ゴールドマン予測6倍に上方修正、ヒューマノイドロボット市場が本格始動——中国勢がリードも、安全保障上の懸念が浮上

2026年6月4日 13:18

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記事提供元:Tech Times

ヒューマノイドロボット市場はAIの急速な進化と製造コストの低下を主因に、市場は「予測フェーズ」から「実証フェーズ」へ移行しつつある。Photo by Gabriele Malaspina on Unsplash

ヒューマノイドロボット市場はAIの急速な進化と製造コストの低下を主因に、市場は「予測フェーズ」から「実証フェーズ」へ移行しつつある。Photo by Gabriele Malaspina on Unsplash[写真拡大]

ゴールドマン・サックスは2024年1月のレポートで2035年のヒューマノイドロボット市場規模予測を60億ドルから380億ドル(約5兆7000億円、1ドル=150円換算)へと6倍に上方修正した。AIの急速な進化と製造コストの低下を主因に、市場は「予測フェーズ」から「実証フェーズ」へ移行しつつある。一方で、出荷台数で世界をリードする中国・Unitree Roboticsについては、中国法に基づく情報提供義務を根拠としたセキュリティ上の懸念が米議会や研究者から相次いで表明されており、企業・研究機関が導入を検討する際には無視できないリスク要因となっている。

■ウォール街、ヒューマノイドロボットを「物理AI分野の本命」と位置づけ

今週、ヒューマノイドロボットに対する機関投資家の確信が新たな局面を迎えた。Wedbush Securitiesのマネージングディレクター、ダン・アイヴズ氏は米CNBCのインタビューで、ヒューマノイドロボットを「物理AI(Physical AI)の本命分野」と呼び、「AIレボリューションにおける最大級の市場機会のひとつ」と位置づけた。また、SoftBankの孫正義CEOも6月1日(フランスでのAIインフラへの750億ユーロ投資発表の翌日)に同局の取材に応じ、「物理AIを中核とした」ヒューマノイド・産業用ロボティクスこそが、次のトリリオンダラー(1兆ドル規模)企業を生み出す領域だと語った。

こうした発言の背景には、予測数値の大幅な上方修正がある。ゴールドマン・サックスは2035年のヒューマノイドロボット市場規模予測を従来の60億ドルから380億ドルへと約6倍に引き上げた。同行の調査チームは、AIの進化とコスト低下の加速を主要因として挙げ、とくに「エンドツーエンドのAI訓練」——あらゆる動作を人手でプログラムせずとも、モデルが自律的に学習できる手法——が当初の予測を最も大きく上回った技術的進歩だと指摘している。同行の基本シナリオでは、2030年のヒューマノイドロボット出荷台数は25万台超を見込んでおり、そのほぼ全量が産業用途向けとされている。

■商用展開の実績が投資判断の根拠に

機関投資家にとって2026年の決定的な変化は、予測から実証データへの移行だ。Agility RoboticsのDigitは、2024年6月の初期商用展開以来、GXOロジスティクスの施設において10万個超のトート(輸送コンテナ)の搬送実績を積んでいる。2026年2月には、1年間の試験運用を経てトヨタ自動車カナダ製造(Toyota Motor Manufacturing Canada)とのRobotics-as-a-Service(ロボットをサービスとして利用する契約形態)契約を締結。現在、カナダ・オンタリオ州ウッドストックのRAV4生産工場でDigit 7台が資材搬送を担っている。

Boston DynamicsのEV駆動型Atlasは、2026年の生産割り当て分がすでに完売状態で、初期出荷分は現代自動車(Hyundai)への納入が決まっており、実際の量産ラインで車両部品の仕分け作業を行う映像も公開されている。Figure AIのFigure 02は、米サウスカロライナ州のBMW工場で11カ月間の展開を完了し、2台のロボットが3万台超の自動車組み立てに携わり、9万点以上の板金部品を扱ったとされる。供給側の制約自体が市場の成熟を示すシグナルであり、少なくとも1つの主要プラットフォームでは、現時点でもすでに需要が供給能力を上回っている。

