AI導入でイネの品種改良を大幅に加速 農研機構

2021年1月10日 08:31

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育種プロセスの概要(画像: 農業・食品産業技術総合研究機構の発表資料より)

育種プロセスの概要(画像: 農業・食品産業技術総合研究機構の発表資料より)[写真拡大]

 近年の農業においては、激しさを増す気候変動や国際競争に対応するため、これまで以上に品種開発の加速や効率化が求められている。イネのような穀物の品種改良は、膨大な遺伝子情報が関わっているため大きな労力と水田が必要であった。

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 その課題に対して、AI技術を応用したアプローチを試みている農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)は8日、AIによる品種改良の予測に必要なイネのゲノム情報に関して、大規模データベースを整備したと発表した。

 これまでにイネの耐病性改良などにおいては、「DNAマーカー選抜」と呼ばれる手法が利用されてきた。DNAマーカー選抜はゲノム情報のごく一部に着目することで、その品種の形質を推定し選抜を行う手法である。

 耐病性などの形質は、関わるゲノム情報が比較的少ないため、DNAマーカー選抜を利用することが十分可能であった。しかし収量性などの農業上重要な形質の多くは、多数の遺伝子が複雑に関連するため、ゲノム情報全体をもとにした選抜法でないと対応が難しい。

 そこで農研機構は、各品種の形質とゲノム情報全体との関係をAIに学習させて予測する、「ゲノム選抜AI」の構築を行っている。構築には、茨城県つくばみらい市における試験で得られた129品種のゲノムデータを整備し、利用。データの解析には、農研機構AI研究用のスーパーコンピュータ「紫峰」が活用されている。

 ゲノム選抜AIによる予測値は、多くの形質について高い精度で実測値との相関が示されたという。特に穂数、穂長、精玄米重、玄米品質などの形質において実測値と高い相関係数が得られた。

 今後は、農研機構内の全てのデータを用いて、ゲノム選抜AIの構築が2020年度末まで継続される。また、今回の手法は、苗の段階で得られるゲノム情報から形質を予測できるという点において、非常に大きな意義を有する。イネの段階までの育成であれば手間と時間を大幅に節約でき、交配から品種育成までの期間を2年程度短くできる可能性があるという。

 今回の研究成果によって、イネの品種改良が大幅に加速・効率化することが期待される。

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