「学びの履歴」をより安全かつ便利に。ビットコインのブロックチェーン技術を活用した新たなデジタル証明書の実現へ<東洋大学SDGs NewsLetter Vol.44>

プレスリリース発表元企業:学校法人東洋大学

配信日時: 2026-03-17 12:00:00







デジタル技術の急速な進歩により、高等教育の在り方が根本から問いなおされています。中でも近年注目を集めているのが、ブロックチェーン技術を活用したデジタル証明書です。ビットコインを用いたその仕組みや有用性、社会実装に向けた取り組みについて、東洋大学副学長、経済学部経済学科の澤口教授がお話しします。

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教育のデジタル化(教育DX)を巡る変革


──教育の質保証や大学の在り方そのものの変革についてどのようにお考えでしょうか。


コロナ禍を経て、大学教育は大きく変化しました。オンライン授業の普及によって、学生一人ひとりが画面越しに講義と向き合い、全員が「最前列で受講している」かのような環境を実現させることができるようになりました。さらに、チャットを通じてリアルタイムの質疑応答やアンケートが活発に行えるようになり、教員と学生が双方向に対話できる場になったと実感します。
AIの普及もまた、学び方や教育の在り方に新たな選択肢をもたらしました。インターネット普及期に棋士の羽生善治氏が述べた「学習の高速道路」の概念を、私は現在のAIに重ねて考えています。かつて将棋界では、地方で強い相手と対局する機会は限られていましたが、インターネットによって世界中の強豪と勝負できるようになりました。その結果全体のレベルが底上げされ、いわば高速道路に乗ったように学習が進んだのです。AIの活用によって専門外の分野にも手が届く今、日々AIと向き合いながら、新たな価値を生み出す教育体制への変革を目指しています。


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ブロックチェーン技術で「真正性」を担保するデジタル証明書

──先生が考案されたデジタル証明書の技術的な仕組みと「真正性」の担保について教えてください。

副学長に就任し、教育DXを推進する中で取り組み始めたのが、卒業証明書のデジタル化です。世界中で研究が行われていますが、標準規格としてのデジタル証明書はいまだ普及していません。原因の一つに、国や企業といった特定の運営主体が管理している点が挙げられます。こうした中央集権的な仕組みでは、情報流出や改ざん、不正利用、システムの停止などのさまざまなリスクがつきまといます。紙の証明書であればなおさらです。
そこで着目・導入したのが、2009年の登場以来、一度も止まることなく稼働し続けているビットコインのブロックチェーン技術でした。世界中に分散した数万台のコンピュータが記録を相互に管理・確認する仕組みで成り立っており、データの改ざんは事実上不可能です。中央管理に伴う多くのリスクを回避できることが大きな利点だと言えます。また、真正性を担保するためには、文部科学省等の公的機関を頂点とする「トラストツリー」の構造をつくる必要性もあると考えています。公的機関が大学を認証することで、その大学が発行する証明書の正当性が保証される、という信用の連鎖がブロックチェーン上で形成され、発行元のなりすましを防ぐのです。


──国や地域を越えて学位や成績を証明する上で、デジタル化が具体的にどのような障壁を取り除くのでしょうか。




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ビットコインのノードとホワイトペーパー

世界では「ディグリーミル」という卒業証明書の偽造が問題になっています。お金を払えば、もっともらしい大学名の学位を入手できてしまうのです。過去に本学でも留学生の卒業証明書に疑義が生じ、多大なコストをかけて検証を行いました。ブロックチェーン技術を活用したデジタル証明書の標準規格が世界に浸透すれば、こうした労力は大幅に軽減されます。
さらに、紛争などで母国を追われた難民の方々が、学歴を証明する手段としても有効です。紙の証明書は紛失する可能性があり、実在する大学かを確認する術すらなく混乱を招いてしまう恐れもあります。難民に限らず、世界共通の証明書があれば、個別に大学へ問い合わせる必要はありません。ビットコインのブロックチェーンを見るだけで検証できるようになります。ブロックチェーンの世界には「Don’t Trust, Verify(信用するな、検証せよ)」という原則が存在します。デジタル化が進む世界では何かを無条件に信頼するのではなく、自ら確かめる姿勢がより重要になるでしょう。

「大学と社会の接続」においてもたらすメリット

──証明書のデジタル化が、学生のキャリア形成や企業の採用活動といった「大学と社会の接続」にどのような変革をもたらすのでしょうか。

ブロックチェーン技術によるデジタル証明書は、個人情報を本人が管理する「自己主権型アイデンティティ(SSI)」という考え方に立脚しています。現在は大学が情報を一元管理していますが、デジタル証明書が広く普及すれば、学生自身が学習履歴などを統合して扱えるようになるでしょう。資格取得など多様なプログラムの履修履歴をアイデンティティ・ウォレットに蓄積し、努力のプロセスや細かなスキルを可視化して、一人ひとりのキャリア形成を多角的に支援することにも役立ちます。また、生年月日や住所といった不要な個人情報を伏せたまま必要な項目のみを提示する「選択的開示」も可能です。例えば就職活動においては、企業側も個人情報の管理リスクを抑えながら、信頼性の高いデータを検証できるメリットがあります。

──今後のビジョンについてお聞かせください。

現在は、国立情報学研究所(NII)や民間の研究者・技術者らと議論をしながら、技術基盤の確立を目指しています。数年後には無償提供を開始し、日本中の大学へ利用を促すべく、特許の申請を行いました。このデジタル証明書の仕組みは、教育分野にとどまらず、例えば骨董品やヴィンテージジーンズといった物理的なモノの真贋証明にも応用できる可能性を有しています。情報の真偽が厳しく問われる時代だからこそ、確かな「学びの履歴」を個人の手で管理し、世界中で正当に評価される社会のエコシステムを築きたいと考えています。



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澤口 隆 (さわぐち たかし)
東洋大学 副学長(内部質保証・高等教育推進・教育DX担当)・経済学部経済学科教授/博士(工学) 専門分野:構造地質学・教育工学 研究キーワード:構造地質学/教育工学 著書・論文等: ビットコインのブロックチェーンを用いたディジタル証明書の発行・保持・検証方法 [電子情報通信学会論文誌A DOI: 10.14923/transfunj.2025JAP1017]/バックグラウンド稼働クリッカー(bgClicker)の開発 [コンピュータ&エデュケーション(38)]




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