関連記事
ファルコン9がヴァンデンバーグで点火後に自動中止、SpaceXで4日間に2件目のエンジン異常

(gettyimages.com)[写真拡大]
米SpaceXのファルコン9ロケットが、米国時間2026年7月20日朝、ヴァンデンバーグ宇宙軍基地での打ち上げ直前に自動中止(アボート)となった。9基のエンジンが点火した直後、飛行コンピューターが停止させたもので、同社では4日間に異なる2機種でエンジン関連の打ち上げ異常が発生したことになる。現時点で機体やペイロードへの被害は報告されておらず、安全システム自体は設計通りに機能した。
■ヴァンデンバーグ宇宙軍基地で発生した点火後の自動中止
SpaceXのファルコン9ロケットが、月曜朝にヴァンデンバーグ宇宙軍基地で珍しい点火後の自動中止を起こした。Spaceflight Nowのライブ中継によると、9基のマーリンエンジンすべてが一時的に点火したものの、カウントダウンがT-0に達した瞬間、飛行コンピューターが停止を命令した。これにより、わずか4日間のうちにSpaceXの異なる2機種でエンジン関連の打ち上げ異常が発生したことになる。
Spaceflight Nowのミッションタイムラインによると、この自動中止により、ブースター「B1082」を使用し、第4発射施設東区画(SLC-4E)から24機の「Starlink V2 Mini」ブロードバンド衛星を打ち上げる予定だった「スターリンク17-39」ミッションが、米東部時間午前11時18分に停止した。SpaceXは説明を示さないままウェブキャストを終了し、Xに「本日のスターリンク打ち上げは見送る。機体とペイロードは安全である」と短く投稿した。機体、射点、ペイロードへの被害は報告されていない。
この簡潔な対応は、射点での自動中止後におけるSpaceXの通常の対応と一致している。同社は通常、エンジニアが異常データを精査するまで分析結果を公表しない。そのデータが何を示すかはまだ不明だが、自動中止システム自体は設計通りに機能した。
■3重の冗長性を持つマーリンエンジンの安全システム
点火後の自動中止は、それ自体が不具合なのではなく、安全機能である。ファルコン9の第1段に搭載されている9基のマーリン1D(Merlin 1D)エンジンは、それぞれ3重冗長のコンピューターアーキテクチャを採用している。各エンジンに3つの独立したプロセッサが搭載され、常時相互に照合している。システム全体として許容範囲外の状態を検知し、機体を固定するクランプが解除される前に停止を命令できる。射点で異常を検知する方が、飛行中に検知するよりもはるかに損失が少ないため、このシステムが設けられている。
SpaceXのマーリンエンジン技術資料によると、マーリンの点火シーケンスはTマイナス2秒に始まる。まず、酸素と接触すると自然発火するTEA-TEB(トリエチルアルミニウム・トリエチルボラン)と呼ばれる液体が、各エンジンのプリバーナーに少量注入される。この反応によって各ターボポンプが運転速度まで回転する。回転数は最大3万6,000rpmで、エンジン1基当たり約1万馬力を発生し、液体酸素とRP-1ケロシンを加圧してガスジェネレーター燃焼サイクルへ送り込む。このシーケンス中にいずれかのセンサーが想定範囲外の値を検知すると、クランプが解除される前に自動中止が作動する。
SpaceXは、月曜日の停止を引き起こした具体的なパラメーターを明らかにしていない。過去のファルコン9における中止やエンジン停止の原因としては、エンジンのガスジェネレーター内部の流路閉塞(2020年10月のGPS-III打ち上げ中止)、予定より早いエンジン始動(同月のCrew-1打ち上げ前の中止)、エンジン配管内に残った汚染された洗浄液(2020年の飛行中のエンジン停止)などがある。SpaceXで製造・飛行信頼性担当副社長を務めていたハンス・ケーニヒスマン氏は、2020年10月のGPS-III打ち上げ中止後、自動中止システムが、機体に損傷を与える可能性のあるハードスタートを防いだと説明していた。
■実績あるブースター「B1082」の経歴
Spaceflight Nowのミッションプロファイルによると、今回の自動中止の対象となったブースター「B1082」は、23回目の打ち上げ試行を前に、22回の飛行をすべて成功させていた。その実績には、軍用仕様で製造されたStarshield衛星を含む機密の国家安全保障ミッション「NROL-145」と「USSF-62」のほか、商業ミッション「OneWeb Launch 20」、19回のスターリンクミッションが含まれる。これらのミッションで失敗したものはない。
