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9月3日に公開されたマーベル・スタジオの映画『シャン・チー/テン・リングスの伝説』はアジア人のヒーローを主人公に据えた画期的な作品だ。
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■『シャン・チー/テン・リングスの伝説』とは
地上最強の拳法の達人・シャン・チーのオリジン・ストーリーに焦点を置いたこの作品。マーベル・コミックの映像化シリーズであるマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)における、25本目の実写長編映画となる。
2019年に公開された『キャプテン・マーベル』以来2年ぶりの新ヒーロー登場、しかもMCU史上初のアジア人の主役ということで注目を集めていた。公開週末興行収入は7,550万ドル(約83億円:米Variety調べ)で『ブラック・ウィドウ』の約8,000万ドルにはとどかなかったものの、まずまずの滑り出しだ。
今回は、この映画でシャン・チーの人生を大きく揺るがすことになる父・ウェンウーの名セリフをとりあげたい。ちなみにウェンウー役を演じたのは、2000年に『花様年華』で香港人として初めてカンヌ国際映画祭男優賞を獲得した伝説的名優・トニー・レオンである。
■Have you been practicing your English?
シャン・チーは14歳のとき父の命令でアメリカに渡ってから、そのままアメリカで成長した。彼がアメリカの生活に適応できたのは、小さいときから父に英語を学ばされていたことも大きな要因だった。
ここに紹介したセリフはまだ子どものシャン・チーに「英語の勉強をしたか」と確かめるウェンウーの言葉である。
Did you practice your English?とほとんど同じ意味であるが、現在完了進行形を使っていることがポイント。過去形よりも現在と関連が強いニュアンスで、継続して学習することを強調するセリフになっている。
■I told my men they wouldn’t be able to kill you if they tried. Glad I was right.
自分の厳しい指導で武術を学んだシャン・チーは簡単に殺されない、という父・ウェンウーの自信を表すセリフである。
あることが実行可能であることを意味する英語は、大まかに言ってcanとbe able toの2つがある。助動詞のcanと異なりbe able toはさらに他の助動詞と組み合わせて含みを持たせられるので便利な表現だ。
ここでとりあげたセリフでは文末の譲歩を表すif節との組み合わせで、「殺そうと思っても殺せない」という意味になっている。
■You walked in my shadow. I trained you so the most dangerous people in the world couldn’t kill you.
今回の映画の大きなテーマは、シャン・チーがいかにして父・ウェンウーの呪縛から解放されるか、ということ。このセリフは、シャン・チーを地上最強の暗殺者に教育したウェンウーの影響がどれほど大きいかを強く印象づけるものだ。
Walk in a person’s shadowは「人の影響のもとにある、人に追従する」という意味のイディオム。
2つ目の文のsoの後ろにはthatが省かれており、「世界で最も危険な人の手によっても殺されないようにお前を教育した」と目的を表す。So (that)はin order thatと同じ意味であるが、使用頻度が高い。これに対してin order thatはよりフォーマルな表現である。
■He gave his figurehead the name of a chicken dish. It worked. America was afraid… of an orange.
秘密組織「テン・リングス」とそのリーダーであるマンダリンは、『アイアンマン3』(2013年)ではアメリカの科学者がテロ活動を行うための隠れ蓑にすぎなかったというオチだった。
この結末は原作コミックのファンの間で賛否が分かれ、マーベル・スタジオはこの直後に短編映画を製作して本物のマンダリンがまだ存在することにしていた。
映画「シャン・チー」ではついにマンダリンの正体が明かされたわけであるが、このマンダリンという呼び名はテロリストが勝手につけた名前である、という結論になった。
英語のマンダリンは、中国の官吏を指す言葉から転じて標準中国語も意味する。さらに中国清朝の官吏の服の色と似ていることから、ウンシュウミカンの近縁種の果実であるマンダリン・オレンジを指すこともある。
ウェンウーの正体がわからなかったので「アメリカのテロリストは名ばかりの頭領に鶏肉料理の名前をつけた」というこのセリフは、アメリカ風中華料理にちなんだ冗談。
アメリカ最大の中華料理レストランチェーンのひとつ「パンダエクスプレス」のメニューにもオレンジ・チキンに似た鶏肉料理「マンダリン・チキン」が存在する。
■Burn it down.
映画の終盤で抵抗する村を「焼き討ちにしろ」と部下に命じるウェンウーのセリフ。
Burn downは他動詞で建物などをすっかり燃やしてしまう、という意味。The White House was burned down by the British Army in 1814(ホワイトハウスは1814年にイギリス軍に焼き討ちされた)というように受動態でも用いられる。
息子を地上最強の武術家に育て上げるなど極端なところがあるウェンウーであるが、その内面には家族に対する熱い思いがある。村を焼き討ちにするのも妻を救いたい一心だ。
トニー・レオンの渾身の演技で血が通った悪役となったウェンウーは、映画「シャン・チー」のもうひとりの主人公と言えるかもしれない。(記事:ベルリン・リポート・記事一覧を見る)
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