米ニューヨーク州、量子技術の商業化ハブに最大6000万ドル 「死の谷」克服へ最大4地域で公募

2026年8月17日 12:02

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記事提供元:Tech Times

米ニューヨーク州のキャシー・ホークル知事は2026年8月12日、州内に最大4カ所の「地域量子技術商業化ハブ」を設けるため、提案依頼書(RFP)を公開した。州の2027会計年度予算に計上された総額6000万ドル(約95億4000万円、1ドル=159円換算)を充て、選定先には1件当たりおおむね1500万ドル(約23億8500万円)を交付する。応募できるのは所定の要件を満たす非営利団体で、提案の提出期限は2026年10月14日午後2時(米東部時間)である。

■研究成果を製品や事業へつなぐ地域拠点

量子技術では基礎研究や実証実験の成果が生まれる一方、製品化に必要な設備、試作、顧客検証、事業開発の費用を初期企業が単独で負担することは難しい。公的な研究資金が縮小した後、民間投資を呼び込めるだけの市場性を示すまでの資金・支援不足は、技術移転で「死の谷」と呼ばれる課題の一つである。

ニューヨーク州の計画は、この段階を支える物理的な拠点を各地域に設けるものだ。公募要項では、研究室や専門設備、共同作業スペースを備えた施設を新設するか、既存施設を拡張・改修することを求めている。スタートアップ、複数機関の研究者、企業などが共用できる環境を整え、技術検証、試作、概念実証、実証導入、初期顧客による評価を後押しする。

量子技術には、量子計算、量子センシング、量子通信など複数の領域がある。ハブはそれぞれ一つの領域を主な専門分野としつつ、ほかの量子分野との連携にも対応する。すべての拠点が同じ種類の設備を導入するのではなく、地域の研究資産や産業との関係に応じた機能を構築する想定だ。

■超低温だけではない量子技術の設備課題

量子技術の商業化では、方式ごとに異なる専門設備と運用能力が必要になる。例えば超伝導量子ビットを使う量子コンピュータでは、量子プロセッサを絶対零度に近いミリケルビン領域まで冷却する希釈冷凍機や、精密な制御・計測装置を使用する。外部からの熱や電磁的な雑音などによって量子状態が乱れるため、装置の校正や安定した運用にも専門知識が欠かせない。

一方、量子センシングや光子を利用する量子通信などは、超伝導量子計算とは異なる装置構成を採る。今回のハブが重視するのは、特定方式の大型装置だけではなく、研究成果を検証し、試作品を作り、利用企業との実証へ進めるための設備と人材を地域で共有する仕組みである。

クラウド経由の量子コンピューティングサービスは、アルゴリズムの試行や人材育成の入口になり得る。しかし、ハードウェア、制御系、センサー、通信機器などの開発では、実機を使った測定や統合試験も必要になる。共用施設と技術支援を組み合わせる今回の構想は、こうした開発工程を一つの組織だけで抱え込まずに進めるための基盤となる。

■最大4ハブを選定、応募は非営利団体に限定

プログラムは、エンパイア・ステート・デベロップメント(ESD)の科学技術・イノベーション部門であるNYSTARが運営する。応募者は米内国歳入法501(c)(3)に基づく非営利団体でなければならず、大学や研究機関も対象となる。量子分野の研究開発、技術インキュベーション、または同種のイノベーション施設の運営経験を示す必要がある。

州内の適格団体2者以上がコンソーシアムを組んで応募することもできる。その場合は代表団体を指定し、採択後は代表団体が資金管理とESDに対する契約上の責任を担い、ハブの物理的な拠点を設置する。

各ハブにはおおむね1500万ドルが配分される見込みだが、ESDは提案の内容、評価、資金需要に応じて交付額を増減できるとしている。対象経費には施設の建設や改修、機械・設備、家具・備品などが含まれる。一方、給与、賃金、賃借料、広告費、申請書作成費などは原則として対象外である。

評価では、施設の設置・運営計画、量子技術の商業化戦略、スタートアップ支援能力、産業界との連携、先端的な研究設備へのアクセス、サービスの費用などが考慮される。選定されたハブは、支援したスタートアップ数、大学との連携から商業化された研究、企業との実証事業、雇用や売上高などの成果を追跡し、報告する。

■ストーニーブルックの研究拠点を補完

今回のプログラムは、ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校に量子研究・イノベーションハブを設ける州の3億ドル(約477億円)規模の投資を補完する。ストーニーブルックの拠点が量子科学・技術の研究と教育、とりわけ量子通信とネットワークを重点分野とするのに対し、地域ハブは研究成果の検証、起業、製品化、企業導入へ向かう段階を支援する。

ホークル知事は、大学や研究者と起業家、産業界のパートナーを結び、量子研究を成長企業、雇用、実社会の解決策につなげる考えを示した。

ESDのホープ・ナイト社長兼CEO兼コミッショナーは、州内に存在する量子研究者、施設、アイデアを、商業化に必要な専門知識、インフラ、パートナーシップと結びつけることが新ハブの役割になると説明した。

NYSTARのベン・フェルスフーレン・エグゼクティブディレクターは、ハブを「量子時代に向けたニューヨーク州の商業化エンジン」と位置付け、研究室から市場への移行を後押しすると述べた。

