを探索しました。その結果、4つのウイルス抵抗性遺伝子のうち2つを用いることで大幅にウイルス抵抗性を強化でき、4つのウイルス抵抗性遺伝子をすべて導入した際と同等以上の高いウイルス抵抗性を有することを明らかにしました。
【論文掲載】
掲載誌:Euphytica(インパクトファクター:1.7@2024)
論文名:Integration of Ty-1/Ty-3 and Ty-6 confers improved and durable resistance to
highly pathogenic begomoviruses in tomato
(Ty-1/Ty-3とTy-6の導入はトマトの強病原性ベゴモウイルスに対する抵抗性を強化する)
著者 :霜出萌乃1、中島望咲1、ナディアシャフィラポハン1、エリーケスマワティ2、小枝壮太1*
*責任著者
所属 :1 近畿大学大学院農学研究科、2 インドネシア国立シアクアラ大学農学部
URL :https://doi.org/10.1007/s10681-026-03711-y
DOI :10.1007/s10681-026-03711-y
【本件の詳細】
トマトでは「Ty-1/Ty-3」、「Ty-2」、「ty-5」、「Ty-6」の異なる4つのウイルス抵抗性遺伝子が特性されています。本研究では、最初にこれらの遺伝子がゲノムDNAに存在することを簡便かつ確実に確認できるように複数のDNAマーカーを開発しました。過去にもウイルス抵抗性遺伝子の組合せ効果を検証した研究は複数ありますが、それらの研究で用いられているDNAマーカーは精度が低く、間違った判定をしてしまうことがありました。そこで、本研究では100%の精度で各ウイルス抵抗性遺伝子の存在を確認できるDNAマーカーを開発しました。続いて、World vegetable center(Worldveg)※4 で改良されたトマト品種を取り寄せて、上記のウイルス抵抗性遺伝子の存在を正確に確認して研究に用いました。
ベゴモウイルスには現在460種以上が分類されており、国内や欧米で流行しているのは「tomato yellow leaf curl virus(TYLCV)※5」です。TYLCVも大きな問題ですが、世界的に見るとTYLCVよりも病原性が随分強いウイルスが沢山存在します。本研究で用いた東南アジア由来の「tomato yellow leaf curl Kanchanaburi virus(TYLCKaV)※6」、「pepper yellow leaf curl Indonesia virus(PepYLCIV)※7」、「pepper yellow leaf curl Aceh virus(PepYLCAV)※8」は強病原ウイルスの代表であり、これらを用いて抵抗性を評価すれば、自ずとTYLCVにも十分な抵抗性を示すことが期待されます。そこで、上記のWorldvegのトマト品種に3種の強病原性ウイルスを個別に接種して、病徴※9 の強弱や、植物体内でのウイルス量を指標とすることで抵抗性を評価しました。予想通り、4つのウイルス抵抗性遺伝子をすべて有するトマトAVTO1701(Ty-2、Ty-3、ty-5、Ty-6)は高い抵抗性を示しました。しかし、驚くべきことにウイルス抵抗性遺伝子を2つだけ持つAVTO1919(Ty-1、Ty-6)とAVTO1920(Ty-3、Ty-6)もAVTO1701と同等以上の高いウイルス抵抗性を有することが明らかになりました。また、AVTO1919あるいはAVTO1920とウイルス感受性品種の交雑第一世代F1を作出してウイルス抵抗性を評価したところ、ヘテロ接合※10 で有するF1トマトの抵抗性よりも、2つの抵抗性遺伝子をホモ接合※11 で有する親品種の抵抗性が強いことも明らかになりました。
世界のベゴモウイルスの被害状況はさまざまです。日本のようにTYLCVのみが流行する地域では現状Ty-1をヘテロ接合で導入していますが、そこにTy-6をヘテロ接合で追加することで抵抗性を強化できる可能性が十分にあります。一方、強病原性ウイルスが流行している地域では、2つの遺伝子をホモ接合で導入することが推奨されます。なお、実用化に際しては、トマトの生育や果実品質に求める各国の社会・文化を考慮しての判断が必要であると考えられます。
【研究者のコメント】
小枝壮太(コエダソウタ)
所属 :近畿大学農学部農業生産科学科
近畿大学大学院農学研究科
職位 :教授
学位 :博士(農学)
