【コストカッター、カルロス・ゴーン(8)】日本側経営陣は組合と連携せよ 社員はしっかりせよ

2018年12月8日 10:49

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■「労働者は株主と同等の権利を有している」

 近年、労働組合に参加している労働者が極めて少なくなり、企業経営に参加する意識もなく、株主の意向で給与などの配分も支配されているのが現実だ。それを日本企業の内部留保の増加、株主配当の増大が示している。ピケティ氏に指摘されるべくもなく、給与が抑えられれば、経済は停滞することが目に見えている。それでも経営者たちが動かないのは、株主の意向で動いているからだ。

【前回は】【コストカッター、カルロス・ゴーン(7)】ルノー(フランス政府)との攻防を想定せよ

 日本の労働基準法では『労働者は企業経営に参加する権利を「株主と同等」に有している』のであり、声を上げていかねばバランスが崩れていくのだ。無関心を装っていないで、「会社はだれのものか?」をもう一度思い出してみる必要がある。労働者はその権利を行使するには「団結」が事実上条件となるので、労働組合に参加しておくことが必要なのだ。終身雇用制が崩れている現代では、企業内組合ではなく、業種別組合に移行していく必要も出ているようだ。

 現代の企業経営者も、「労働者は株主と同等の権利を有している」ことを理解できていない者が大多数となってしまった。サラリーマン経営者が大多数となり、雇い主である株主の意向にばかり忖度して、労働者の育成に心を向けるものさえ少なくなった。これは「行き過ぎ」と「日本国憲法・労働基準法の精神」に照らせば感じるのだが、目の前の利害しか考慮できない心理からか振り返る者は少ない。ファンド全盛の極端な「アメリカ式資本主義」の広がりである。

■社員は経営に参加せよ

 プロキシーファイト(Proxy Fight)(委任状争奪戦)、TOB(take-over bid)(株式公開買い付け)、フランス側にはLBO(Leveraged Buyout)などの敵対的買収合戦が始まるとは考えにくいのだが、長期にわたるアンダーグラウンドでの闘争で日産側が取締役人事を掌握できない場合を考えると、株式比率で戦うよりも、日産労働組合と日産経営陣が共闘するほうがむしろ現実的であろう。左翼的労働組合の闘争の必要性はなく、きわめて労使協調路線で良いのだ。

 今回のカルロス・ゴーンの、権限集中による公私混同ともとれるやり方については、労働組合が機能していれば、「労使協議の中で取り上げる」ことで歯止めとなったはずだ。取締役会がゴーンに牛耳られていても、労使協議会での議題を左右し、「反対する労働者を業績が順調でリストラが必要でない時に排除する」ことはできない。さらに情報開示が進んで、このようなタックス・ヘイヴン(tax haven)(租税回避地)利用の疑いすらあるようなことは、許されないこととなったはずだ。株主が人事権を直接行使できない組合員は、貴重な牽制役となるもので、社員がしっかりしなければならない場面だ。最近の経営者は、社員が対等な経営主体だと認識できていないのであり、社員も、自分達には経営に参加する権利と責任が課せられていることを認識できていない。大変、怠慢な社会情勢なのだ。

 近年のファンド株主、経営者の暴走は、社員がその権利を行使してチェックするべきことも多い。村上ファンドのような活動も、防げる範囲が広がるはずだ。

■日本側経営陣は組合と連携せよ

 ルノーとの攻防を想定した場合、どの様な出金理由であっても、取締役会で承認を得なければ資金を動かせないので、ルノーと敵対関係になることを覚悟の上で周到な考えが必要であろう。すると、間もなくある会長人事、総会での取締役人事がカギを握ることとなる。日本側が主導権を取れなかった場合、日産はいずれルノー・日本支社となるのだろうか。

 当面の課題は、「会長人事」において取締役のメンバーと「会長職をルノーの人選で決めるのか?」、先の取締役会で決めたように「現取締役の中から決めるのか?」、「日本側の人物を選ぶのか?」が、覇権争いの勝負を決める始まりであろう。こうした情勢の中、日産の立場を支援できるのは「日本国民の世論」である。もし、安倍政権がこれを見逃してフランスに渡せば、「政権が持たないほどの世論の盛り上がり」が欲しいところだ。もちろん、フランス・マクロン大統領の場合はもっと切実な問題であろう。

 情けない話だが、こういった時こそ「直接の世論」として「日産の組合員」、つまり従業員の声をフランス側にアピールできる力が欲しい。「労働組合員」については、株主が直接人事を動かせる影響力はないのだ。こうした敵対的関係になったときは、「社員の力を団結して示す働きの組合」と日本側経営陣との連携が大きな力となる。残念ながら、現代の企業経営陣でその発想を持って日ごろから言動している人を見かけない。また、日ごろから「社員が組合を嫌う理由が理解できない場面」だ。自分達の雇用、給与などの権利を確保するのには、労働者は労働組合として「団結」しなければ無力なことを知るべきだ。現代若者たちに、特に心してもらいたい点だ。

■ピケティ氏が指摘する格差是正は、「組合」の役目

 フランスの経済学者トマ・ピケティ氏に言われるまでもなく、「格差社会」を是正する力として、労働組合が機能しなくてはならない情勢なのだ。労働者は団結しなければ、株主側と対等には立ち向かえない。自分たちの権利を守る手立てとしては、社員には労働組合が最後の砦だ。一方、経営陣には、労働組合は敵対する立場ばかりでないことを認識してもらいたい。取締役人事を有利に進めるためにも、組合を押さえた人物が力を持つことを覚えてほしい。そのため、取締役たる者は日ごろから組合員と接触して、その不満や要望を掴み、実現すべきところを見つけ出し、労働者自らが動けるシステムの構築に努力していなければならない。

 株主の力が強くなりすぎている現状を是正する力は、組合に他ならないのだ。そのため組合を育てておくことが必要で、参加者を奨励する必要がある。無茶な要求を株主がしていると感じたとき、雇われ取締役には力はないことを深く考えておいてほしい。カルロス・ゴーンの問題も、取締役会や監査法人だけでなく、組合が機能していればチェックできたはずだ。これを契機に「株主の権限と、従業員を代表する組合の権限」のバランスを取ることが、民主化となる方法論だ。

 次は:今、現実に起きているであろう抗争劇をシミュレーションしてみよう。(記事:kenzoogata・記事一覧を見る

続きは: 【コストカッター、カルロス・ゴーン(9)】 現実の「RAMAと総会での想定される抗争劇」

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