関連記事
ビッグバン宇宙を実験室で再現できる理論を構築 名大らの研究
トポロジカル物質のエッジで曲がった時空が生じる性質を応用し、2次元膨張宇宙(空間1次元+時間1次元)の量子場として記述。半導体で再現させることが可能なことを理論的に示した。(画像: 名古屋大学の発表資料より)[写真拡大]
ビッグバン理論の原型は1927年に既に提唱されていたが、それが主流になったのは、1964年に宇宙マイクロ波背景放射が発見されて以降のことである。
【こちらも】宇宙の年齢論争に終止符か? アカタマ宇宙望遠鏡による観測データ
宇宙マイクロ波背景放射とは、ウィキペディアによれば「天球上の全方向からほぼ等方的に観測されるマイクロ波である。そのスペクトルは2.725Kの黒体放射に極めてよく一致している」とされる。これが宇宙が特異点からの爆発的な膨張で始まったことの決定的な証拠であると考えられるようになり、定常宇宙論VSビッグバン理論の論争に終止符が打たれたのだ。
ビッグバン理論を支持する状況証拠は見つかったものの、その確かさを再現実験で確かめることは不可能と考えられてきた。だが名古屋大学の研究者らは5月17日、それを可能にする理論を発表した。
名古屋大学の発表によると、「トポロジカル物質の一種である量子ホール状態のエッジを膨張させることで、ビッグバン宇宙の始まりで起こる物理を検証できる理論を構築」し、「ホーキング博士らが予言していた、急膨張するインフレーション宇宙で起こるホーキング輻射や、宇宙の構造形成の起源を擬似実験として検証できる可能性」も示したという。
トポロジカル物質は、試料の端(エッジ)以外は絶縁体であるにもかかわらず、試料の端や表面が金属的で電気が流れる性質を示すものである。通常の物質は原子どうしが化学結合で結びついているために、端か否かによって電気的性質が変わることはないが、トポロジカル物質では原子どうしが特殊な形で結びつき、端(エッジ)と端以外の場所(バルク)で異なる電気的性質を示すのだ。
ビッグバンは4次元宇宙空間(空間3次元+時間1次元)での現象だ。今回の研究では、トポロジカル物質のエッジで曲がった時空が生じる性質を応用し、2次元膨張宇宙(空間1次元+時間1次元)の量子場として記述。半導体で再現させることが可能なことを理論的に示したのだ。
ビッグバンと今回示されたモデルとの違いは、空間次元が3次元か1次元かという点だけで、単純モデルでビッグバンの考察の可能性を示唆した意義は大きい。
今回の研究は、名古屋大学、東北大学、九州大学の研究グループにより行なわれ、その成果は、専門誌「Physical Review D」誌のオンライン版に2022年5月13日に掲載された。(記事:cedar3・記事一覧を見る)
スポンサードリンク