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ソフトバンクGと孫正義会長の天国と地獄 (3) ユニコーンの舞台裏と禁断の道
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ウィーワークの18年度実績は、売上高が約18憶ドル、純損失が約16憶ドルだった。IPOを目前にした19年上期(1~6月)の実績は、売上高が約15億ドル、純損失が約7億ドルと報告されていた。多少は損失の割合が減少しているが、今後経費の嵩む時期を迎えることを考えて、マーケットは大いに失望した。
【前回は】ソフトバンクGと孫正義会長の天国と地獄 (2) 美しいコワーキングスペースと、お粗末な事業計画
この陰では、ウィーワークの経理処理にリース費用を先送りできる変則的手法が用いられていることも指摘され、公表されている計数以上に実態の収支状況が悪いという疑念を、マーケットに与えてしまった。今のままでは、いつになったら利益を計上することができるのか判断できないビジネスモデルだ、という評価を受けてしまったのだ。
ユニコーンとして将来を期待されていた筈の企業が、経営難に喘いでいる実態が図らずも明るみに出た瞬間でもあった。
その上、代表者のアダム・ニューマン氏がIPOが迫っている時期に、自分の保有する株式の一部を7億ドル(約750億円)で売却するという不可解な行動や、ニューマン氏個人の所有不動産をウィーワークに高額な家賃で賃貸していたことも露見。上場により約570億ドル(約6.2兆円)にも上ると想定されていた企業価値は、あっという間に200億ドルを下回り、9月末には78億ドル(8400億円)まで値を下げて、要するに暴落した。
企業の代表者が企業と取引をすることは、非常にデリケートなことである。アダム・ニューマン氏のように、代表者の不動産を相場を大幅に超えた賃料で企業に賃貸すると、”利益相反行為”と見なされる危険性が非常に高い。俗に”会社を食い物にした”と言われる恥ずべき行為であるため、嫌悪感が投資家層に一気に広がったのであろう。
こうして、企業価値が大きく毀損したウィーワークのIPOは延期となり、SBGとSVFは7~9月期に約82億ドル(約8900億円・内訳SBG約5100億円、SVF約3800億円)の損失を計上するに至った。
10月になってSBGは、ウィーワークへの融資やウィーワーク株の追加取得で、最大95億ドル(約1兆円)の支援を実施することを発表した。既に投資した分を評価損として8900億円の損失を計上だけではなく、追加投資というベンチャーキャピタルの”禁じ手”を使わざるを得ない状況に追い込まれたということだ。
SBGとSVFがウィーワークに投資した合計額は103億ドル(約1.1兆円)に上る。今や資金繰りにすら重大な懸念が生じているウィーワークから103億ドルを回収する術はなく、取り戻せなくなった資金のことをサンクコスト(埋没費用)という。事業が破綻してしまうと取り返すことは不可能と確定するが、経営改善によって収益体質を確立し再度IPOに挑戦することができれば、回収の目も出て来る。孫会長兼社長は”損切り”するのではなく、会社を再建して将来回収する道を選択した。
SBGやSVFのようなファンドは投資行動の中に、成功による収益と失敗による損失を見込んでいる。駄目なものは深追いしない、というのが基本的なスタンスの筈だ。孫会長兼社長がセオリーを無視した追加投資を選択したのは、103億ドルという多額な投資を放棄することによって負うキズが如何に深いものかを物語る。
孫会長兼社長が投資判断を懺悔しながらも、あっけらかんに「まっかっかだ」と表現せざるを得なかった11月6日の20年3月期中間決算の記者会見で、「今回のウィーは例外だが、今後は救済投資は行わない」という方針を表明している。今回の救済支援が失敗に終われば損失の倍加につながる”禁断の道”を、歩み始めたと認めたようなものだ。(4)に続く。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る)
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