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NVIDIAとLangChainが「NemoClaw」を発表、企業向けAIエージェントのコストを10分の1に削減と主張

Langchain (langchain.com)[写真拡大]
NVIDIAとLangChainは2026年7月8日(現地時間)、企業が自社インフラ上で本番環境向けAIエージェントを構築・管理・実行できるオープンな参照アーキテクチャ「NemoClaw for LangChain Deep Agents」を発表した。LangChainの社内ベンチマークによると、主要なクローズドモデルのAPI代替案と比較して、タスクあたりの推論コストを約10分の1に削減できるという。エージェント型ワークロードのコスト急増に悩む企業にとって、この新しい選択肢がどのような変革をもたらすのか、その詳細と技術的背景を探る。
■トークン単価ではなく「タスクあたりコスト」が重要な理由
エージェント型のワークロードは、1回の問い合わせで完結するチャットボットとは異なり、1つのタスクを完了するまでに5回から30回ものモデル呼び出し(ターン)が発生する。例えば、企業のコーディングエージェントは、タスクの計画、ツールの呼び出し、サブエージェントへの委任、出力の検証、エラーからの回復などを数十から数百回に及ぶ連続したターンで実行する。
米Gartner(ガートナー)が2026年3月に発表した分析によると、エージェント型ワークロードは標準的なチャットボットのクエリと比較して、1タスクあたり5倍から30倍のトークンを消費するという。その結果、トークン単位の価格設定に基づいてAI予算を策定していたチームは、本番環境の請求書が届いた段階で想定外の巨額コストに直面することになる。
米メディアのThe Informationが2026年4月に報じたところによると、UberのCTOであるPraveen Neppalli Naga氏は、同社が年間AIコーディング予算をわずか4カ月で使い果たしたことを明らかにした。エンジニア1人あたりの月額コストは500ドルから2,000ドル(約8万1,000円〜32万4,000円、1ドル=162円換算)に達し、同社はその後、支出に上限を設けたという。また、Gartnerの最新予測では、コストの急増などを理由に、2027年末までにエージェント型AIプロジェクトの40%以上が中止されると見られている。
NemoClawが提示する経済的メリットは、まさにこの課題に対応するものだ。1タスクあたりの完了コストが4.48ドル(約726円)であれば、従来1,000回の実行で4万3,480ドル(約704万4,000円、1回あたり約43.48ドル)かかっていたワークロードが、4,480ドル(約72万6,000円)に抑えられる計算になる。このコスト差こそが、エージェントを社内で広く展開できるか、あるいは極めて価値の高い一部のユースケースのみに制限せざるを得ないかを分ける境界線となる。
■「コスト10分の1」ベンチマークの実態
今回の発表で示された「精度スコア0.86」および「1実行あたり4.48ドル」という数値は、共同開発者であるLangChain独自の「Deep Agents」評価スイート(127のプロプライエタリなテスト事例で構成)によるものだ。なお、比較対象とされた1実行あたり43.48ドル(約7,044円)のクローズドモデルの名前は、LangChainおよびNVIDIAの発表資料では明かされていない。企業が調達の意思決定を行う際には、この点に留意する必要がある。
LLM(大規模言語モデル)のベンチマークの信頼性については、業界全体で課題が指摘されている。2026年の分析によると、同一のモデルであっても、使用する評価フレームワークによってスコアに10〜20パーセンテージポイントの差が生じることがあり、特にベンダー自身が設計・管理するベンチマークは結果が誇張されやすい傾向にある。また、127事例というサンプルサイズは比較的小さいため、テストセットとは領域やツール数、タスク構造が異なる実際の企業ワークロードにそのまま適用できるとは限らない。
LangChain側もこの点を認識しており、自社のブログ記事で「企業チームにとって重要なのは、システム全体を特定のワークロードの要件に合わせて最適化できることだ」と推奨している。つまり、4.48ドルという数値は本番環境での成果を保証するものではなく、システムが適切に調整された場合にこのアーキテクチャで達成可能な「理論上の下限値」として捉えるのが実用的である。
