宇宙で展開可能な軽くて柔らかい無線機開発 コスト削減へ 東工大

2023年6月23日 11:37

印刷

展開型フェーズドアレイ無線機コンセプト(画像: 東京工業大学の発表資料より)

展開型フェーズドアレイ無線機コンセプト(画像: 東京工業大学の発表資料より)[写真拡大]

 SpaceX社のStarlinkに代表される宇宙情報通信網は、今後世界的に普及していくだろう。このような複数の人工衛星群で構成されるシステムを衛星コンステレーションと呼ぶ。

【こちらも】土星の衛星エンケラドゥスで生命必須元素であるリンを検出 東工大ら

 高速で地球全体をカバーできる通信網の確立には、より多くの人工衛星を用いたネットワークが必要だ。因みにStarlinkは数千機以上の人工衛星で構成されるが、衛星打上げコストがネックで、ロケット技術革新によるコストダウンだけでなく、衛星軽量化が重要課題となっている。

 東京工業大学は19日、従来の4分の1以下の軽量化を実現できるフレキシブル液晶ポリマー基板を採用した、折り曲げ可能なフェーズドアレイ無線機の開発に成功したと発表した。

 フェーズドアレイは、送信電波の周波数を変化させ、各アンテナ素子の位相を擬似的に変化させる技術だ。軽量化だけでなく、従来数%だった無線電力受信効率も、46%と飛躍的に向上させることにも寄与しているという。

 今回開発した液晶ポリマー基盤には、厚い領域と薄い領域がある。厚い領域にはアンテナや無線ICを搭載し、薄い領域には高周波伝送線路を通す構成とした結果、フェーズドアレイ無線機の求める多層構成による高密度化と、宇宙展開構造の求める柔らかく折り曲げやすい形状を両立した。

 Starlinkの人工衛星1機あたりの重量は200kgあり、仮にこれを4分の1に軽量化できたとすれば、1kgあたりの打上げコストを100万円とした場合、1機あたりの打上げコストダウンは1億5,000万円となる。1,000機の打上げでは、1,500億円ものコストダウンになるのだ。

 1kg級の人工衛星を世界に先駆けて打上げたのは、他ならぬ日本だ。以降の約20年間で人工衛星の超軽量化は世界的トレンドとなった。

 今後10年間で500kg以下の人工衛星1万機が全世界で打上予定とされる。例えばNASAの系外惑星探査機ASTERIAは12kg、火星着陸機の電波を地球に中継するMarCOは13.5kgという軽さだ。今回の開発は非常にタイムリーだが、世界レベルを見れば日本も油断ならぬ状況と言えそうだ。(記事:cedar3・記事一覧を見る

関連キーワード

関連記事