ウミヘビのゲノムから探る陸から海への回帰 京大などの研究

2019年9月12日 11:57

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沖縄のサンゴ礁を泳ぐイイジマウミヘビ(真ウミヘビ類)。写真提供:笹井隆秀(琉球大学)

沖縄のサンゴ礁を泳ぐイイジマウミヘビ(真ウミヘビ類)。写真提供:笹井隆秀(琉球大学)[写真拡大]

 ある種の動物は、いったん陸棲に進化した後海棲へと回帰した。と言うとたいてい真っ先に連想されるのはクジラかイルカであろうが、実は爬虫類にも一類だけいる。ウミヘビである。

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 今回紹介する研究は、ウミヘビに着目して海洋環境への再適応進化を分析するためにまずウミヘビのゲノム解読を行った、というものである。京都大学、理化学研究所、生命創成探求センターの共同研究によるものだ。

 ウミヘビはコブラ科ヘビ類に属し、海に生息する(実はウナギの仲間にもウミヘビと呼ばれるものがいるが、これは魚類であって全く無関係な種である)。ウミヘビ類はさらに大きく二つのグループ、すなわち卵生であり陸上で産卵を行うエラブウミヘビ類と胎生で生涯を海で過ごす真ウミヘビ類に分けられる。

 太古の昔、具体的には古生代のデボン紀から石炭紀にかけての時代、まず水中と陸上の両方で暮らす四肢動物が現れた。彼らの中からさらに陸だけで暮らせるものが登場し、これは羊膜類と呼ばれる。

 羊膜類の中で、その後海へと戻った種が三種ある。鯨類(クジラとイルカ)、海牛類(ジュゴンやマナティー)、そしてウミヘビ類である。羊膜類の海洋への再適応を考える上では、これまで鯨類をモデルとした研究が多く行われてきた。いっぽう、ウミヘビに着目した研究はあまりなかった。

 鯨類は始新世の初期、およそ5,500万年前に再び海で暮らすようになるにあたって嗅覚が退化し、それに関連する遺伝子領域に大きな変異が生じている。ウミヘビを研究する上でまず着目されたのは、ウミヘビ類にもそれと似たようなことが起こっていないか、ということであった。

 研究の結果として、ウミヘビにおいても嗅覚の退化は起こっており、陸に住むヘビと比べて使われなくなっている関連遺伝子が多いということが分かった。

 ちなみにウミヘビ類が海に再適応したのは鯨の仲間よりもずっと遅く、まだ1,000万年と経っていないと考えられている。ウミヘビにおける嗅覚の退化は鯨類のそれほどではないのだが、その理由は、退化が進むのに十分な時間が経過していないためではないかと考えられるという。

 なお、研究の詳細は、Proceedings of the Royal Society Bに掲載されている。(記事:藤沢文太・記事一覧を見る

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