世界で原発に対する姿勢が一変、日本は「原発過敏症」を克服できるのか? (1)

2022年9月9日 08:04

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 「背に腹は代えられぬ」という言葉がある。切羽詰まった時に、窮余の一策を受け入れなくては「元も子もなくなる」ということだ。

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 世界は地球の温暖化を防止するために、脱炭素の推進を共通の目標としている。石炭や石油に依存してきた社会が、今までの生活を大きく変えなくてはならない節目にある。自動車業界を席巻しているEV化の動きも、このテーマに沿ったものだ。

 太陽光、風力、地熱などの再生可能エネルギーを過大に持て囃す向きもあるが、ネックは人間の都合に合わせて太陽が照ったり、風が吹いたりしないことだ。大量の電気を効率的に貯蔵できる技術は確立していない。

 需要が過多になってエネルギー事情が逼迫することは避けなければならないが、供給が過多になってエネルギーを無駄にするようでは意味がない。蓄電技術が革新の時を迎えていないのに、再生可能エネルギーへの依存を高めることは社会のリスクにもなり得る。

 東日本大震災をキッカケとして、世界の原子力発電所に向けられる視線は一気にネガティブになった。ドイツには稼働に至らなかったものも含めて、合計25基の発電用原子炉が建設されていた。当時メルケル政権下にあったドイツが、11年5月に段階的に廃炉を進めると決定。廃炉計画は最終段階にあって、現在稼働中の3基も年内に停止して、原発への依存から完全に離脱する方向に進んでいた。

 このエネルギー政策の大転換を担保していたのが、ロシアからの天然ガスの輸入だった。天然ガスの潤沢なロシアから、パイプラインを引いて供給を受けるシステムが、完成を目前にしていた時期に発生したのが、ロシアによるウクライナへの侵攻だ。

 西側諸国がロシアに経済的な打撃を与えて、継戦意欲の減退を狙うのは当然の成り行きだ。ロシアとの経済的な間口の縮小を目的とするから、エネルギーの多くをロシアに依存する体質になっていたドイツも、ロシアからの天然ガス依存を続ける訳には行かなくなった。

 そこで背に腹は代えられずに一部原発の稼働を続けることにしたのだ。ドイツ社会も状況を認識していたと見えて、8月に独メディアが公表した世論調査によると、原発の稼働継続を求める割合が8割に達した。

 元々原発への抵抗が少ない英仏はもっと前向きだ。英国は最大8基の原発を30年までに新設する方針を掲げ、フランスも最大14基の大型原発を50年までに建設する方針だ。

 米カリフォルニア州では、最後まで残っていた原発の稼働期間を30年まで延長する支援措置を決めた。ベルギーは、3年後の閉鎖を予定していた原発の稼働を10年間延長することを決めた。エネルギー安全保障に対する欧米の姿勢は一変した。(続く)(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る

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