TechTimesによるSpaceXのS-1届出書を基にしたブースター経済性の分析では、同社はファルコン9 Block 5ブースターを25回の飛行期間で減価償却し、技術面では最大40回の再利用を目標としている。22回の飛行を終えたB1082は、初期段階の問題が生じやすい時期を過ぎる一方、累積摩耗が懸念される段階にはまだ十分な余裕がある、再利用プログラムの中心的な運用範囲にあった。B1082が再び飛行するか、今後の使用から外されるかは、エンジニアによる異常調査の結果次第となる。
■2024年6月以来、2回目の射点自動中止
ファルコン9の運用において、点火後の自動中止は非常に珍しい。Space.comが当時報じたところによると、直近の同様の事象は2024年6月14日、ケープカナベラル宇宙軍基地での「スターリンク10-2」打ち上げ試行時に発生した。このときは9基のマーリンエンジンが点火した後、自動システムが停止を命令した。同ミッションは最終的に、9日後の2024年6月23日に別の第1段ブースターを使用して打ち上げられた。SpaceXの打ち上げ担当副社長であるキコ・ドンチェフ氏は、2024年6月の中止について、詳細なハードウェア検査を必要とする「実際の問題」だったと述べていた。
Spaceflight Nowの集計によると、月曜日の打ち上げが実施されていれば、2026年における85回目のファルコン9打ち上げであり、プログラム全体では667回目の飛行となる予定だった。このミッションは、月曜日の自動中止が発生する前にも、射場のスケジュール競合により当初予定されていた7月18日から延期されていた。
■ファルコン9とスターシップの自動中止に関連性はあるか
発生時期が近いことから、両者が関連しているのではないかという疑問が生じる。月曜日のファルコン9自動中止の4日前、テキサス州ボカチカにあるSpaceXのスターベース施設で、「スターシップ(Starship)Flight 13」がT-0で自動中止となっていた。Spaceflight Nowのライブ中継によると、スーパーヘビー(Super Heavy)ブースターに搭載された33基のラプター3(Raptor 3)エンジンのうち4基で点火が確認されなかったためである。イーロン・マスク氏は7月16日のXへの投稿で、そのうち2基のラプターエンジンを次回の試行前に取り外して交換すると明らかにした。SpaceXはスターシップFlight 13の次回試行について、早くても7月23日(木)を目標としている。
しかし、これら2機種とそれぞれの推進システムに共通する点はほとんどない。ファルコン9の第1段は、RP-1ケロシンと液体酸素を使用するガスジェネレーター開放サイクルのマーリン1Dエンジンを9基搭載しており、15年以上の飛行実績を持つ。一方、スターシップのスーパーヘビーブースターは、液化メタンと液体酸素を使用するフルフロー二段燃焼サイクルのラプター3エンジンを33基搭載している。熱力学的な構成が根本的に異なり、現在も開発が続いているシステムである。スターシップの自動中止では4基のエンジンが点火せず、ファルコン9では9基すべてが点火した後に停止命令が出された。機体、エンジン、異常の現れ方のいずれも異なる。
2つの事象に共通しているのは、SpaceXが異例の運用ペースを維持している時期に、発生日が近接したことだけである。2026年にはすでに約85回のファルコン9打ち上げが計画・試行されており、平均すると約3日に1回のペースとなる。この頻度では、射点で自動中止が発生する確率が非常に低くても、十分な回数を重ねればいずれ発生する可能性は極めて高くなる。
■国家安全保障衛星とスターリンク計画への影響
4日間で2回の自動中止が発生したことへの関心は、打ち上げ日程の問題だけにとどまらない。DefenseScoopによる宇宙開発庁(SDA)の打ち上げ再開に関する報道では、ファルコン9は、国防総省が計画する「PWSA(Proliferated Warfighter Space Architecture、拡散型戦闘宇宙アーキテクチャ)」の主要な打ち上げ機となっている。PWSAは、ミサイル警戒や追跡、低遅延の軍事データ中継を担う、低軌道上の多数の小型衛星によるネットワークである。スターシップFlight 13が自動中止となった7月16日、ファルコン9はSDAの「T1TL-E」ミッションで、ヨーク・スペース・システムズ製衛星21機を軌道へ投入することに成功した。Via Satelliteの打ち上げ前の報道によると、これによりPWSAのトランスポート層コンステレーションは、計画されている運用規模の約半分に達した。2027年にかけて、SDAのトランシェ1およびトランシェ2の追加ミッションがファルコン9による打ち上げ予定に組み込まれている。
