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ネットの新暗号にIBM方式が選定、NTT方式の世界標準化は夢のままに終わる!
5日、米国立標準技術研究所(NIST)は、次世代のインターネットセキュリティの要として、米IBM等の開発による「CRYSTALS-KYBER」という暗号方式を選定したと発表した。
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世界各国でしのぎを削る開発競争が行われている「量子コンピューター」は、現在最高の計算速度を誇るスーパーコンピューターですら1万年は掛かるという計算を、わずか数分で解き明かすという圧倒的な計算能力が見込まれている。開発が実現した暁には、創薬期間の短縮など人類の将来に圧倒的な恩恵をもたらすと期待されているが、その驚異的な能力をもってすれば現在ネット上で利用されているセキュリティは、意味を持たなくなる。
現在の暗号系は因数分解の計算に多大の時間が掛かるところにミソがある。理論的には膨大な時間を掛ければ解析は可能だが、何十年も経ってから回答を得ても無意味なので、現実的には解読不能とされている前提が崩壊するからだ。1990年代後期から世界中のネット取引で利用されているRSA方式による暗号は、「アッ」という間に解析される恐れが高まっていた。
こうした懸念を抱いたNISTは新型暗号の公募を16年末に開始し、17年末には50弱の第1次候補が選定されていた。その後19年1月に20弱が第2次候補となり、20年7月に最終候補として、(1)NTTと米クアルコムのグループ(2)IBM(3)1425年設立のベルギーのルーベン・カトリック大学(4)米イリノイ大学、の4候補に絞り込まれた。(1)~(3)のグループは数学の格子問題を応用し、(4)は数学の符号問題を応用しているという。
研究の王道には多くの開発者が集まり、異端はわが道を行く風の孤高の歩みになる。王道を選択した中から覇者が生まれるのが一般的だが、異端が生み出す独創的な発想力が評価されることもある。今回は数学の格子問題を応用した(1)と(2)、(3)の中から、(2)のIBM方式が採択されたから、王道が栄冠に辿り着いたと言える。
NTT方式の開発に深く関わったとされる東京大学の高木剛教授は、「(IBM方式では)安全性の解析がしっかり行われていた」と発言したことが伝えられている。安全性に加えて、情報を暗号化したり復元したりする際の所要時間が一番短いとの評価があるので、セキュリティと使い勝手のバランスが評価された訳だ。
NISTが採択した「CRYSTALS-KYBER」という暗号方式は、米国政府公認というお墨付きにより事実上の世界標準方式となる。米グーグルやマイクロソフト、アップルなどの米テック企業は、いずれブラウザーと呼ばれるネット閲覧ソフトに新暗号を組込み、通信の安全性をアピールすることになるだろう。関連する新暗号マーケットは急速な拡大が予想されており、関連ソフトやデバイスの世界市場は28年に約4400憶円に達するとの試算もある。
世界標準への夢を断たれたNTT方式だが、ICカードのように容量が限られているデバイスに、組込みやすという利点は認められているので、生活の中に静かに浸透することは十分考えられるようだ。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る)
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