不都合な真実を覆い隠す「死んだ猫」とは? 現代政治の狡猾な戦術「Dead Cat Strategy」

2026年2月15日 20:04

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 以前、「dead cat bounce(死んだ猫の跳ね返り)」という表現を紹介した。これは、「50階から落とせば死んだ猫でも少しは跳ねる」という比喩により、急落した株価や人気が一時的に持ち直す現象を指すイディオムだ。

【こちらも】「死んだ猫の跳ね返り」とは? 猫にまつわる英語イディオム (24)

 今回紹介するのも、同じく「dead cat(死んだ猫)」を用いた表現だ。しかし意味も文脈も、まったく異なる。「dead cat strategy(死んだ猫の戦略)」、または「dead cat on the table(テーブルの上の死んだ猫)」とも呼ばれる表現だが、いったいこれは何を意味するのだろうか。

■「猫の死骸」という強烈な比喩

 この言葉の生みの親とされているのは、オーストラリア出身の政治戦略家リントン・クロスビーであり、それを世に広めたのが元英国首相のボリス・ジョンソンだ。つまりこの言葉は、数百年の歴史を持つ古典的なイディオムではなく、2010年代以降の激しい選挙戦の中で急速に広まった、きわめて現代的なフレーズである。

 ジョンソンは、かつて自身のコラムの中で、この戦術を次のように説明した。

 「もし議論が自分の不利な方向に進みそうになったら、食卓の真ん中に死んだ猫を投げ出せばいい。誰もが『なんてことだ、死んだ猫がテーブルに乗っているぞ!』と叫び、それまで話していた不都合な話題など忘れてしまうだろう。」

 たとえその「猫」がいかに不快でスキャンダラスなものであっても、もしくは、本筋とは関係のない単に過激な発言であったとしても、人々の注目を奪うことに成功すれば戦略としては「勝ち」だという。

■「死んだ猫」の陰に隠されているもの

 この戦術が恐ろしいのは、人間の脳が、複雑で退屈な政策論議よりも、単純でショッキングなスキャンダルに反応してしまう性質を利用している点にある。

 政府の失政や企業の不祥事が追及されている最中に、突然、誰かの差別発言や有名人のスキャンダルが報じられたとしたらどうなるだろう。それが「dead cat(死んだ猫)」として機能すれば、本来議論すべき本質的な問題が見失われかねない。

 実際、ビジネスの交渉や会議の場などでも、この手法は形を変えて現れている。不利な条件を突きつけられた側が、唐突に無関係な過去のトラブルを蒸し返したり、感情を爆発させたりして論点をすり替えるのはその典型と言えるだろう。

 例文
 The minister's controversial comment was clearly a dead cat strategy to shift the media's focus away from the budget deficit.
 (大臣の物議を醸す発言は、財政赤字からメディアの注目を逸らすための「死んだ猫の戦略」であることは明らかだった)(記事:ムロタニハヤト・記事一覧を見る

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