『スピッツ論 「分裂」するポップ・ミュージック』(著:伏見瞬)刊行決定&予約開始!【「はじめに」一部公開】

プレスリリース発表元企業:株式会社イースト・プレス

配信日時: 2021-11-12 18:00:00

株式会社イースト・プレスは2021年12月17日(金)に『スピッツ論 「分裂」するポップ・ミュージック』(著:伏見瞬)を刊行します。全国の書店およびECサイトで予約受付中です。



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https://www.amazon.co.jp/dp/4781620353

【概要】
なぜ、スピッツはこれほどまでに愛されるのか?
ポップでマニアック、優しく恐ろしく、爽やかにエロティック。
稀代のバンドの魅力を「分裂」というキーワードで読み解く画期的論考。

【「はじめに」より一部抜粋】
 日本の音楽産業の中で30年以上の歳月を生き残り、今も現役で活動を続ける4人組バンド・スピッツ。
彼らは多くの人々を魅了し、影響を与えてきた。私自身、スピッツの音楽に惹かれた人間の一員として、彼らの魅力がどこからやってくるのかを考え続けてきた。その中で、スピッツというバンドの表現には、あらゆる「分裂」が含まれることを見出した。
 楽曲においても、バンドとしての立ち位置においても、スピッツは分裂している。分裂とは、ポップ・ミュージックの条件であり、今の世界に生きる人間の条件でもある。スピッツの分裂について考察することは、私たちの生活を取り囲む音楽環境を考えることでもあり、私たちが暮らしを営む社会がどのように成り立っているかを考えることでもある。その事実を、本書を通して詳らかに記していく。
 本書では、スピッツの作品と同時に、メンバー自身が書いた文章やインタビューに基づいた彼らの歴史についても記述する。スピッツの本なのだから当たり前だろうと思う方もいるかもしれないが、そうとも言い切れない。作品の内実と音楽家の人生を切り離す考え方もあるからだ。たとえば、冨田恵一『ナイトフライ 録音芸術の作法と鑑賞法』(2014年)は、スティーリー・ダンのメンバー、ドナルド・フェイゲンが1982年に発表したソロアルバム《ナイトフライ》を詳細に分析した本だが、録音芸術としての作品の特性に焦点を当てるために、ドナルド・フェイゲンのライフ・ヒストリーについては最低限の記述に留めている。出来上がった作品は作者から受け手に手渡されており、作者の人生とは独立して存在している。そう考えるとするなら、音楽家についての情報は、むしろ作品の理解を曇らせる夾雑物(きょうざつぶつ)と認識されるべきだろう。
 しかし本書は、スピッツとオーディエンスの間にある関係に重心を預ける。ポップ・ミュージックとは、つくり手と聴き手の間を流動的に漂う芸術形式である。スピーカーやイヤフォンから流れる音だけでなく、つくり手に関する情報も含めて、人々はポップ・ミュージックを鑑賞している。新しい情報が加われば、聞こえ方も変化してしまうだろう。そうした音楽の受容の仕方を、不純と見下すことはしない。むしろ、音楽という文化の雑多さを受け入れることは、音楽の複雑さを複雑なまま捉えるために必須の姿勢となる。
 スピッツの音楽は、彼らの歴史がどのように語られ、彼らのヴィジュアルがどのようにメディアやライブの場で表れるかということと不可分に結びついている。その結びつきも含めて、ポップ・ミュージックの在り方と考えるのが本書の立場だ。
 同時に、スピッツのフロントマン、草野マサムネの歌詞についても多くの言葉を費やす。鳴らされた音の集合体である音楽に対して、言葉を取り出して論じる手法は、音の性質を無視した的外れの論評になりうる可能性が高い。しかしながら、スピッツにとって歌詞の役割は大きい。草野マサムネの声と言葉を活かす形でつくられていくのが、彼らの音楽だ。ゆえに、本書では言葉と音の相互影響を、重点的に取り上げていく。むろん、音の鳴り方も蔑ろにはしない。本書は、音楽をつくりたい人が具体的に参照できる本であることも目指す。
 ポップ・ミュージックは、取るに足らないおもちゃのように感じることもあれば、人間の生死を左右する重大なものに感じることもある。商売の道具に過ぎないとも言えるし、俗世を超越した偉大な力があるようにも思える。相反する二つの感覚に引き裂かれる不思議に魅せられて、私はポップ・ミュージックを聴き続けてきた。その中でも、引き裂かれる力をもっとも強く感じたのが、スピッツの作品だった。スピッツについて書かれた本書が、音楽への興味を高め、世界を面白く感じるための糧となるなら、筆者としてそれ以上の喜びはいらない。

【目次】
第1章 密やかさについて ─ “個人"と“社会"
第2章 コミュニケーションについて ─ “有名"と“無名"
第3章 サウンドについて ─ “とげ"と“まる"
第4章 メロディについて ─ “反復"と“変化"
第5章 国について ─ “日本"と“アメリカ"
第6章 居場所について ─ “中心"と“周縁"
第7章 性について ─ “エロス"と“ノスタルジア"
第8章 憧れについて ─ “人間"と“野生"
第9章 揺続(グルーヴ)について ─ “生"と“死"

【著者プロフィール】
伏見瞬(ふしみ・しゅん)
東京生まれ。批評家/ライター。音楽をはじめ、表現文化全般に関する執筆を行いながら、旅行誌を擬態する批評誌『LOCUST』の編集長を務める。「ゲンロン 佐々木敦 批評再生塾」第3期、東浩紀審査員特別賞。本作が初の単著。

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