LangChainの共同創業者兼CEOであるHarrison Chase氏は、「優れたエージェントを構築するには、モデルを取り囲むシステムを改善し続けることだ。メモリ、ツールの利用、評価、そしてモデルの挙動は、チームがこれらを統合して調整することで相乗効果を発揮する」と述べている。今回のベンチマーク結果を達成するためにモデルの再学習は行われておらず、LangChainのエンジニアはNemotron 3 Ultraのアーキテクチャ上の強みに合わせて、システムプロンプト、ツールの説明、ミドルウェア、コンテキスト管理ロジックを調整したという。これは、モデルの内部にアクセスせずとも、設定の最適化だけで同様の効果を再現できる可能性を示唆している。
■Nemotron 3 Ultraのアーキテクチャとコスト削減の仕組み
このコスト削減は単なるマーケティング上の主張ではなく、エンジニアリングに裏付けられたものだ。Nemotron 3 Ultraは、最先端規模のモデルを実行する計算コストを削減するために、4つのアーキテクチャ上のメカニズムを採用している。
1つ目は、スパースな「Mixture-of-Experts(MoE)」ルーティングだ。モデル全体のパラメータ数は5500億だが、個々のトークン処理でアクティブになるのはその10%にあたる550億パラメータのみである。「LatentMoE」と呼ばれる学習済みのゲート機構が、各トークンを圧縮された潜在空間経由でルーティングし、512個の利用可能なエキスパートサブネットワークから処理を担当する約22個のエキスパートを選択する。推論コストはアクティブなパラメータ数に依存するため、550億パラメータのデンス(密)モデルと同等のコストで実行しつつ、5500億パラメータの容量による高度な推論能力を維持できる。
2つ目は、「Mamba-2」と「Transformer」のハイブリッドアーキテクチャだ。標準的なTransformerのアテンション機構は、シーケンス長に対して2乗比例で計算量が増加するため、100万トークン規模のコンテキスト処理は極めて高コストになる。Nemotron 3 Ultraでは、アテンションレイヤーの一部をMamba-2レイヤーに置き換えることで、長距離のシーケンス依存関係を線形時間複雑度で処理する。会話履歴やツールの出力、多段階の推論チェーンが急速に蓄積するエージェント型ワークロードにおいて、この差は極めて大きい。NVIDIAはこのハイブリッド構造により100万トークンのコンテキストウィンドウを実現したとしており、同等サイズの純粋なTransformerモデルでは実用的な提供が困難なレベルであるという。
3つ目は、「複数トークン予測(Multi-Token Prediction:MTP)」だ。1回のフォワードパスで1つの出力トークンを生成するのではなく、MTPレイヤーが複数の未来のトークンを同時に予測し、投機的デコーディング(speculative decoding)を通じて並列に検証する。これにより、計算量を比例して増やすことなくスループットを向上させている。
4つ目は、「NVFP4」量子化である。NVIDIAのBlackwell GPUアーキテクチャ(H200およびGB200)にネイティブな独自の4ビット浮動小数点フォーマットにより、モデルのメモリフットプリントをBF16精度の約1.1テラバイトから約275ギガバイトへと削減し、Blackwellハードウェア上では最大5倍のスループット向上を実現する。なお、前世代のH100 GPUでは、NVFP4の重みは計算前にFP8に逆量子化されるため、VRAMの削減効果は得られるものの、スループットの向上効果は限定的となる。NVIDIAはBlackwell環境下で他のオープンモデルと比較して5倍のスループットを報告しているが、H100クラスターを実行するユーザーが期待できる効果はこれよりも小さくなるとみられる。
このブループリントの推論環境は、Baseten、Crusoe Cloud、DeepInfra、Fireworks AI、Nebius、Together AIの6つのホスト型プロバイダーを通じて即座に利用可能だ。自社でBF16バージョンをホストする場合、最低8基のH100 GPUが必要となる。
■3層で構成されるブループリントの構造
NemoClawは、一括導入も段階的導入も可能な3つのコンポーネントで構成されている。