■シミュレーション学習がコストを15万ドルから4万ドル台へ圧縮

現在のコスト圧縮を可能にしている技術的背景は、製造上の工夫ではなく、ソフトウェアのパラダイムシフトにある。Agility Robotics、Figure AI、NVIDIAなど各社が収束しつつある手法が「シミュレーション学習(sim-to-real transfer)」だ。ロボットのあらゆる動作を物理シミュレーター上で学習させたうえで、追加調整なしに実機へ移行する手法である。

Agility Roboticsのdigit向けの全身制御システムは、パラメーター数100万未満のLSTM(長短期記憶)ベースのニューラルネットワークで構成され、NVIDIAのIsaac Simにおいて3〜4日間の計算で「数十年分」に相当するシミュレーション経験を積ませている。学習済みの制御方策は、実機に対してゼロショット転移——つまり追加調整なしに、シミュレーション後に直接リアルワールドのタスクを実行——が可能だという。Figure AIは、物理パラメーターをランダム化した数千台の仮想ロボットを並列訓練する強化学習手法を採用し、得られた制御方策をそのまま工場の実機に適用している。

NVIDIAのGR00T N1モデルは「Vision-Language-Action(視覚・言語・行動)」アーキテクチャを採用している。環境を解釈する視覚言語モジュールと、リアルタイムで連続的な運動指令を生成するdiffusionトランスフォーマーモジュールからなる二重構造で、実ロボットの動作軌跡・人間の動画・合成データを組み合わせたデータでエンドツーエンドに学習される。このアプローチにより、一つのモデルが異なるロボット本体や作業種別に汎化できるため、NVIDIAは各メーカーが独自に動作モデルを構築することなく、インフラとして供給できる立場にある。

コスト構造への波及効果は直接的だ。商用ヒューマノイドの最大コスト要素はアクチュエーター(材料費比率35〜40%程度)で、次いでバッテリー(同15〜20%)、車載コンピューティング(同10〜15%)となる。中国メーカー、とくにUnitreeは国内での量産により、アクチュエーターコストを約50%削減したとされる。また、バッテリーコストは2026年に1キロワット時あたり約100ドルまで低下している。

こうしたハードウェアのコモディティ化とシミュレーション学習の組み合わせが、商用グレードの価格帯を2023年の15万ドル超から2026年には約4万〜6万ドルへと引き下げた要因とされる。AgililyのトヨタへのRobotics-as-a-Service料金は1台あたり1時間約30ドルで、ハードウェア・ソフトウェア・無線アップデート・保守を一括して運用コストに組み込める構造となっており、メーカー側は初期資本支出なしに技術を導入できる。

■中国が出荷台数でリードするなか、Unitreeへのセキュリティ懸念が浮上

西側投資家にとって、競争環境は単純ではない。WedbushのアイヴズCNBCで明言しているように、ヒューマノイドロボティクスにおいて現状の明確なリーダーは中国であり、米国は追いかける立場にある。浙江省杭州市に本社を置くUnitree Roboticsは2025年に約5500台を出荷し、2026年には1万〜2万台を目標としている。2025年のグローバルなヒューマノイドロボット設置台数では中国勢が過半数を占めており、その年の大半をパイロット段階で過ごした西側勢の先行者優位はまだ埋まっていない。

この出荷台数面での優位には、構造的な複雑さが伴う。6月1日、NVIDIAはヒューマノイドロボティクス研究向けの初の公開プラットフォームとして、UnitreeのH2シャシーとNVIDIAのJetson Thorハードウェア、Isaac GR00Tソフトウェアを組み合わせたシステムをスタンフォード大学やカリフォルニア大学サンディエゴ校などの研究機関向けに提供すると発表した。この発表は即座に精査を招いた。Unitreeが、2017年6月に施行された中国国家情報法第7条に基づき、すべての中国企業・市民に対して国家情報活動への支援・協力を義務付けている法律の適用対象企業だからである。この義務は、サーバーの所在地や子会社の設立地、プライバシーポリシーの記載内容にかかわらず適用される。これはパフォーマンスと天秤にかけるリスクではなく、Unitreeが本拠を置く法域の現行法である。

