重水素を常温で効率的に水素と分離する技術 原子力機構らが実証

2022年9月2日 16:52

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水素と重水素の混合ガスから、重水素を量子トンネル効果によって濃縮分離する概念図(画像: 日本原子力研究開発機構の発表資料より)

水素と重水素の混合ガスから、重水素を量子トンネル効果によって濃縮分離する概念図(画像: 日本原子力研究開発機構の発表資料より)[写真拡大]

 日本原子力研究開発機構(原子力機構)、東京大学、北海道大学などの研究グループは8月31日、グラフェン膜によって重水素と水素を常温で効率的に分離する技術を実験的に実証し、そのメカニズムを理論的に解明したと発表した。

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 重水素は、半導体の高耐久化や光ファイバーの性能向上に使われ、核融合発電の燃料としても期待されているが、これまでその製造には高いコストがかかっていた。研究グループによれば、今回の技術を使えば、重水素の製造にかかるコストを大幅に下げることができるという。

■核融合発電と重水素

 核融合発電は夢のエネルギーと呼ばれる。それは、核融合発電が、原理的に暴走することがなく安全性が非常に高いことに加え、燃料となる重水素などが海水中に無尽蔵に存在し、さらにいわゆる核のゴミも出さないためだ。

 現在、実用化に向けて世界中で研究開発が進められており、国内でも今秋には量子科学技術研究開発機構が、世界最大の核融合実験装置JT-60SA(SA)を本格的に稼働する予定になっている。

 ただ、その燃料となる重水素は、水素と分離するために、非常に低温(-250度)にしなければならない上に、その分離の効率も悪く、製造に高いコストがかかっていた。

 そこで研究グループは、グラフェン膜に着目。グラフェン膜は、炭素原子1個からなるシート状の物質で、常温で効率的に水素と重水素を分離できることが示唆されていた。

 だがこれまで、このことについて、実験的な確証は得られておらず、そのメカニズムについても議論があった。

■グラフェン膜が水素と重水素を分離するメカニズム解明

 そこで研究グループは、実験装置に、重水素イオンと水素イオンが発生する電極(+の電極)をグラフェン膜で覆うなどの工夫を施し、グラフェン膜が重水素と水素を効率的に分離することを実験的に確認することに成功した。

 これは、重水素イオンと水素イオンでは、グラフェン膜の通り抜けやすさが異なるためだと考えられる。研究グループでは、モデルを使った理論計算により、その具体的なメカニズムが量子トンネル効果によるものであることも突き止めた。

 量子トンネル効果とは、水素などの小さな粒子が、波としての性質によって、グラフェン膜などの障壁をすり抜けることをいう。

 研究グループでは今後、今回の研究成果を設計指針に活かし、常温で高効率に水素と重水素を分離するデバイスの開発を目指して、グラフェン膜以外のナノ材料についても、研究の対象を広げていきたいとしている。(記事:飯銅重幸・記事一覧を見る

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