まず、モデル層を提供する「Nemotron 3 Ultra」は、2026年6月4日にLinux FoundationのOpenMDW-1.1ライセンス下でリリースされた。学習済みのパラメータのみを公開し、学習データや手法を非公開とする一般的な「オープンウェイト」モデルとは異なり、NVIDIAはNemotron 3 Ultraの学習データ、レシピ、ファインチューニング用のコードも併せて公開している。この透明性は、EU AI法(EU AI Act)の汎用AI(GPAI)規定が2025年8月からモデルプロバイダーに課し始めた要件を満たしており、同法が完全適用される2026年8月2日に向けて、企業がコンプライアンス要件を満たすための文書化を支援するものとなる。
次に、ハーネス層である「LangChain Deep Agents Code」は、計画、ツールの使用、メモリ管理、複数ターンのタスク実行を制御する。これはMITライセンスのオープンソースソフトウェアであり、Nemotron 3 Ultra向けに調整されたプロファイルがLangChain内に直接組み込まれている。
最後に、実行環境層となる「NVIDIA OpenShell」は、エージェントが生成したコードの実行をサンドボックス化し、エージェントがツールやシステム、企業データと対話する際のがバナンスポリシーを適用する。このサンドボックス化はセキュリティ上極めて重要だ。LangChainのコアライブラリには、2025年12月に公開された深刻な脆弱性(CVE-2025-68664、CVSSスコア9.3)が存在し、シリアライズパスに影響してプロンプトインジェクションによる機密情報の漏洩を許す可能性がある。また、Microsoftのセキュリティチームも2026年初頭に、LangChainにおけるプロンプトからシェルへのリモートコード実行パスを報告している。OpenShellのアーキテクチャはこれらへの直接的な対策であり、エージェント生成コードをサンドボックス内で実行することで、プロンプトインジェクションやコード実行の脆弱性による被害範囲を構造的に制限する。
EY(アーンスト・アンド・ヤング)は、規制の厳しい業界の顧客向けに、このブループリント全体の導入支援体制を構築している。NVIDIAとの提携を担当するEYのグローバル・チーフ・コマーシャル・オフィサー、Geoff Vickrey氏は、規制対象の顧客が求めているのは「エージェントの動作に対する透明性、データと推論が実行される場所の制御、そして自社の条件に合わせた自由な展開」であると述べ、モデル、ハーネス、実行環境のすべてがオープンまたは監査可能であるこのスタックが、ベンダーロックインを回避しつつ要件を満たす手段になると指摘している。
■知的財産(IP)を企業自身が保有するメリット
NemoClawのオープンアーキテクチャがもたらすビジネス上のメリットは、コスト削減だけに留まらない。エージェントのメモリ、ワークフローロジック、評価データセット、ハーネスの設定、そして蓄積されたチューニングデータは、すべて企業独自の知的財産(IP)である。クローズドなAPIを利用する場合、これらのノウハウはベンダーとの関係に縛られ、価格改定やモデルの提供終了に伴って他社へ移行することが困難になる。一方、オープンなスタックであれば、調整されたハーネスや評価データセット、モデルの重み自体を企業自身が完全に所有・管理できる。
LangChainが2026年7月8日に発表した内容によると、Bridgewater、LinkedIn、Workday、Harvey、Ripplingを含む7,000以上の組織が、本番環境でのエージェント構築・管理にLangSmithを利用しているという。
この発表におけるNVIDIAの戦略的意図も明確だ。オープンモデルの普及は、同社のコンピューティング需要を直接的に押し上げる。5500億パラメータのモデルは、アクティブなパラメータが10%であっても、本番環境のレイテンシ要件を満たすためには強力なマルチGPUインフラを必要とする。NVFP4によるスループット向上を可能にするBlackwell GPUシリーズこそが、NVIDIAが最も販売したい製品である。その意味で、Nemotron 3 Ultraは技術的な貢献であると同時に、同社のハードウェア需要を喚起するエンジンとしての側面も持っている。
■既存のクローズドモデル利用企業への影響
すでにクローズドモデルを利用している企業にとって、この新スタックがすぐに代替の選択肢になるかと言えば、答えは「ワークロードによる」となる。Nemotron 3 Ultraは、Artificial Analysisのインテリジェンス指数で9位に位置しており、米国発のオープンウェイトモデルとしては首位であるものの、中国のKimi K2.6には6ポイント及ばない。NVIDIA自身のベンチマークデータでも、コーディングタスク(Terminal-Bench 2.0で54%対Kimi K2.6の67%)や長期計画タスク(EnterpriseOps-Gymで33%対GLM-5.1の40%)においては競合の後塵を拝している。これらの能力が中心となるワークロードを運用している企業にとっては、移行のメリットは限定的かもしれない。