■量子市場への投資拡大が背景

マッキンゼーの「Quantum Technology Monitor 2026」によると、量子コンピューティング企業の2025年の世界売上高は10億ドルを超えた。同社の集計では、量子技術への投資額は2025年に約126億ドル(約2兆34億円)となり、2024年の6.3倍に増えた。これらは公開情報、民間データベース、専門家への聞き取りなどを基にした同社の分析であり、非公開案件などを含む完全な市場統計ではない。

同レポートは、世界で300を超える企業・組織が量子コンピューティング企業と協力していると報告している。もっとも、量子技術全体が同じ速度で商業化しているわけではない。量子計算では誤りやノイズにより実行できる回路の規模が制限される一方、量子センシング、量子通信、関連部品、制御技術などでは、それぞれ異なる成熟段階の製品や実証が進んでいる。

量子鍵配送(QKD)は、量子力学の性質を利用して暗号鍵を生成・共有する技術であり、送信データそのものを暗号化する仕組みとは区別される。理論上の安全性に加え、実際のシステムでは装置の実装、認証、既存通信網との統合が重要になる。量子センシングは、重ね合わせや干渉などを利用して磁場、重力、時間などを高精度に測定する研究・技術分野で、用途ごとに実用化や開発の段階が異なる。

こうした多様な領域を事業へつなぐには、設備だけでなく、知的財産、規制対応、顧客開拓、投資家との接続、専門人材の育成を組み合わせる必要がある。地域ハブは、研究機関と企業の間にある商業化工程を継続的に支えることを狙っている。

■データセンター規制とは対象と目的が異なる

ニューヨーク州は2026年7月、50メガワット以上を消費し得る新たな大規模データセンターについて、州の環境許可手続きを最長1年間停止する措置を導入した。電力、水、環境、住民負担への影響を評価し、統一的な基準を策定する間の一時的な措置である。

この措置は、主に製造、研究、教育、医療に使われる施設を対象外としており、量子コンピューティング研究施設も研究施設の例として明記されている。したがって、量子ハブへの投資は、量子システムが一律に低消費電力だから認められたものではない。大規模データセンターの立地・環境政策と、研究成果の商業化を支える施設政策は、対象と目的の異なる施策として進められている。

量子技術をめぐっては、米連邦政府や各州も研究、商業化、人材育成、供給網の強化を進めている。ユタ州は2026年8月10日、研究開発、商業化、人材育成、先端製造を調整する「ユタ量子イニシアチブ」を創設した。連邦レベルでは、量子計算、センシング、ネットワークの開発と事業化を促進する大統領令が2026年6月に発令され、米エネルギー省は2028年までに科学研究に利用できる誤り耐性量子計算能力の開発・導入を目指す「Quantum Genesis」を発表している。

また、上院には地域の量子イノベーション構想を支援するため、国家量子イニシアチブ法を改正する法案が提出されている。2026年3月に提出された段階の法案であり、成立済みの制度ではないが、研究拠点だけでなく、地域の企業や大学を結ぶ商業化基盤を整備しようとする政策の広がりを示している。

■公募の日程と今後の手続き

ESDは応募予定者向けのオンライン説明会を2026年8月21日に開催する。参加は必須ではないが、参加希望者はESDが公開している所定の参加申込書に記入し、8月18日までに指定のメールアドレスへ提出する必要がある。

公募に関する質問の提出期限は8月28日で、ESDは9月14日までに回答する予定だ。提案書の提出期限は10月14日午後2時(米東部時間)で、採択先の発表時期と契約開始日は未定となっている。ESDは必要に応じて日程を変更できるとしている。

■注目ポイントQ&A

●ニューヨーク州の量子商業化ハブの申請期限と応募資格はどうなっていますか?

提案書の提出期限は2026年10月14日午後2時(米東部時間)です。応募できるのは、量子の研究開発、技術インキュベーション、または同種のイノベーション施設の運営経験を持つ501(c)(3)非営利団体です。適格団体によるコンソーシアムも申請できますが、代表団体の指定が必要です。

●各ハブには一律1500万ドルが交付されますか?

1件当たりおおむね1500万ドルが想定されていますが、一律ではありません。ESDは提案の評価、内容、資金需要に応じて、各採択先への交付額を増減できるとしています。プログラム全体の上限は6000万ドルです。

●ハブはどのような支援を提供しますか?

研究室、専門設備、共同作業スペースなどへの共用アクセスに加え、技術検証、試作、概念実証、初期顧客による評価、スタートアップ支援、専門家や投資家との接続などを行う計画です。各拠点は量子計算、センシング、通信などのうち一つを主な専門領域とします。

●説明会への参加は必須ですか?

必須ではありませんが、ESDは参加を推奨しています。参加する場合は、所定の申込書を2026年8月18日までに指定のメールアドレスへ提出する必要があります。

●AI向けデータセンターの規制と量子ハブへの投資は矛盾しませんか?

両者は対象と目的が異なります。データセンター措置は一定規模以上の施設に対する環境許可の一時停止で、主に研究に使われる施設は対象外です。量子ハブは、研究成果の検証や事業化、スタートアップ支援のための地域拠点として整備されます。

元記事: New York Opens $60M Quantum Hub Race to Bridge Industry’s Commercialization Gap

※この記事はTech Timesから提供を受けた記事を日本向けに翻訳・編集したものです。

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