【トヨタらしさ】を求めて人事異動 苦悩する巨大企業は「カイゼン」の原点に回帰

2020年3月8日 15:00

印刷

(c) 123rf

(c) 123rf[写真拡大]

 トヨタは3日、副社長職を廃止すると発表した。これまでの体制では、副社長6名と豊田章男社長の会議で方向性を出し、執行役員18名で実行を展開指示してきた。それを、1階層取り除き執行役員21名で横一線、同格として豊田章男社長の指揮下につくこととなる。

【こちらも】【ホンダが危ない】ホンダ系サプライヤー・ケーヒン (1/2) トヨタからの受注にかける思い

 この組織変更の狙いについて、豊田章男社長は「(社内組織の)階層を減らすことによって、私自身が、次世代のリーダーたちと直接会話をし、一緒に悩む時間を増やすべきだと判断した」と述べており、執行役員らと直接の会話を望んでいることがうかがえる。この背景については賛否両論が考えられるのだが、豊田章男社長は「トヨタらしさ」を回復することを模索し続けているのが明白だ。

 その理由の1つに、昨年の調査で「カイゼン」活動の参加率がかなり低迷していたことが判明し、俗にいうところの「組織の硬直化」、つまり「お役所仕事」のようになってきていたことが挙げられるだろう。長い間「業界トップに君臨してきたおごり」が蔓延してきているようだ。

 経営技術の一般論としても、それは組織には最も注意が必要な命題である。巨大組織となったトヨタでさえこうした悩みに襲われるのだということを身近に感じ、どうしたことか「うれしさ」や「安心感」さえ覚えてしまう。

 豊田章男社長は就任以来11年になろうとしている。これまでにも、2011年取締役を11人に半減させたり、「お飾り」になりがちなポストを減らしたりしてきたが、一方で、これが「ワンマン体制」になる危険もはらんでいる。

 「創業家」の強みは「長期経営戦略」を描き続けられることだが、これから30年間ほどで激変するであろう自動車業界おいては、「創業家」経営者の強みが出ていると言える。しかし、それが逆にワンマン体制となって組織の硬直化を進めてしまいかねないのが、「人間の性」だ。

 豊田章男社長は、【トヨタで働く者として守るべき基本姿勢は『素直、正直。ごまかさない、隠さない』ということ】とも述べており、これは「怠慢」であることを認めない、現代では通じにくい「精神論」であると社員や社会に受け止めかねられない内容かもしれない。現代の経営者像としては「ずるがしこい」ことが望まれており、カルロス・ゴーン氏のような生き方にあこがれている若者が多いのが現実だ。

 トヨタの注目すべき人事は、執行役員・近健太と前田昌彦の51歳の両氏をチーフオフィサーに据えたことだ。理系、文系の同じ東北大学の出身だ。要となってきた河合満副社長、小林耕士副社長などとは、20歳以上の年の差がある。明らかに、近健太・執行役員と前田昌彦・執行役員が次の世代を受け継ぐ候補者であるとみられる。

 豊田章男社長が掲げる「トヨタらしさ」を実務展開できる人材が、確保できていることを祈ろう。また、「トヨタらしさ」回帰が正しい方向性であることを、日本国民共通の利益であることを祈ろう。なぜなら、トヨタは日本経済を代表する企業であるからだ。そして、『素直、正直。ごまかさない、隠さない』が日本人としての代表的人格であるからだ。(記事:kenzoogata・記事一覧を見る

関連キーワード

関連記事