数億光年離れた天体からの信号で光格子時計の周波数を補正 情報通信研究機構

2020年10月8日 11:11

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8,800km離れた日本のストロンチウム光格子時計とイタリアのイッテルビウム光格子時計の周波数差を直径2.4mのアンテナを用いて天体電波観測技術(VLBI)で16桁の精度で計測する技術(出典:情報通信研究機構)

8,800km離れた日本のストロンチウム光格子時計とイタリアのイッテルビウム光格子時計の周波数差を直径2.4mのアンテナを用いて天体電波観測技術(VLBI)で16桁の精度で計測する技術(出典:情報通信研究機構)[写真拡大]

 情報通信研究機構は6日、数億光年の彼方にある天体からの信号を用いて、超高精度光格子時計の周波数を補正する技術を開発したと発表した。

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 光格子時計とは、ストロンチウムなどの原子が、特定の周波数を持つ光を吸収することを利用して時間を計測する、超高精度の時計だ。1秒の長さの現行の国際標準であるセシウム原子時計に比べ約100倍の高精度を持ち、十数メートルの標高差による重力の違いすら識別が可能であるという。

 アインシュタインの相対性理論では、時間は重力が大きいほど進むのが遅くなるとされている。だが重力の大きさの違いが時間の進み方の差となって検出できる量はごくわずかであり、よほどの精度を持った時計でないとそれを検知することはできない。ましてやたった十数メートルの標高差も検知できる技術は他にない。

 だが光格子時計は、その精度の正確さを担保するために、世界各地にある光格子時計の測定結果を正確に補正する技術が必要となる。たった十数メートルの標高差でも時間の差が生じてしまうということは、測定場所の違いによる測定時間差の補正がもしも不可能であれば、せっかくの高精度も何を基準として厳密な正確さを保証しているのかが曖昧になってしまう。

 今回公表された手法は、日本のストロンチウム光格子時計とイタリアのイッテルビウム光格子時計の周波数差を、直径2.4mのアンテナを用いて、天体電波観測技術(VLBI)により16桁の精度で計測するというものだ。わかりやすく言えば、およそ8,800km離れた日本とイタリアにおいて、数億光年の彼方にある電波源天体から届く電波の到達時間差を利用し、各地の格子時計の周波数差を検出する技術となる。人工衛星を電波源とする場合と比べて、観測地と人工衛星の位置関係に起因する時間的あるいは地理的制約を受けない点も見逃せない。

 従来VLBIでは、2GHzと8GHzの周波数の電波による観測しかできなかったが、新しく開発した広帯域観測システムは、3-14GHzの広い周波数範囲の任意周波数を1GHzの周波数幅で観測できる。このため従来技術と比べて、電波到達遅延時間の計測制度を飛躍的に向上させることに成功したという。

 この技術により、世界各地での光格子時計の観測データについて、一元化利用(つまり標準時の安定化運用)が可能になるだけでなく、遥か彼方にある宇宙の電波源を複数の周波数で同時に観測するため、宇宙の様々な天体の構造を解明していく電波天文学への貢献も期待されている。(記事:cedar3・記事一覧を見る

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