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「手を動かさない環境」に慣れてしまう怖さ
サイバーセキュリティを担当する大臣が、「自分でパソコンを打つことはない」と発言し、海外も含めたメディアから、批判と疑問の声が上がっています。
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「パソコンを使えない人が、サイバーセキュリティ対策をするなんて信じられない」という声に対して、「従業員や秘書にセキュリティの関する指示をしてきた」と反論していますが、技術に精通していない人物が最高責任者というのは、私は適切でないと思います。
本人がパソコンを使わないというのは、たぶんそうなのでしょうが、今の時代に一切の事務を手作業でやることはあり得ないので、代わりに周りの誰かがいろいろ処理しているのでしょう。
また、ある新聞にこんな記事がありました。
経団連の会長執務室に、初めてパソコンが備えられたとのことで、施策の進展状況などを会長が直接メールで関係者に聞くそうですが、今まで自らパソコンを使う会長はいなかったそうです。
職員の一人は「最初は本当に驚いた。主に紙でやり取りしてきた職員の働き方も変えようとしている」と称賛しているそうですが、「経済界をリードする団体がそのレベルなのかとあきれた」という声があります。
職員の感想だけを見ると、ずいぶん時代遅れで心配してしまいますが、今までの会長全員がパソコンを使えなかったとまでは考えづらく、使わずに済むように秘書や職員たちが世話を焼いていたから、連合会の仕事では使わずに済んでいたのではないでしょうか。
シニアの人はITが苦手、パソコンが使えないなどと言われますが、最近は必ずしもそうではありません。上記のエピソードでは、当事者が実際にどんなレベルかわかりませんが、これまでは周りの誰かが細かいことを処理してくれていて、パソコン操作など「自分で手を動かす必要がなかった」ということは確かでしょう。
私はこの「手を動かす必要がなかった」という環境に、どっぷり浸かってしまうことが、実は一番問題だと思っています。人にやってもらうことに慣れてしまって、いざそれを自分でこなさなければならなくなっても、誰かに依存しなければ対応できなくなるからです。そして、本人はそのことにあまり気づきません。
自分が手を動かさなくても物事が回っていくのは、組織で上の立場にいるなど、周りにサポートとしてくれるスタッフがいて、その人たちに指示して任せておけば良いという環境にいればこそ成り立つことです。
経営者や重役が、その人しかできないことに集中してもらうために、組織内で分業して対処するのはごく普通のことですが、そのレベルは置かれた環境によって違います。
大企業その他、サポートしてくれるスタッフが多い環境であれば、自分で手を動かす頻度は少なくて済み、そうでなければ自分でこなす比率は増えますが、このサポートが少ない環境から多い環境への転換は比較的順応しやすいものの、反対にサポートが多い環境から少ない環境への転換は、なかなか順応が難しくなります。
典型的なのは、大企業の管理職クラスが中小企業へ転職するようなケースですが、本人はできるつもりのことでも、手を動かさない環境に慣れてしまっていると、いつの間にかできなくなっていたりします。
これを私は、「自分で生きていく力がなくなること」と同じだと見ます。そうなってしまうことを防ぐには、すべてを他人に依存せず、意識的に自分で手を動かすことです。
特にITに関しては、今の時代に仕事をする上で、最低限のリテラシーは必須です。「パソコンは使わない」「部下に任せている」では成り立ちません。もしそれが許される環境にいたとすれば、それはかなり特別なことで、その環境への慣れは、自分の生きる力を失っていることです。
人任せにして自分では学ばず、手を動かさないでいることに慣れてしまっていたとしたら、それで困るのは結局自分自身です。
※この記事は「会社と社員を円満につなげる人事の話」からの転載となります。元記事はこちら。
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