ファルコン9全体の飛行停止措置は命じられていない。月曜日午後の時点で、SDAと国家安全保障宇宙打ち上げ(NSSL)プログラムは、月曜日の自動中止について公にコメントしていなかった。1回のミッション遅延がPWSAのスケジュールを脅かすことはないが、飛行停止が長期化すれば、完成がミサイル防衛構想「ゴールデンドーム」の基盤となるこのコンステレーションに現実的な影響が生じる。ゴールデンドーム関連では、2026年5月の4日間に、SpaceXへ総額64億5,000万ドル(約1兆449億円、1ドル=162円換算)の契約が付与された。
スターリンクについては、延期されたミッションに搭載されている24機のV2 Mini衛星は、すでに1万800機を超える稼働中の宇宙機を擁するコンステレーションへの小規模な追加にすぎない。Spaceflight Nowのミッション概要によると、これは現在地球軌道上で稼働する全衛星の約65%に相当する。SpaceXは2026年上半期だけで約1,600機のスターリンク衛星を打ち上げており、1回のミッション遅延がサービス提供範囲に実質的な影響を与えることはない。
■今後の見通し
月曜日午後の時点で、SpaceXは「スターリンク17-39」の新たな打ち上げ日を発表しておらず、自動中止の原因についても公に説明していなかった。2024年6月の自動中止の先例を踏まえると、同社はブースターB1082を調査した上で、再び射点へ戻すか、別の第1段ブースターに交換する可能性がある。いずれの場合も、通常は1〜2週間を要する。
一方、スターシップ側では、ファルコン9の遅延よりも重大な影響が生じる可能性がある。スターシップFlight 13は、20機のプロトタイプ「Starlink V3」衛星を搭載して準軌道飛行を行い、宇宙空間でのラプターエンジン再点火を実証する予定である。これは、NASAが有人アルテミス月探査ミッションを進める前提として求めている技術的なマイルストーンである。2026年3月のNASA監察総監報告書は、アルテミスの有人月着陸船がすでに少なくとも2年遅れていると推定している。遅延が重なるたびに、2028年の有人月着陸目標までにほとんど余裕のない日程は、さらに厳しくなる。
■注目ポイントQ&A
●2026年7月20日のファルコン9自動中止の原因は何ですか?
月曜日午後の時点で、SpaceXは原因を公表していません。ブースターB1082の9基のマーリン1Dエンジンが一時的に点火した後、飛行コンピューターがT-0で停止を命令しました。過去のファルコン9では、ガスジェネレーター内部の流路閉塞、予定より早いエンジン始動の検知、点火系に残った汚染された洗浄液などが中止や停止の原因となっています。いずれも推進系の構造破損ではありません。SpaceXは通常、1〜2週間以内に異常調査を終え、新たな打ち上げ日を発表します。
●ファルコン9が点火後に自動中止することはよくあるのですか?
非常にまれです。今回の前に同様の事象が起きたのは2024年6月14日で、それ以降、ファルコン9は130回を超える打ち上げを実施しています。ファルコン9の3重冗長エンジンコンピューターシステムは、許容範囲外のパラメーターを検知し、飛行中の異常を招くよりも前に離昇を中止するよう設計されています。システムが作動したことは、安全機構が正しく機能したことを意味します。
●今週発生したファルコン9とスターシップの自動中止に関連はありますか?
ほぼ確実に関連はありません。両機は異なるエンジンを使用しています。ファルコン9はRP-1ケロシンと液体酸素を使用するガスジェネレーターサイクルのマーリン1D、スターシップはメタンと液体酸素を使用するフルフロー二段燃焼サイクルのラプター3です。また、スターシップでは4基のエンジンが点火しなかったのに対し、ファルコン9では9基すべてが点火した後に停止命令が出されるなど、異常の現れ方も異なります。両者が近い時期に発生したのは、SpaceXが約3日に1回というペースでファルコン9を運用していることによる統計的な結果であり、共通原因を示すものではありません。
●スターリンク17-39は近く再打ち上げされますか? 遅延は利用者に影響しますか?
月曜日午後の時点で、新たな打ち上げ日は発表されていません。搭載されている24機のV2 Mini衛星は、1万800機を超える稼働中の宇宙機からなるスターリンク・コンステレーションへの小規模な追加です。SpaceXのS-1届出書によると、同社は2026年上半期だけで約1,600機のスターリンク衛星を打ち上げています。このため、1〜2週間の遅延が加入者向けサービスの提供範囲に影響することはありません。
元記事: Falcon 9 Auto-Abort at Vandenberg Marks SpaceX’s Second Engine Anomaly This Week
※この記事はTech Timesから提供を受けた記事を日本向けに翻訳・編集したものです。
スポンサードリンク