■Unitreeのヒューマノイドモデルに対する独立監査は未実施

米議会によるUnitreeへの懸念は、NVIDIA連携より前から存在する。2025年5月、超党派の米下院議員24名が国防長官・商務長官・FCC委員長に対し、UnitreeとPLA(中国人民解放軍)関連機関との関係調査、および同社の連邦セキュリティ指定リストへの追加検討を求める書簡を送付している。2026年3月17日には、下院国土安全保障小委員会がUnitreeの安全保障上のリスクについて専門の公聴会を開催した。2026年5月には、リック・スコット上院議員とトム・コットン上院議員がUnitreeを含む6社を対象とした「Blocking CCP Spy Tech Act of 2026(CCP スパイ技術遮断法案)」を提出。同法案は、FCCの「Covered List(規制対象リスト)」への追加につながる可能性のある国家安全保障調査を義務付けており、連邦資金を受け取る研究者によるUnitreeハードウェアの使用にも影響する可能性がある。

セキュリティ研究者は、UnitreeのGo1ロボット犬に脆弱性CVE-2025-2894として登録されたバックドアを確認している。カメラ・音声・センサーデータへのアクセスを管理鍵の所有者に付与するCloudSailトンネルサービスが隠蔽されていた件で、Unitreeはこのサービスを無効化し、ヒューマノイドを含む新モデルではより安全なアーキテクチャを採用していると説明している。ただし、この主張を裏付けるヒューマノイドモデルの独立したセキュリティ監査報告は公表されていない。さらに、Alias RoboticsのセキュリティリサーチャーVíctor Mayoral-Vilches氏は、G1ヒューマノイドにおいて音声・映像・空間データを含むテレメトリが中国国内サーバーへ非公開でストリーミングされていることを別途確認している。また、Unitreeの実装において使用されている暗号化キーがハードコードされており、すでにオンラインで流出していたことも判明している。Unitreeは不正行為を否定している。

NVIDIAはこれらの懸念に正面から対応し、ロイターの取材に対し、ロボットの各サブシステムへのソフトウェアアップデートはBlackwellチップを通じて配信され、コード実行前に認証されると説明した。またNVIDIAは、米国・欧州・韓国のヒューマノイドメーカーとも同様のリファレンスプラットフォームを構築する計画があることを確認しているが、具体的なパートナー名は公表していない。

■現行技術の工学的な限界

ゴールドマン・サックスは予測を上方修正しながらも、現行技術の課題を明示している。同行は、「マニピュレーション(形状・重量・硬さが異なる物体の把持)」と「音声コマンドへの自然な応答」の2点を、量産型汎用ヒューマノイドが未解決のままにしているボトルネックとして挙げている。現行プラットフォームは、反復作業と予測可能な環境に強い一方、非構造化環境では対応力が落ちる。

バッテリー持続時間も実用上の制約となっている。現行世代の商用ヒューマノイドは連続稼働2〜8時間でリチャージが必要であり、ダウンタイムがコストに直結する環境での用途は限られる。新規路面での移動安定性は、専用設計の工場フロア外では実証されていない。10ミリメートルを超える段差は二足歩行ロボットの転倒リスクを高め、コンクリート上の油膜も転倒の原因となりうるが、現行の米国産業用ロボット安全規格「ANSI/A3 R15.06-2025」はこれらに対応した設計ではない。二足歩行システムの転倒範囲の計算などをカバーする予定のISO 25785-1(歩行ロボット規格)は現在も草案段階にあり、正式には発行されていない。

安全面では、出力する力に関する固有の問題も記録されている。2025年11月、カリフォルニア州北部地区連邦裁判所に提起された連邦内部告発訴訟によると、Figure AIのF.02ヒューマノイドは、成人の頭蓋骨を骨折させるのに必要な力の2倍を超える衝撃力を発生させることが内部テストで判明したにもかかわらず、この懸念を表明したエンジニアが解雇されたと主張されている。Figure AIはこの主張を否定しており、裁判は係争中だ。OSHAにはヒューマノイドロボットの出力力を直接規制する基準が存在せず、同庁はGeneral Duty Clause(一般義務条項)の適用とANSIコンセンサス規格への準拠を事業者に求めているが、いずれも二足歩行ロボットを想定した内容ではない。

