「P」から始まる遊び心あふれるフレーズ2選 イギリス英語のスラング特集 (17)

2023年11月13日 09:06

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 今回は、スラングというより、言葉遊びに近いイギリス英語のフレーズを2つ紹介したい。どちらも、「P」から始まる口に出したくなるようなフレーズである。

【前回は】まさにイギリスらしい表現「pea-souper」とは? イギリス英語のスラング特集 (16)

■Pinch punch first of the month

 「Pinch punch first of the month」とは、子供の遊び歌の一種だ。日本語に翻訳するのは難しいが、「月初めだね、つねってパンチ!」とでも訳せるだろうか。月の初めに、「今月もよろしく」という意味で友だちを軽くつねり、軽くパンチしながらこのフレーズを言う。

 また、これを言うときは、続けてすぐに「no returns of any kind」(お返しはなし)と言うのが決まりだ。それが遅れた場合、相手は「a slap and a kick for being so quick」(そんな早とちりにはビンタとキックだ)と言いながら、(軽い)ビンタとキックをお返しする。

 このような子供の遊び歌だが、その起源は中世にまでさかのぼる。当時、教育の機会は富裕層に限られ、一般のほとんどの人は字が読めず、科学的な知識を持っていなかった。魔女信仰や呪いなどの迷信が本気で信じられていた時代だ。このフレーズの「pinch」は、そんな時代の魔女除けのおまじないと関係している。

 魔女の弱点はひとつまみの塩(pinch of salt)と言われている。だから、このフレーズにあるように、まず塩で魔女を弱らせてから、パンチで追い払うことによって、魔女や悪運を向こうひと月遠ざけようという試みだ。要は、悪運を遠ざけ幸運を呼び込むおまじないである。時代は変わったが、今もイギリスでは子供同士の遊びとして残っている。

■Pip pip

 「pip pip」は、イギリスの中上流階級でかつてよく使われていた挨拶のフレーズだ。「Hello」や「Goodbye」の代わりに「pip pip」と言うのが、20世紀前半に流行した。

 これは、もともと車のクラクションを真似た擬音語である。運転中に知り合いを見かけたときなど、通り過ぎる際にクラクションを鳴らして挨拶するが、その音が英語では「pip pip」と聞こえることから、日常の挨拶でもややコミカルに声をかけるときによく用いられていたと言う。

 この挨拶は、自動車の普及が始まった19世紀終わりごろから、ロンドンの都市部などでよく聞かれるようになったらしい。アメリカの作家、マーク・トウェインがイギリスに旅行した際、その風変わりな挨拶が気になって知り合いのブラム・ストーカーに聞いたところ、それが友人間で交わされる流行の挨拶だと教えてもらったという記録が残っている。

 そんな「pip pip」という挨拶も今では廃れてしまい、日常会話で聞かれることはあまりない。ただ、今も古い時代を舞台にしたドラマや映画では耳にするし、わざと冗談めかして言ったりする人もいる。

 ・Pip pip! How are you today?
 (やあ!今日はどう?)(記事:ムロタニハヤト・記事一覧を見る

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