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見えない敵・新型コロナウイルスとの”静かな戦争” (5) 日本のPCR検査はどうあるべきか?
政府は、新型コロナウイルス感染症対策本部で「全国を対象にした緊急事態宣言の期限を5月31日まで延長する」ことを、4日に正式に決定した。
【前回は】見えない敵・新型コロナウイルスとの”静かな戦争” (4) 治療薬一番乗りは「レムデシビル」?
新型コロナウイルスは今なお全世界で感染を広げ、人類に共通する克服すべき喫緊の課題となっているが、その戦い振りは国によって大きく異なる。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への初期対応を誤り、世界に拡散させたと目されている中国は、国家の強権を発動してCOVID-19を封じ込めたと自慢している。
国民全体に免疫を持たせて、普段通りの暮らし振りを変えないようにしたのがイギリスやスウェーデンだったが、イギリスは途中から方針を転換した一方、スウェーデンは今も「三密」や「マスク」も気にしないで従来通りの暮らし振りの様だ。国家が進める壮大な実験の感があるが、目に付くのは日本の数倍以上に上るスウェーデンの死亡率の高さだろう。
台湾・ニュージーランド・韓国は既に沈静化させていることが国際的に評価されている。当初余裕を見せていた米国が、最大の感染者と死者数を計上しているのは皮肉というほかない。
日本では、PCR検査の実施件数が伸びないことがマスコミに再三叩かれている。政府は1月に新型コロナウイルスを「指定感染症」とする方針を打ち出した。ポイントは、感染の拡大を防止するため患者に強制的な入院などの措置が可能になることや、一定期間就労制限をさせることなどが可能になり、入院費用が公費負担となるので患者の負担が軽く済むところにあった。
また、感染症例を医師から保健所に迅速に届け出をさせることで患者数の把握が容易になったり、患者発生時の接触者調査が積極的に行えるという水際対策上の利点もあった。当初の思惑が実現されたのかという確認や、修正する必要の検証は適時行われるべきであり、別の話だ。
誤算だったのは、この感染症を高精度で診断するはずのPCR検査に、過度の期待があったことだ。
PCR検査は鼻咽頭粘膜の拭い液や痰にウイルスが存在するか、存在しないかで陽性か陰性と診断するが、患者と目される人たちから、ウイルスを含んだ検体が間違いなく採取できるとは限らない。感染後間もない時期でウイルスが鼻咽喉粘膜に到達していなかったり、採取者の技量が伴わず鼻咽頭粘膜を拭えていなかったりすると、感染者でありながら陰性と診断されることが避けられない。
ここで医師と保健所の立場の違いが浮き彫りになる。医師は患者を病苦から救い出すために診断の確定と治療を急ぐが、保健所は診断結果に極力誤差が出ないように慎重になる。テレビのワイドショーなどで「なかなかPCR検査をしてくれない」という意見が声高に語られるのは、この事情が理解されていないこともあるだろう。スウェーデンが集団免疫を求め、中国が国家権力で都市封鎖を実施し、日本は中庸を進んでいるということだ。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る)
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