同盟の行方—NATOはインド太平洋で何を狙っているか(1)【フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議】

2021年1月18日 10:27

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記事提供元:フィスコ


*10:27JST 同盟の行方—NATOはインド太平洋で何を狙っているか(1)【フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議】
冷戦終結後、拡大傾向にあったNATOであったが、2014年のロシアによるクリミア併合を阻止できなかったことやトランプ米大統領のNATOへの不信感から求心力を低下させている。フランスのマクロン大統領は、加盟国であるトルコがNATOの合意のないまま、シリア国内で攻撃的行動に出ていることを批判したうえで、「NATOは脳死状態に陥っている」とまで述べている。NATO事務総長から指名された専門家会議が昨年11月に公表した戦略白書「NATO 2030-United for new era」は、このマクロン大統領の発言を受け、NATOが今後どのような同盟を目指すべきかを示したものである

同報告書は、NATOを10億人の人々と世界のGDPの半分が参加する最も成功した同盟と高く評価している。一方で、現状変更勢力の影響力拡大という不透明性が拡大しつつあるとの現状認識を示し、新たな脅威に対処するためにはNATOが政治的結束力を高める必要があると主張している。NATOの役割は、欧州大西洋地域における平和と安定及び法による支配という原則を守ることとしており、あくまでも主たる正面は欧州及び大西洋であることを明確にしている。国際情勢は対立と競争という構造に回帰し、ロシアと中国を現状変更勢力と位置付けている点は米国国防戦略と同じである。しかしながら、その脅威の程度は異なっている。

ロシアは、NATO同盟国に対しあらゆる分野で脅威となっており、今後同盟に対する主たる軍事的脅威はロシアであると評価、「抑止」と「対話」という両輪での対応が必要と、従来の方針を改めて確認する内容となっている。

中国に対しては、ロシアに比較すると軍事的脅威は低いとし、NATOにとって経済的な競争者かつ重要な貿易相手でもあると評価している。一方で、大西洋、地中海、北極海というNATOの関心地域に影響力を拡大しつつあり、長距離ミサイル及び航空機、空母、原子力潜水艦という装備の充実に加え、宇宙における活動を活発化させるとともに核戦力を保有しており、注視が必要と警戒感を示している。中国に対し、「情報の共有」、「サイバー攻撃、情報戦への対応」、「科学技術の正しい評価と対応」、「欧州の安全保障に係る中国の活動の監視」及び「サプライチェーンの強靭化」といった点でNATOとして協力しなければならないと提言している。

インド太平洋方面においては、民主主義、自由そして法による支配の強化といった観点から、豪州、日本、ニュージーランド、韓国とのパートナーシップを強化し、今後インドとの関係強化も視野に入れる必要があるとしている。
昨年12月31日付で読売新聞は、ドイツのクランプカレンバウアー国防相がインド太平洋地域に独軍の艦艇を派遣する考えを示したと伝えている。同相は、インド太平洋地域の「安定を乱すどんなことも即座に欧州に影響を及ぼす」との見方を示した。

欧州諸国のインド太平洋への関心の高まりはドイツだけではない。2019年5月、フランスは空母シャルル・ド・ゴールをインド洋に派遣、日本、米国及び豪州と4か国共同訓練「ラ・ペーズ」を実施した。イギリスも空母「クイーン・エリザベス」をインド太平洋方面に派遣することを明らかにしている。これらの動きは、NATO 2030が出される前からの動きであり、同文書の策定に大きな影響を与えたものと考えられる。しかしながら、欧州諸国のインド太平洋への関心は、必ずしも日米と一致しているとは限らない点に注意が必要である。

サンタフェ総研上席研究員 末次 富美雄
防衛大学校卒業後、海上自衛官として勤務。護衛艦乗り組み、護衛艦艦長、シンガポール防衛駐在官、護衛隊司令を歴任、海上自衛隊主要情報部隊勤務を経て、2011年、海上自衛隊情報業務群(現艦隊情報群)司令で退官。退官後情報システムのソフトウェア開発を業務とする会社において技術アドバイザーとして勤務。2021年から現職。

写真:代表撮影/ロイター/アフロ《RS》

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