しかし、長いコンテキストの処理、指示への追従、そしてツールの多用が求められるワークロード(エンタープライズ向けエージェントの大部分がこれに該当する)においては、Nemotron 3 Ultraのアーキテクチャは極めて強力な選択肢となる。NVIDIAのベンチマークでは、長文コンテキスト(100万トークンのRulerで95%)で首位に立ち、エージェントの生産性(PinchBenchで91%)でも同率首位を獲得している。調整済みのDeep Agentsハーネスにより、カスタムモデルのトレーニングを行うことなく、導入後すぐにシステムを稼働させることができる。コスト削減効果が特定のワークロードで10分の1に満たない場合であっても、本番環境への展開における経済的な判断を大きく変える要因になり得るだろう。
企業が取るべき現実的なアプローチは、LangChainから調整済みプロファイルを取得し、自社の実際のワークロードのサンプルに対してテストを実行し、ベンダーの公表値に頼ることなく、実際の精度とタスクあたりコストを自ら測定することである。
■注目ポイントQ&A
●10分の1のコスト削減は、独立した第三者機関によって検証されていますか?
いいえ、検証されていません。4.48ドルと43.48ドルという比較数値は、共同開発者であるLangChain独自の「Deep Agents」評価スイート(127のテスト事例)に基づき、当事者が実施したベンチマークの結果です。比較対象となった43.48ドルのモデル名も公表されていません。LangChain自身も、企業が導入を決定する前に、自社の実際のワークロードでコストと精度を検証することを推奨しています。
●5倍のスループット向上を達成するには、どのようなハードウェアが必要ですか?
NVIDIAが報告している5倍のスループットは、Blackwell GPU(H200またはGB200)のネイティブなFP4テンサーコアを利用する「NVFP4」量子化環境で測定されたものです。H100 GPUを使用する場合、NVFP4の重みは計算前にFP8に逆量子化されるため、VRAMの削減効果(約1.1TBから約275GBへ)は得られますが、スループットの向上効果は限定的になります。Blackwell環境を自社で構築できない場合は、提携しているホスト型インファレンスプロバイダー(Baseten、Crusoe Cloudなど)を利用して本番環境にアクセスする方法があります。
●このスタック上で構築したチューニングデータや評価データはどうなりますか?
NemoClawはオープンなスタックであるため、作成したチューニングデータ、評価データセット、ハーネスの設定、ワークフローロジックはすべて自社の知的財産(IP)として保持されます。オープンウェイトモデルやオープンソースのハーネスを使用する過程で、これらのデータがNVIDIAやLangChainに送信されることはありません。クローズドAPIのように、ベンダーの都合や価格改定によって資産が失われるリスクを回避できます。
●LangChainのエージェントハーネスを使用することで、セキュリティ上のリスクは生じますか?
LangChainのコアライブラリには、2025年12月に公開された深刻な脆弱性(CVE-2025-68664、CVSSスコア9.3)が存在するほか、リモートコード実行の経路も報告されています。NemoClawに含まれる「NVIDIA OpenShell」は、コードのサンドボックス化や最小権限の適用によってこれらのリスクを構造的に制限するように設計されていますが、依存関係にあるライブラリ自体の脆弱性を完全に無効化できるわけではありません。企業チームは、修正パッチが適用されたバージョンのlangchain-coreを使用していることを確認した上で、OpenShellを多層防御の一環として運用する必要があります。
元記事: Open Agent Stack Cuts Enterprise AI Cost 10x: NemoClaw Blueprint Ships
※この記事はTech Timesから提供を受けた記事を日本向けに翻訳・編集したものです。
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