地元企業・団体も巻き込んだ公民連携の取り組みで持続可能な地域づくりへ<東洋大学SDGs NewsLetter Vol.31>

プレスリリース発表元企業:学校法人東洋大学

配信日時: 2024-10-15 12:00:00







公共機関によるまち・施設開発の失敗や第三セクターの経営不振など、日本は数々の課題を抱えています。民間企業・投資家の資金やノウハウを公共事業とマッチングさせるとともに、その責任・リスクをいかに負担・分散するのか。持続可能な開発に向けた公民連携の在り方について経済学研究科の難波悠教授がお話しします。

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第三セクターでの事業失敗に端を発する日本のPPP


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──PPPについて具体的にどのようなものか教えてください。

「PPP(Public Private Partnership)」とは、公共機関と民間企業・団体が連携して公共サービスを提供するスキームを指します。公共事業を進めるにあたって民間の新しい技術や効率的な方法を取り入れて、課題解決を目指すのが基本的な考え方です。元々日本にPPPはなく、「PFI(Private Finance Initiative)」という手法がイギリスから導入され、より広い概念であるPPPとして普及していきました。PFIはPPPの代表的な手法であり、民間企業の資金やノウハウを活用して公共事業を行うというものです。

日本でPFIが導入された要因としては、1990年代に多くの第三セクターが経営不振に陥ったことが挙げられます。バブル期に公共機関と民間企業が行政が主導するかたちで官民連合の第三セクターを作り、リゾート開発を進めました。しかし、行政が市場リスクを十分に理解せず、責任範囲や分担が曖昧な状態で進行した結果、多くの事業の多くが失敗。民間企業が撤退した後、行政が過大なリスク損失を背負う事態になったのです。そこで公と民がそれぞれの責任を明確にしつつ、資金、運営、技術などさまざま様々な面で民間が主導して契約をしっかりと結んだ上で事業を進めるPFIが注目され、バブル崩壊後の不況下で行政が経済を担う割合が増えた日本において、PFIひいてはPPPが浸透しました。

──日本のPPPの特徴は何でしょうか。

海外では国家単位でPPPを実施するケースがよく見られますが、日本では85%が自治体によるものです。行政の努力や地方創生に向けた気運の高まりに後押しされ、多くの自治体にPPPが広がっています。成功事例としては、岩手県・紫波町の「オガール紫波」プロジェクトが挙げられます。紫波町が駅前に購入した土地の活用をめぐって、本学に相談があったことが発端です。紫波町の役場・企業の方に本学でPPPの理論や事例等を学んでいただき、民間投資を呼び込んで公共施設を作る方法を共に検討しました。施設ごとに適したアプローチを模索した結果、図書館や体育館、保育園などが完成。若者世代を含めて移住者が増え、他の自治体が視察に訪れるほど賑わいのある町となっています。




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大学と包括連携協定を結んだ若狭町での視察の様子

地域経済も視野に入れて、社会的な価値創造を目指す

──日本のPPPにおける課題についてお聞かせください。

政府はPPPについてアクションプランを出しており、その中で掲げているのが「コストダウン経済からの脱却」です。これまでの日本はより安く公共事業を行うことに主眼を置いていました。しかし、人口減少局面に入り、量的な発展を見込みにくい今後の日本においてはインフレが進んだ現在、ただ費用を安くするだけでは問題解決にならず、PPPを通じていかに新たな価値を生み出せるかという点が課題として挙げられます。例えば、コストダウンの観点から施設ごとに進めていた事業を集約し、従来とは異なるやり方で付加価値を高めた地域づくりを模索するなど、まだまだ議論の余地があると考えます。また、PPPに対する意欲が高い自治体・企業もあれば、そうでないところも当然あります。現状、PPPの普及にあたっては勉強会などを通した啓発が一般的なアプローチです。しかし、そもそも企業の規模・体質によっては、長期契約や複雑な事業を伴うPPPに参画するのが現実的に難しい場合があります。

──海外事例の中で、日本が参考にできる取り組みはありますか。

国内外で実施されている多様なPPPのうち、日本が目指すべきモデルとして注目しているのが、2017年にウェールズで発表された「MIM (Mutual Investment Model)」です。PPPは複雑な事業が多く、全国規模の大企業が参画するケースも珍しくありません。しかし、その際に地域のインフラ整備を担っていた地元の中小企業が締め出され、地場産業が衰退してしまうことも考えられます。そこでコスト・合理性を追求するだけでなく、地域経済などの要素も視野に入れて社会的な価値創造を目指す仕組みがMIMと呼ばれています。例えば、大企業とは長期契約の上流工程、地元の中小企業とは短期契約の実務で、PPPの枠組みにうまく組み入れられるでしょう。地域のインフラを守り、全員が「稼げる」仕組みを構築できれば、日本の社会問題をの解決できるにつながるはずです。

こうした文脈で考えたとき、SDGsのゴール17「パートナーシップで目標を達成しよう」は非常に画期的です。日本が国家主導のトップダウンだけで施策を進めてもSDGsは達成できず、自治体や地域住民からのボトムアップが欠かせません。全てのステークホルダーが一体となって目標に向かう姿勢は、PPPにも通じる部分だと思います。

PPPへの参加を促し、公共調達の在り方を模索するための仕組み




──今後のビジョンについてお聞かせください。

PPPに関する専門知識を持たない地域の産業であっても、自然にPPPに参加できるような仕組みを構築していくことがテーマです。同時に、PPPを通じて「公共調達」について議論し、その在り方を変えていきたいと考えます。公共事業を行う際に誰から商品やサービスを購入するのか決めるプロセスが公共調達であり、PPPもその一手段です。公共調達の在り方次第で、公民連携の形ひいては結果として公共事業で生み出されるものが変わります。今後はPPPと公共調達との間で議論を深め、より良い連携の方法を探っていくことが求められるでしょう。




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難波 悠(なんば ゆう)
東洋大学経済学研究科公民連携専攻教授/修士(経済学)
専門分野:Public Private Partnership (公民連携、公民パートナーシップ)
研究キーワード:PPP/公共調達制度/移住・二拠点居住
著書・論文等:公民連携白書2018-2019公有地活用とPPP(共著) [時事通信社]、インフラ老朽化対策と維持管理技術:科学技術に関する調査プロジェクト(共著) [調査資料2018-5 国立国会図書館]


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