コメント:私たちの研究グループには2つ強みがあります。品種改良を担っている国内外の民間種苗会社との繋がりと、生産現場での実情を把握していることです。「農業」の英訳は「Agriculture」ですが、この単語が意味する通り、農業とは各地のculture(文化・様式)が非常に色濃く現れる営みです。各国には独自の自然・社会環境や食文化があり、トマト品種に求められる特徴もさまざまです。私たちは多様な人々との交流をすることで初めて見えてくる、世界で共通して求められている課題を洗い出し、世界の農業が共通して抱える実際的な課題を解決することをめざしています。今回の研究で行っていることは非常に単純です。しかし、単純な研究からでも世界を動かせることを示した一例だと自負しています。今後も、国内外の公的研究機関や民間種苗会社との連携をさらに強化して、安定した食料生産、生産者の所得向上に貢献したいと考えています。また、大学の若い人材と一緒に取り組むことで、世界の農業を支える人材を育成していければと思います。
【研究支援】
本研究は、日本学術振興会 科学研究費補助金 基盤研究B(19H02950、23K26900)および国際共同研究加速基金(21KK0109)(研究代表者:小枝壮太)の支援を一部受けて実施しました。
【用語解説】
※1 黄化葉巻病:ベゴモウイルスが感染することで発症する。感染すると、葉が黄色くなり、巻くような症状を生じる。症状が進むと、開花しても実がつかなくなる場合が多い。日本のトマト生産でも重大な問題になっている。
※2 ベゴモウイルス:一本鎖環状DNAをゲノムに持つウイルスで、世界各地での農業生産に大きな経済的被害を与えているウイルス属。
※3 DNAマーカー:生物が持つ特徴を決めているDNAの塩基の違いを、さまざまな遺伝子解析手法で簡便に検出するツール。今回の研究ではDNAを増幅するポリメラーゼ連鎖反応(PCR)とゲル電気泳動を用いる最もシンプルな手法を採用しており、発展途上国を含めて利用ができるようにしている。
※4 World vegetable center(Worldveg):台湾・台南市に拠点を置く野菜の国際研究機関。アジア、アフリカ、中米などの農業を支援する目的で日本を含む多国籍が出資して運営されている。トマト、トウガラシ、ウリ科作物などの育種グループが存在し、今回の研究ではWorldvegで育成・改良されたトマトを研究に用いた。民間種苗会社との強い連携関係もあり、世界の農業の発展に貢献している。
※5 tomato yellow leaf curl virus(TYLCV):中東で初めてトマトへの感染・発病が確認され、平成8年(1996年)に日本でも初めて侵入が確認された。世界各地のトマト産地で被害を拡大してきたベゴモウイルスの一種。
※6 tomato yellow leaf curl Kanchanaburi virus(TYLCKaV):タイのカンチャナブリ県で初めて単離されたベゴモウイルスであり、現在は東南アジア全域に分布を拡大している。主にナス科のトマト、ナス、トウガラシなどに被害を与えている。
※7 pepper yellow leaf curl Indonesia virus(PepYLCIV):インドネシアでトウガラシから単離されたベゴモウイルスであり、現在はタイなどでも感染が確認され、東南アジア全域への分布の拡大が懸念されている。主にナス科のトウガラシやトマトなどに被害を与えている。
※8 pepper yellow leaf curl Aceh virus(PepYLCAV):近畿大学大学院農学研究科教授 小枝壮太らの研究グループが、インドネシアで栽培されているトウガラシ、トマト、タバコから初めて単離したベゴモウイルス。PepYLCIVと他のベゴモウイルスとの組換えにより生じた強病原性ウイルスであり、PepYLCIVよりも重篤な病徴を引き起こす。ナス科のトウガラシ、トマト、タバコを主な宿主とし、ウリ科のメロンやカボチャにも感染することがある。
※9 病徴:ウイルスの感染などによって植物が病気にかかり、局部あるいは全体に異常を生ずること。病徴には黄化、葉巻、モザイク,モットル、えそ、萎縮など、さまざまな異常がある。
※10 ヘテロ接合:一対の遺伝子について、異なる遺伝子をもつこと。たとえば、Aa、Bbのような遺伝子の組み合わせになっているケース。
※11 ホモ接合:一対の遺伝子について、同じ遺伝子をもつこと。
【関連リンク】
農学部 農業生産科学科 教授 小枝壮太(コエダソウタ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/1360-koeda-sota.html
農学部
https://www.kindai.ac.jp/agriculture/
詳細はこちら
プレスリリース提供元:@Press
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