投資家向けの分析として、アナリスト各社は、現在の倉庫作業のうち約25%は既存の固定型自動化設備では対応が難しい可変性の高い作業であり、ヒューマノイドロボットが吸収しやすい領域だと指摘している。雇用への影響については見方が分かれる。世界経済フォーラム(WEF)の「2025年雇用の未来レポート」は、2030年までにグローバルで1億7000万件の新規雇用創出と9200万件の雇用喪失が生じ、差し引き7800万件の純増となると予測している。一方、マッキンゼー・グローバル・インスティテュートは幅広い試算を示し、2030年までに自動化によって4億〜8億件の雇用が世界規模で失われる可能性があるとして、より慎重な見方を取っている。いずれの試算も、新しい仕事が生まれるまでの移行期間中、雇用代替のコストを誰が負担するかという問いには答えていない。

アナリストのコンセンサスは、2026年が市場の本格的な始まりであり、成熟期ではないというものだ。ゴールドマン・サックスの2035年380億ドル予測は、物理ハードウェアが商用水準に達し、AI学習パイプラインが産業規模に到達した時代を反映している。同時に、出荷台数で世界トップの企業が、プライバシーポリシーによっては上書きできない法的義務を負う法域に本拠を置いているという事実も、この市場の現状の一部をなしている。今日ヒューマノイドロボット導入を検討するあらゆる企業・機関にとって、投資根拠は現実のものとなっており、工学的な制約は具体的であり、中国市場のリーダーは特定の法的義務とともにやってくる。

■注目ポイントQ&A

●2026年のヒューマノイドロボットはどうやって新しい作業を学ぶのか?

2026年における商用ヒューマノイドの主流な学習方法は「シミュレーション学習(sim-to-real transfer)」です。NVIDIAのIsaac Simなどの物理シミュレーターで数千時間分の強化学習を行い、実機への転移は追加調整なしで行われます。NVIDIAのGR00T N1基盤モデルには視覚言語モジュールが組み込まれており、自然言語での指示を解釈したり、異なるロボット本体・作業種別への汎化が可能とされています。

●2026年にヒューマノイドロボットを導入するコストは実際いくらか?

商用グレードのヒューマノイドは現在1台あたり4万〜6万ドル(約600万〜900万円、1ドル=150円換算)とされており、2023年の15万ドル超から大幅に低下しています。アクチュエーターやバッテリーの価格下落が主因です。Agility Roboticsなどはロボット1台あたり1時間約30ドルのRobotics-as-a-Serviceモデルを提供しており、ハードウェア・ソフトウェア・保守を単一の運用コストに束ねる形で、賃金水準の高い製造地域における人件費(フルコスト)に近い水準とされています。

●米国内の施設でUnitree製ロボットを使用することは安全か?

Unitreeの四足歩行ロボットGo1には、中国のサーバーへのデータ送信を行う隠しバックドア(CVE-2025-2894)が存在していたことが確認されています。Unitreeはこのサービスを無効化し、新モデルではより安全なアーキテクチャを採用していると説明していますが、ヒューマノイドモデルに対する独立したセキュリティ監査報告は公表されていません。中国国家情報法第7条のもと、Unitreeはデータの保存場所や稼働地域にかかわらず、中国国家情報機関への協力が義務付けられています。2026年5月に提出された「Blocking CCP Spy Tech Act of 2026」は、国家安全保障調査を義務付けており、連邦資金を受けた研究者によるUnitreeハードウェアの使用を制限する可能性があります。

●ゴールドマン・サックスの2035年ヒューマノイドロボット市場予測は?

ゴールドマン・サックスは2024年公開のレポートで2035年の市場規模予測を380億ドル(約5兆7000億円)へと上方修正しており、当初の60億ドル予測の約6倍に相当します。AIが動作をほぼ自律的に学習できるようになったことと、製造コストの低下を主な理由として挙げています。同行の基本シナリオでは、2030年の出荷台数は25万台超とされており、需要は自動車製造・物流などの構造化された産業環境に集中するとみています。

※この記事はTech Timesから提供を受けた記事を日本向けに翻訳・編集したものです。

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